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コメンテーターの資質


 昨日のMXテレビ・サンデーCROSSの討論コーナー、激論CROSSのテーマは「急転直下 南北・米朝首脳会談の行方は?/核保有国・北朝鮮と日本はどう向き合うか?」だった。この日のコメンテーターだった経済ジャーナリスト・磯山友幸さん、九州大准教授・施光恒さん、タレントのフィフィさんに、コーナーゲストの拓殖大教授・武貞秀士さん、デイリーNKジャパン編集長・高英起(こうよんぎ)さんを加えて、南北・米朝首脳会談の行方、北朝鮮の非核化、拉致問題の解決に向けてなどの議論を行っていた。議論は全体を通して見ると、武貞さんが対話重視、高さんが対話・圧力併進、磯山さんがどちらかと言えば圧力より、施光さんが圧力重視の立場で行われていたように自分は感じた。
 個人的には、武貞さんから磯山さんぐらいまでの主張には、勿論それぞれに賛同出来ない部分もあったが、あり得ない話とまでは言い難いそれぞれの見解として受け止めることが出来た。しかし施さんとフィフィさんの話には強い違和感を抱かされた。


 まず、施さんについて、彼は武貞さんが対話路線を重視するべきだという主張をしたことに対して意見を求められた際に、日本には米国などと異なり軍事力という背景がない為に、有効な交渉カードは援助などしか持っていないとした上で、

対話路線を模索しつつ、やはり日本も例えば、ちょっと過激かもしれませんけども、核武装についてどう思うかという国民的議論を盛り上げていくとか、又はアメリカから核を借りるというか、アメリカの核(兵器)を導入して、日本にその、使うかどうかの決定権を日本に与えるようにするとか、そういうことをやらないと、あまり実りある対話が行われない可能性がある。

と発言をしていた。流石に過激すぎると感じたのだろうか、MCの堀潤さんに「それは中々大変な道のりでは?国内向けの踏み絵をさせるような状態ではないか?」と指摘されていた。しかし彼は、これにも「そのような話が盛り上がれば交渉事を有利にする」と主張した。
 これまでの北朝鮮の姿勢を見ていれば、もし万が一日本で核武装論が盛り上がれば、北朝鮮は、自国への非核化要求は道理が通らないと考えるだろうことが予想できる。というかそもそも唯一の被爆国で、核禁止条約は棄権したが、別の核拡散に関する国際的な条約を提案している立場なのに、核武装論を盛り上げようなんて、自分にとってはあり得ない話でしかない。彼の主張の背景には、日本が北朝鮮に関する諸問題の交渉について、米韓に置き去りにされるかもしないという懸念が前提にあるようで、北朝鮮だけでなく米国に対しても存在感・発言力を高める為に必要なことだと考えているようだが、その為の日本の核武装論は本末転倒としか思えない。
 議論の最後で、参加者らにそれぞれの結論を求められた際にも彼は「気概」と書いたフリップを掲げ、

日本の政治家は、日本の国民の生命・財産、必ず守るという、そういう気概が必要じゃないかと。例えばアメリカに対してもですね「日本を置き去りにするなよ」と、「置き去りにするようなら、日本は核武装するかもしれんぞ」というような、それぐらいのプレッシャーをかけるぐらいにですね、日本の国民の生命を守る為なら何でもするんだっていうぐらいの、政治家が気概を見せて欲しい。

と述べていた。自分たちの主張を通す為に核をちらつかせるなんて正しく北朝鮮のやり口そのもので、そんな外交姿勢を自国政府に示して欲しいなんて絶対に思えない。また、自分たちの為なら、核武装も含めて何でもするなんてのは、○○ファーストと叫ぶ大統領や欧州各国のポピュリズム・ナショナリズム政党的な発想で全く賛成できない。寧ろ嫌悪感すら感じる。自分たちさえ良ければ何でもアリでは、結局憎しみを更に深めてしまう恐れの方が強い。それは過去の紛争・戦争の結果、どのような状況が生まれたかを考えればすぐに分かることだ。

