NHKニュースの記事「トランプ政権 貿易報告で日本に障壁撤廃求める」によると、アメリカ通商代表部は3/30に「貿易障壁報告書」を発表し、日本に対しては688億ドルの貿易赤字解消の為、牛肉やコメなどの農産物市場の開放を求め、また、「さまざまな非関税障壁によって日本の自動車市場への参入が妨げられ、アメリカ製の自動車の売り上げは低迷したまま」として、障壁を撤廃するように求めていく、としたそうだ。
通商部代表のライトハイザー氏は「トランプ大統領は外国の不公正な貿易障壁に対処する。われわれはアメリカが公正に扱われるようあらゆる手段を使う」と述べたらしい。
アメリカ政府の言う”公正”とは一体何を指しているのだろうか。3/29の投稿でも触れたように、”公平・公正・偏りがあるか否か”を判断する為の基準は決して一つではない。確かに日米間の貿易でアメリカ側に688億ドルの赤字があることは事実で、金額ベースで考えれば公平とは言えないかもしれない。また、アメリカ側が売りたい牛肉やコメなどの農作物に関して、日本は国内の農家を保護する政策を行っており、その点に関しても公平かどうかと言われたら、公平でないとも考えられる。
しかし、日本の自動車市場に関する批判は、アメリカ側の都合のごり押しとしか思えない。例えば、日本でアメリカ車以外の外国車も全く売れていないのなら、自国の自動車会社に有利な仕組み、要するに非関税障壁を利用して外国車を排除していると言えるかもしれない。例えば、日本では燃費性能をJC08モードという独自の測定法で表記しており、日本の自動車会社は国内向け製品をこれに最適化して開発している為、同クラスで実燃費を測定すると大きな差が出ない日本車と外国車でも、カタログ表記では日本車の方が過剰に性能がよさそうに見える場合もある。しかし、そのような一部結果的に不利な点があっても、日本でドイツ車ははっきり言って大人気だし、フランス車やイタリア車などEU諸国の自動車はそれなりに人気がある。何故それらの国の車が日本でも相応の人気があるのかと言えば、日本の道路事情を考慮して(イギリスなどでも各社販売しているという事情もあるが)右ハンドル車を用意したり、日本国内でも相応のアフターサービスを提供するなどの企業努力があるからだと自分は思う。
要するに、アメリカ側が言う非関税障壁が日本の自動車市場にあるとは到底思えない。日本には日本の道路交通事情に合わせた諸所のルールがあるのに、「アメリカ車が思うように売れないから、アメリカ車に有利なルールに日本の国内ルールを変えろ」と駄々をこねているようにしか見えない。”駄々をこねる”などと書けばどこか可愛らしさもあるが、実際は、下請け企業に無理難題を押し付けるごり押しパワハラ野郎のようなものだ。
確かに、80年代から90年代にかけてのアメリカ車にあった品質が低い・燃費が著しく悪いというイメージが未だに日本人には根強く残り、今はドイツ車程度の信頼性があるのに損をしている部分はある。また、現在はアメリカの自動車会社もアジアやEUなどの市場に最適化した車種を有しており、日本でもコンパクトカーを販売しているのに、日本では未だにアメリカ車=デカくて取り回しが悪く、道路事情に不釣り合いというイメージしかないようにも思う。しかし、それは決して非関税障壁ではなく、単にプロモーションに力を入れていないという努力不足でしかない。ドイツ車やフランス車などは軒並み用意がある右ハンドル車だが、アメリカ車にはない車種が多いこともアメリカの自動車会社の努力不足と言えるだろう。要するに、日本市場に受け入れられる商品を提供したり、それを宣伝する気がアメリカの自動車会社にあるとは言えず、日本で一部の愛好家にしか受け入れられないのは当然のように思う。恐らくトランプ大統領や彼が選んだ通商部の人達には「アメリカ=世界No.1。世界No.1の市場でこんなに売れるのに、日本で売れないのはおかしい。日本政府がアメリカ車を排除しようとしている!」的な発想が、頭の中にあるのだろう。
アメリカと言えば、世界で最も資本主義に傾倒した、個人的にはバランスが悪いともいえる程歪んだ資本主義の国だと思う。要するに、アメリカで公正・公平感と言えば、主に結果の公平さを指すものではなく、機会の公平さを指す傾向が強いと感じる。そんな観点で考えれば、なぜ国際的な貿易に関して結果の公平さを求めるのか疑問だ。要するに、彼らにとって都合の良い”公正”さを求めてるに過ぎず、そのような主張は受け入れがたい。
また、前述のように農産物に関しては公正ではない恐れがあるかもしれないと書いたが、アメリカは先日、安全保障上の理由で鉄鋼アルミニウム製品に関して高い関税をかける政策を実施した。国内の食品自給率が下がるということは、食品を輸入に頼らざるを得なくなるということで、要するに日本が国内の農家を保護する政策をとっているのも、似たような理由からだろう。確かにアメリカは日本の同盟国だが、日本はアメリカの属国ではない独立国で、将来的に何が起こるか分からないと考えれば、水や電気などのインフラに関連する産業や、食品関連産業をある程度保護するのはある意味では当然のことだ。そんな視点で考えれば、一部の農産物の市場が自由化されていなかったとしても、直ちに公正ではないとは言えないと自分は考える。
自分は経済問題に詳しい訳ではなく、今日書いた事の中には適切な理解に基づかない部分もあるかもしれない。しかし、自分が言いたいのは、アメリカ政府の言う”公正”とは一体誰から見た”公正さ”なのか、今回の報告書や担当者の言い分は日本にとっても”公正”な話なのかをよく考えなくてはならないという事だ。