3/16の投稿でも書いた、前川・前文科事務次官を総合学習の授業の講師に招いた中学校に、文科省がその内容を問い正したり、「前川氏を、授業の一環での講演に相応しいと思っているとは。どういうことだ?」と言わんばかりの事実確認を行っていた問題。問題発覚にあたって文科省は、
前川氏が中学校で講演したことは、地元紙の報道で把握した
中学校に質問をしたのは、文科省の判断
という見解を示したと各メディアで報道されていた。
しかし昨日・3/19に野党議員が開いた文科省へのヒアリングの中では、「(前川さんが講演を行い、地元紙が報道した2月)17日に(文科省へ)外部から問い合わせがあった」こと、「週明けの(2月)19日に、これを受けて新聞報道を入手して、その内容を確認した」としており、初報とは少しニュアンスが変わっている。野党議員に「外部とは誰か?」と問われると文科省の担当者は「外部の方がどなたかについては、答えを差し控えさせていただく」と回答を避けた。
今日のTBSニュースの記事「前川氏”授業”文科省が自民議員と「質問」”すり合わせ”」によると、文科省が前日、回答を避けた外部の人間とは、自民党の文部科学部会に所属する池田佳隆衆議院議員と赤池誠章参議院議員だそうで、池田議員に関しては、文科省が中学校に送った質問内容を事前に見せ、また修正もしていたことを、林文科大臣が会見で明らかにしたそうだ。また、3/19の時点で既に文科省に問い合わせた外部の人間は、自民党文部科学部会に属する衆議院議員との報道がされており、TBSは部会長である赤池議員にインタビューを行っていたが、議員は取材に対して「当該議員に聞き取りを行い、翌日(3/20)説明する」と回答していた。本人が当該議員だったわけだが、一体どんなつもりでこのような発言をしたのだろうか。自分には「何とか池田議員だけが問い合わせたことに出来ないか」と画策している最中に取材を受けたのかもしれないと思えてしまう。野党からヒアリングを受けた文科省の担当者が、外部の人間が誰であったかを隠そうとしていたことも、そのように推測する理由だ。
赤池氏も今日会見を開き、その中で、前川さんが授業を行った翌日、文科省の官房長にメールで
(前川さんが授業を行ったことを報道した地元紙の)記事の概要を、こういうことが報道されています、と説明した後に、国家公務員法違反者が教壇に立てるのですか? 確認をお願いします
と問い合わせたこと、それに対して官房長から「対応します」と返信があったと話し、その上で「このような紹介は日常的に行っているもので、圧力には全くあたらない」という見解を示したそうだ。
前川さんは文科省の天下り問題の責任をとって事務次官を辞職しているのだから、教壇に立つのに相応しくないと感じる人もいるだろうし、もしかしたらそのように思う中学校のある地域の住民か誰かが、2人の議員のどちらかにその旨陳情し、赤池議員はそれを文科省に伝えたのかもしれない。そして、彼らはその陳情者に影響が及ばぬようにその点には触れていないのかもしれない。ただ、もしそうだったとしても、教育基本法の理念を鑑みれば、文科省から中学校へこの件のような事実確認が行われることが好ましくないということは、文部科学部会に属する議員なら理解していて当然だろう。にもかかわらず、中学校に対する、まるで「前川氏を、授業の一環での講演に相応しいと思っているとは。どういうことだ?」と言わんばかりの質問内容を事前に把握までしていた、赤池議員が質問内容を確認し修正に加わったという報道はされていないが、同じ部会の議員がそれに加担している、その部会の長であることを考えれば、前述のような責任逃れ的な発言は説得力に欠けるようにしか思えない。
これらの議員2人もどうしようもないが、それ以上に残念、というか大きな不信感を感じるのは文科省や林文科大臣だ。文科省の判断で中学校に対する事実確認が行われた、という見解は、当初の説明では文科省の職員が地元紙報道を見たことがきっかけだったかのようなニュアンスだったが、実際は自民党議員らの問い合わせによるものであったこと、中学校への質問内容の作成に自民党議員が関与していたことから、ハッキリ言って事実に即した説明ではなかったと言わざるを得ない。言い換えれば、文科省の担当者は嘘を公然とついたと言えるだろう。また、このような事実と異なる説明を前提に、林文科大臣は「質問内容には誤解を招く点もある」とはしたものの、中学校に対して事実確認が行われたことは「問題はなかった」という見解を示したのが、その不信感の理由だ。
確かに、中学校に対して事実確認が行われたことが、厳密に法令に違反しているか否かについてはもっと議論が必要だろう。しかし、文科省がこの件に関して虚偽の説明をしたと言われても仕方がない状況であることには違いなく、それを根拠に「問題はない」という見解を示した文科大臣も、自分には同罪・共犯であるように思える。「文科大臣は下からの報告を信じただけで、寧ろ騙された側」と受け止める人もいるかもしれない。しかし、彼自身が文科省の最終責任者であることも事実で、逆に言えば、部下に騙されてしまうようでは組織を統率出来ているとは言えない、とも言えそうだ。何より今日の会見でも尚、林大臣は「文科省の判断だった」という見解を変えていない。
自民議員の関与を隠そうとしていたことは明白だし、財務省の改ざん同様、官僚に責任を押し付けて「はい幕引き」とは言えないような事態だと自分には思える。財務省の改ざん問題がなければ、もっと注目を浴びて槍玉にあがるような、深刻な案件ではないだろうか。
結局のところ、安倍政権下でこれまで度々起きてきた数々の隠蔽・改ざん・簡単に「廃棄したので不存在」とするような不適切な公文書管理と、この件の根っこも同じなのだろうと自分は感じる。政権積極支持者や危機感が未だに薄い与党議員などは「官僚の質が下がっただけで、現政権はそのとばっちりを受けており、寧ろ被害者だ。安倍首相以外だったらもっと状況は悪かっただろう」のような主張をする。それは、逆に言えば「現政権・安倍首相”にも”適切な行政機関の運営能力がない」と認めていることにもなりそうだ。こんなに行政の不祥事が頻発する政権が、日本の政治史上これまで幾つあっただろうか。安倍政権が他よりマシである根拠は一体どこにあると言うのか。
自分は野党と政権交代した方がいいと言っているのではない。勿論個人的には自民党以外の方が好ましいが、現状では現実的ではない。自民党内にだって安倍首相以外の人材はいるはずだ。そろそろ彼にはお引取り願いたい。彼の積極支持者はもう少し現実を直視した方がいい。そうしなければ、今後も内政は国会空転でどんどんボロボロになっていくだろう。空転の原因は追究の甘い野党側にもあるだろうが、問題の原因を作り、積極的に解決する姿勢を頑なに見せようとしない政権側の責任の方が確実に大きい。また、諸外国からも「日本政府は内政運営能力に欠けている」と評価され、まともに取り合ってもらえなくなる。要するに軽んじられ、将来的には都合よく利用される国になってしまいかねない。
安倍首相は昨年の衆院選の際に、臨時国会を冒頭解散させ「国難突破解散である」と声高に訴えていたが、はっきり言ってこれ程行政機関の問題が起きるようでは、その行政の長である彼こそが、まさしく”国難”そのものではないだろうか。