昨日国会で行われた佐川・元理財局長の証人喚問。久しぶりにNHKの国会中継を録画して最初から最後まで目を通した。自分の率直な感想は「行政への信頼性だけでなく、国会の権威も地に落ちている」だった。喚問が行われる前の、大方の予想通り、佐川さんは刑事訴追の恐れを理由に軒並み証言拒否を貫いていたが、改めて目の当たりにするとそう思えてならなかった。喚問終了後、二階幹事長や菅官房長官ら、自民党や政府首脳は「首相や財務大臣らの関与が無かったことは明らかになった」という見解を示していたことにも強く落胆させられた。
佐川さんは、証言拒否を連発する中で、改ざんに関して、首相や首相夫人、財務大臣、総理官邸の関与は一切なかったことだけは明確に述べた。また、国有地の払い下げに関しても、改ざん前の文書に”特例”という文言はあるが、それは一般的ではない取引条件に関してのことで、首相や首相夫人・財務大臣・官邸などの関与があったという意味ではないという旨の発言で、要するに政治の不当な働きかけは一切なかったという、自身の昨年の答弁に虚偽はないという発言をしていた。
このような発言が、虚偽の証言をすれば罪に問われる証人喚問の場で行われたのだから、その信憑性は高く、要するに「首相や財務大臣らの関与が無かったことは明らかになった」という政権与党幹部の見解の根拠になっているのだろう。しかし、佐川さんは「関与はなかった」とだけしか言っておらず、合理性の感じられるその発言の根拠は一切示されなかった。自分には政権与党幹部らは、都合の良い部分だけにしか注目していないように思える。
そう感じる理由は、佐川さんの答弁の中には疑わしい発言もいくつかあったからだ。その最たる例が共産党の宮本岳志議員とのやりとりだ。宮本氏は、昨年の審議の中で、「森友学園との交渉記録・面会記録は全て残っているか」を当時理財局長だった佐川さんに質問し、それに対して佐川さんは「確認したところ、近畿財務局と森友学園の交渉記録はなかった」という旨の答弁をしている。更に、宮本氏が「いつ廃棄したのか」と問うと、文書の保存期間が1年未満という規定であることを前提に、「売買契約締結を以て、すでに事案が終了しているので速やかに廃棄した」と答えている。
この話と、交渉記録が改ざんされた文書から削除されていること、言い換えれば、佐川さんが昨年答弁した当時、交渉記録は廃棄されていなかったことを踏まえ、昨日の証人喚問の中で、宮本氏がその整合性について尋ねると、「(当該文書を廃棄したと言ったわけではなく、)本省での文書の取り扱い規則を確認した」と言っただけという旨の発言をしていた。佐川さんは一応、なぜそんな誤解が生じるような答弁を昨年したかについて、当時寝る間もないぐらい忙しく、丁寧さに欠けていたとしたが、自分にはそんな話は全く容認できない。どう考えても佐川さんの説明は不自然だ。
虚偽の証言をすれば罪に問われる証人喚問の場で行われたのだから、その信憑性は高く「首相や財務大臣らの関与が無かったことは明らかになった」という見解を政権与党幹部は示しているのだから、このような発言に関しても「虚偽の証言をすれば罪に問われる証人喚問の場での発言だから信憑性は高い」と考えているのだろう。それが政権与党幹部らに落胆させられた理由だ。
更に言えば、刑事訴追の恐れを理由に証言拒否を必要以上に行っていたとしか思えない佐川さんに対して、一切証言を促そうとしなかった衆参の予算委員会の議長が自民党議員であることも、与党への不信感を感じる理由だ。昨夜から今朝にかけて、テレビに出演しているコメンテーターには、中には弁護士などもいたが「刑事訴追の恐れを理由とした証言拒否は正当な権利の行使で仕方がない」という見解を示す者が少なくない。しかし、例えば共産党・小池晃議員とのやり取りの中で、「改ざんされた前の文書に首相夫人の名前があったのを見てどう思ったか」と問われ、佐川さんは「それはいつ見たかというこということだから答えられない」と、かなり拡大解釈をして証言を拒否していた。確かに小池氏の質問も下手で、当初いつ見たのかも聞いていたし、数回のやり取りの中で最終的に前述のような問に至ったことも事実だが、流石に佐川さんは極解して証言拒否していたように思えた。これでは証人喚問前に行った「何事も隠さず、何事も付け加えず証言する」という宣誓は何の意味もなさない。これは、自分の証人喚問を見た後の第一印象「行政への信頼性同様、国会の権威も地に落ちている」の根拠でもある。
自分も昨日の証人喚問の結果はこうなるだろう、結局何も分からないだろうという結果は想像していたし、質問力を含めた野党の対応にも落胆している。しかし、証人喚問の結果、佐川さんが整合性の感じられる根拠もなく「首相夫妻や財務大臣の関与はなかった」とし、更に、自分の責任は「刑事訴追の恐れ」を理由に明確化せず、理財局内部問題であることだけを強調しただけで、説得力のある根拠と思える証言を引き出せなかったのは与党側も同様だ。
一部で「証人喚問には何の意味もなかった」という見解もあるようだが、自分には政権与党幹部らが、大した根拠も示されなかったのに、佐川さんの証言の都合の良い部分のみに注目し、「首相夫妻や財務大臣の関与がなかったことが明らかになった」などと言い出したことには大きな意味があると思う。政権や与党には、強引にでも問題解決を演出し、さっさと幕引きを図ろうという意図があるのだろう。これで政権や与党の支持率が回復するようなら、この国では今後も不正が横行する状況が続いていくんだろうと自分は思う。
官僚による公文書改ざんという政治史上でもかなり深刻な事態が起きているのに、それに関して当時の担当部局の責任者も、その省の大臣も、行政の長である首相も、監督責任には一応言及するが、まるで「部下が勝手にやったこと」と言いたげにしか見えない。要するに、下々の者に実質的な責任を押し付け、管理者の責任は有耶無耶になっているようにしか思えない。佐川さんは一応その後就任した国税庁長官の職を辞してはいるが、昨日の証人喚問の態度を見る限り、責任を感じ反省しているようには全く見えなかった。あのような人物が官庁の中の官庁と言われている財務省の高級官僚だったことや、あのような人物を国税庁長官に任命したことを、首相・財務大臣が口を揃えて適材適所と言い続けていたことを、政権与党にはもっと深刻に受け止めて欲しい。