今朝のMXテレビ・モーニングCROSSには、かなり残念な気分にさせられた。その理由は出演していたコメンテーター、防衛問題研究家・桜林美佐さんのコメントだった。
3/2に朝日新聞が報じた森友学園問題に関する文書の改ざん疑惑について、一昨日まで当該文書は捜査の為大阪地検にあり、また、捜査への影響も考慮して現時点では提示出来ないと説明していたのに、昨日(3/8)一転して文書の写しがあるとして、財務省はそれを国会に提出した。昨日提出された文書は改ざん後の文書と同じ文面で、当初は原本が提出されると報じられていたが、野党側が「これ以外のバージョンはないのか」「改ざんは無かったということなのか」と問いかけても財務省側は明確に答えず、野党側は対応が不十分であることなどを理由に昨日の国会審議をボイコットした。
この件についてモーニングCROSSは、交通機関に影響が出るレベルの荒天に次ぐトップニュースとして伝えていたが、桜林さんのそれに関する見解は一般人ならまだしも、報道番組のコメンテーターとして適切とは思えなかった。
勿論、この件に限らず誰がどんな受け止めをしようが、ある意味では問題ない。しかし、報道番組にコメンテーターとして出演するなら、自分が注目したいことだけに偏ったコメントをするのは如何なものだろうか。
桜林さんは次のようにコメントしていた。
国民もこの国会が空転する、こういう森友学園とか加計学園の話には食傷気味なんじゃないかと思うんですけども、南スーダンの日報問題の時もそうだったんですけれども、役所というのは普通、小刻みに書き換えるというか修正して(文書を)作っていく。いろんなものが残っているのは普通のことだと思うんですよね。それでまた一回言った発言を修正出来ないので、後戻りできないので辻褄を合わせる役所と、政権を揺るがそうとする野党がいて、政権は政権で官僚の人達を叩いたりするという構図というのが全く一緒なので、問題の本質が何なのか、もうすっかり分からなくなるという、いつもそれを繰り返していて非常に残念な気持ちになる。
(MC堀さんの、「自衛隊の日報の問題に関しても、野党のみならず、与党内からもしっかりと開示すべきだというような調査があって初めて進展して、黙っていたらああいうことは表に出てこなかったのかということでした」というコメントを挟んで)
それはありますけど、本当に国民の安全を脅かすようなことなのかとか、本質が本当にだんだんわからなくなってきちゃって、兎に角政権を揺るがすっていうのが目的化しているのかなという気もしますけどね。
彼女は、前半部分では政府・官僚・野党にそれぞれ落ち度があるというようにも解釈できるコメントをしているが、堀さんのコメントの後の部分に彼女の本心が現れているように自分には思える。言い換えれば、彼女は「大したことない話をネタに、野党らが政権の揚げ足取りをしている。こんなことになるのは、役所に適切な文書作成管理能力がないことが大きな原因で、政権には大きな落ち度はない」と考えているのだろうと想像する。
確かに、昨日野党が国会審議をボイコットしたことに関しては、自分も出席した上で追及して欲しかったとも思う。しかし、もし官公庁作成の文書が改ざんされていたのが事実なら、審議自体の前提が崩れてしまうだろうから、審議が成立するわけがないという考え方も理解できなくはない。つい先月、裁量労働制拡大の根拠になっていたデータが不適切な方法で作成されいたことが明らかになっており、そんなことや桜林さんも触れていた日報隠蔽問題、存在しないとされたり怪文書などとされた文科省内部文書がすぐに見つかった件などを考慮すれば、直近問題になっている財務省や厚労省に限らず、官公庁・政権全体に文書捏造・隠蔽、不誠実な答弁が許される空気が蔓延しているのではないか、という懸念を感じる人も少なくないのではないだろうか。そんな状況下でどれほど有意義な国会審議が出来るだろかと考えたら、審議自体が成立するとは思えないのでボイコットするという対応が、不誠実とは言いきれないようにも思える。