次はフィフィさんの話についてだが、彼女の話はある意味施さん以下だ。何故なら、昨日の議論の趣旨からずれた主張を繰り返していたからだ。彼女は議論の中でMCの堀さんに意見を求められ、

私今話聞いてて、こんな大事な時期に、すごい国内というか国政が揉めてていいんだろうかって言うのを、すごい感じてます。確かに改ざん問題ってすごい大事な問題ですけど、でも国益を考えたら、すごく今の政権って言うのが揺らいでしまうというか、弱体化していくのは、すごいこういう時期、拉致問題とかも解決しないといけないって進んでいる時に、すごくあの、そこがすごく心配で、今の話聞いてたらやる課題はいっぱいあるのに、アメリカと北朝鮮の問題云々かんぬんで置き去りにされているより、もう、いろいろなものの課題が置き去りになってるようにしか感じなくて、こんなのでいいんだろうか、そこがすごく心配になってます。

と述べた。彼女が他の討論参加者の主張を聞いて何を感じるかは彼女の自由だが、それは議論のテーマからは外れた話だった。それを指摘した上で敢えて彼女に言いたいのは、こんな状態の中で、なぜ改ざんを議論しなければならないのかと言えば、それはこれまで政府が財務省・国交省に厳正な調査をさせるなど、積極的に実態解明に努めてこなかったかったからだ。もし実態解明に政府が積極的だったならば、問題提起から1年以上も経って新たな事実がボロボロ出てくるなんて状態にはなっていないだろう。それも確実に現在のような状況が形成された理由の一つで、「そんなことは全くない」とは決して言えない。しかもどの新事実も政権にとって都合の悪い情報を隠そうとしているように疑われるものばかりで、外交問題が深刻だからと棚上げできるような話とは一切思えない。そんな考え方はある意味では、外に敵を作って内政問題から目を逸らせようと画策する北朝鮮当局のような思考ではないのか。
 彼女は議論の最後の結論で、「国民もメディアも、国政でもめてる場合ではない」というフリップを掲げ、

(この番組以外の)他のワイドショーのようなニュース番組見ていると、芸能のネタだったりとか、結構大事なこと話合わないといけないことあるんだろうなってのを感じました。

と述べていた。要するに「国民もメディアも改ざん問題とか芸能ネタで騒いでる暇があったら、外交問題をもっと考えろ」と言いたかったのだろう。改ざん問題の責任が主に行政にあるということを完全に無視しており、全く容認できない。しかも、自分はこの1週間改ざん問題に強い関心を持ち、見られる限りの報道番組を見ていたが、米朝首脳会談・米国務長官解任・北朝鮮の高官がスウェーデンを訪問したことなど、北朝鮮・米国関連の案件を、多くの番組で改ざん問題の次に時間を割いていたように思う。改ざん問題が大きな注目を集める中で、米朝首脳会談が現実的になったこと、ティラーソン国務長官が突如解任されたことなどを受けて、北朝鮮と米国の外交という視点に絞った報道・討論番組は、NHKを始めとして、いくつかの局で放送されていた。自分は平日日中の所謂ワイドショーは見ていないので、どうだったのかは知らないが、彼女が芸能ネタ云々と言っていることを考えると、彼女は主に日中のワイドショーだけを見てそのように感じているのだろう。
 彼女がマスコミをどう断じようと、明らかな虚偽でなければ、ある意味では問題ないだろう。だが「国民が必要以上に騒いでいる」とフィフィさんが批判するなら、自分は「フィフィさんのような人達は、公文書改ざんという、戦後の政治史上でも最も深刻な問題の一つを軽視しすぎ」と反論したい。

 MXテレビのモーニングCROSS・サンデーCROSSは様々な主張を取り上げる番組であることがその特徴だし、施さんやフィフィさんのような見解は全く言語道断なので放送するべきではない、なんて極端なことは言わないが、自分にとっては容認できるラインから外れた主張に見えてしまい、かなり残念な気分にさせられた。

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