昨年の今頃、国会審議の中で首相は再三「印象操作は止めて頂きたい」という文言を用いていた。自分は彼がこの文言を用いることに強い違和感を抱いていた。何故なら、彼が「印象操作だ」と指摘する対象に、事実と明確に異なる表現があるとは思えなかったからだ。つい先日の国会答弁で首相は「改ざんされる前の文書を見ても、私や妻が関わっていなかったということは明らかだ」という旨の発言をしていた。確かに改ざん前の文書にも、首相や首相夫人が明確に国有地の不当な価格での払い下げに関わったとは書かれてはいなかったが、それだけで関わっていないことが明確化したとは到底思えない。逆に言えば、首相や首相夫人の関与が明らかになったとも言えない。要するに、改ざん前の文書に関与に関する明確な記述が無かったというのが事実であって、「関与が無かったことが明らかになった」という首相の答弁は、彼の言葉を借りれば正しく印象操作であると、自分は思う。
昨日のテレビ朝日・TVタックルに出演していた山口真由さんが、元財務官僚という視点から「佐川氏の昨年の答弁は、虚偽答弁とまでは言えないのではないか」という見解を示していた。彼女は、佐川氏の答弁は官僚が用いるロジックの上では問題があるとは言えないとしていたが、それは例えば「政治家の関与はあったのか?」という質問に対して、「不当な働きかけはなかった」と答え、(関与があったかどうかは定かでないが)”不当な”働きかけは無かったとしか言っていないと受け取れるということだった。
ハッキリ言って全然納得出来ない。官僚の世界では通用する話なのかもしれないが、国会での答弁は官僚に向けてしているものでなく、議員、というか国民にも分かりやすい、というか誤解を生むことがない表現が使われるべきだからだ。そもそも「関与があったのか?」という問に対して「関与があったかは定かでないが、」という前置きをせずに「不当な働きかけは無かった」としか答えないことは質問に明確に答えておらず、真摯な態度とは言い難い。山口さんの言い分が通用するのなら、国会での議論では、何かを明言しているようで、実際は何も言わないという、ある意味印象操作を駆使して責任逃れが横行している、要するに、国会議員も含めて無責任な話しか行われていないと受け止める人も決して少なくない状況になってしまうだろう。言い換えれば、国会の存在意義そのものの否定にすらなってしまうように思う。
昨日は自民党党大会が行われたようで、昨夜のテレビ朝日・サンデーステーションでは、参加した何人かの議員に対して「森友問題・財務省の公文書改ざん 誰が一番悪いのか」という質問を投げかけ、それぞれの見解を放送していた。「この質問を考えた記者なのか、ディレクターなのかは分からないが、あまりに子供染みた意義の薄い質問」というのが自分の第一印象だった。何故なら、自民党議員にそんな問いかけをしたところで、現時点で明確に「〇〇が悪い」と答える者がいるとは思えなかったからだ。その想像どおり、各議員「ひとりじゃないでしょ?」とか「連帯責任」とか「官僚も悪い」とか、誰の責任とも、誰と誰の責任とも言わなかった。
しかし彼らの発言を見ていて、自分のこの質問に対する印象は、子供染みた稚拙な質問から、それなりに意義のある質問に変わっていった。確かに予想通りの発言が並んでいたが、改めて目の当たりにすると「結局この人達は、問題の全容解明を望んでいるのではなく、誰の責任とするのが最も自分の党、というか自分の今後の政治活動・選挙結果などに被るダメージが少ないのかに主眼を置いているのではないか」という印象を受けた。また、「誰の責任ともしない有耶無耶の幕引きを望んでいるのではないか」という印象も浮かんできた。
また、財務省の公文書改ざん問題に関しては、財務大臣は一貫して「佐川の責任」と強く主張し、それを首相や官房長官らも否定していないのに、インタビューを受けた議員の誰一人として「公文書改ざんに関しては、佐川元理財局長の責任」と言わなかったのも興味深かった。それは裏を返せば、誰の責任とは名言しないが「麻生財務大臣の責任は重い」という思いの現れのように自分には見えた。このような一見稚拙な質問から、前述のような印象が引き出されることも事実で、それは視点によっては「印象操作」かもしれない。しかしそれにしても全く事実と異なる印象を与えるものではない。
印象操作=絶対的に肯定できない行為とは言えないということだと自分は考える。昨年の国会審議で首相は、印象操作=絶対悪かのような印象操作を行っていた、というのが自分の見解だ。それが、彼が昨年の国会審議で頻繁にその文言を用いていたことへの強烈な違和感の理由だ。
財務省の公文書改ざんにより、昨年森友学園問題に費やされた国会審議の時間の大部分は無駄になり、今尚去年と変わらないような話が繰り返されているのだと自分は考える。首相は昨日の自民党大会で「最終的な責任は行政の長である自分にある」とか「なぜこんなことが起こったのか徹底的に明らかにしなければならない」という旨の発言をしていた。しかし相変わらず調査を行っているのは、文書改ざんを行った財務省だ。また、首相は「自分や妻は関係ない」という話ばかりに終始しているようにしか見えない。首相は「責任は自分にある」とか「徹底的に解明」などの発言で、反省している風の印象操作に終始せず、もっと積極的な姿勢を行動で示して欲しい。これまでも「真摯で丁寧な説明」などと言っていたのに、この状況ではハッキリ言って騙されたも同然だと自分は思う。