桜林さんは「現在、国会が不正常な状態になっているのは、政権に批判的なマスコミや野党が見当はずれの指摘をしているからだ」と言いたいようだが、ならば、何故今回の件に関して首相や財務大臣・財務官僚たちは、明確に「改ざんはなかった」と明言できないのか。明言できない・しない側にも確実に責任があるのではないだろうか。
確かに、この件の発端になった報道を行った朝日新聞は、改ざん前の文書を具体的に提示しておらず、実際に改ざんがあったのかどうかはまだ断定できない状況だが、政府や財務省が明確に疑惑を否定しないことも、不信感を強めている理由の一つであるのは明らかだ。個人的には、なにより一昨日まで提出できる書類が手元にないと言い張っていたのに、与党側からも批判を受けた翌日急に写しがあるとして出てきたことにも不信感を覚える。恐らくそう指摘しても「省内調査で見つかったのが一昨日だった」という旨の説明をするのだろうが、このように話が二転三転しているのを見ると、丁寧で真摯な説明が必要という首相の姿勢に反して、政権・官僚側の話はいい加減、という印象を余計に感じてしまう。
更に、桜林さんは南スーダンの日報問題を類似案件として持ち出し「国民の安全を脅かすような問題なのか」などと、重要視する必要があるとは言えない話で騒ぎすぎ、というような見解を示したが、では、なぜ重要視する必要性のない日報が隠蔽されようとしていたのだろうか。当時の防衛大臣が隠蔽に直接関与したかどうかについては厳密には明らかになっていないが、自衛隊内で隠蔽の動きがあったことは明らかだし、少なくともそれを防衛大臣や政府がかばおうとしていたことも事実だろう。そんな点だけでも既に桜林さんの主張には無理がある。
彼女は「本質がなんだか分からなくなる」と言うが、本質は南スーダン日報問題で言えば、日報が隠蔽されたことの深刻な問題性だし、森友学園問題全般ではなく、森友学園に関する文書改ざん疑惑に絞って言えば、改ざんがあったのかどうか、なぜ財務省が明確に否定できないのかだ。彼女は「(野党は)政権を揺るがすっていうのが目的化している」とも言っている。確かに野党側にそのような思惑が全くないとは言えないだろうが、不適切な事を指摘することについては何ら問題がなく、彼女の認識が正しいとは間違っても言えない。自分には、彼女は本質が分からないのでなく、政権を揺るがすというのが目的化している野党という思いが強すぎて、問題の本質を直視したくないのだろう、と思える。MCの堀さんには、重要性の低い文書がなぜ隠蔽されようとしていたのかや、問題の本質は公文書管理の問題であるとキッパリ指摘して欲しかった。
モーニングCROSSには、その日のコメンテーターらが各自それぞれ任意の件について問題提起・解説するコーナーがある。桜林さんはここで南西諸島の防衛に関しての持論を披露していた。自分は彼女の主張に賛同出来ない部分も多々あったが、それでもこのコーナーでの彼女の主張に関しては一理あると思える部分もあった。しかし、これまでこの投稿で説明してきたような、ある視点に偏った主張を堂々と出来る人の話かと思うと、それだけでその話すら合理性が感じられないと思う自分も存在していた。これは自分が彼女に悪い印象を持ち、彼女の言う事を正しいと思いたくないと感じていたからかもしれない。これと似た感情を彼女は政権に批判的なマスコミや野党らに感じているのだろう。だから政権側に偏った視点での主張を堂々とすることが出来るのだろうと想像する。
ネット上にはこの手の人が多くいると感じるが、テレビにコメンテーターとして出演する人の中にも、似たような主張をする人がいることはとても残念だ。少し表現がきついかもしれないが、彼らのような主張は、政治的ではなく、何かを問答無用で絶対的に崇める狂信的な宗教のような感覚に拠るものであるように思える。