渋谷で通行人に胸を触らせた疑いで女子高生ら3人が書類送検されたそうだ。TBSニュースの記事「ハチ公前で通行人に胸触らせた疑い 女子高生ら書類送検」によると、送検された高校生ら3人はYoutuberだそうで、1月頃渋谷駅のハチ公前広場で”フリーおっぱい”と書いたボードを掲げて「胸触り放題」などと呼びかけて胸を触らせ、その様子を撮影したそうだ。女子高生らは「閲覧数を稼ぎ、広告収入を得るためにやった」と話しているそうで、過去に話題になった動画を真似たようだ。
率直に言って、短絡的な発想に基づく考え足らずな行為と思うが、一方でこの件・記事には2つの違和感を感じる。
まず、一つ目の違和感は、記事に女子高生らがどんな容疑で書類送検されたのかが一切書かれていないことだ。記事では
JR渋谷駅のハチ公前広場で通行人の男女20人に対し「フリーおっぱい」と記されたボードを掲げて、「胸を触り放題」などと呼びかけ女子生徒の胸を触らせた上、その様子を撮影した疑いが持たれています。
としか書かれておらず、この行為が一体どんな法令に抵触した疑いがあるのかに関する記述が本文には全くない(映像にテロップで表示されているように、実際は都の迷惑防止条例違反容疑のようだ)。
この件を報道するなら、この行為の何が問題だったのかについて、その根拠に触れる必要があるだろう。それを怠ると、単にけしからん・不謹慎という主観だけで記事化しているように見えてしまう。確かに未成年者が性を自ら売り物にするようなことが好ましいとは言えない。しかし、不謹慎ながら自己表現の範囲から絶対的に逸脱している行為とも言い切れないことも確かだ。ならば、このような行為が取り締まられるべき法的根拠がどこにあるのかについて報じる必要性も確実にある。一般人が個人的な感想をSNSに投稿するだけなら、単に「けしからん」だけでもいいかもしれないが、報道機関の記事も同様でよいとは断じて言えない。
日本テレビのニュースでも同じ事案を取り上げているのを見かけたが、こちらでもTBSニュース同様「…撮影した疑い」とするだけで、どんな法令に抵触したのかには触れていなかった。しかもこちらはテロップですら迷惑防止条例違反について触れていなかった。このことから考えると、警察の発表資料の時点でどんな法令に触れたか明確な記述がされていなかった恐れもあるし、もしかしたらどこかの通信社の配信をほぼそのまま伝えているのかもしれない。しかし、もしそうだったとしても、警察の発表や通信社の配信を吟味せずそのまま伝えるだけでは、メディアとして役割を果たせているとは言えない。それこそ、広告収入目当てで何でもいいから投稿する者と大差ないと言われても仕方ないんじゃないか?と思えてしまう。
もう一つの違和感は、
(女子高生ら)3人は動画サイト「Youtube」に動画を投稿する、いわゆるユーチューバー仲間で、
という表現だ。TBSなどの報道機関、特に主に動画を扱うメディアであるテレビ局は、一体Youtuberをどのように定義しているのだろうか。自分もYoutubeにはいくつか動画を投稿した経験があるが、自分がYoutuberであるという認識は全くない。Youtubeに投稿していたらユーチューバーであるというような表現は間違いとは言えないが、正確とも言えない。そして何より世間一般に、特に30歳以上に多いように感じるが、Youtuber=楽して稼ぐ尊敬に値しない人、再生回数・広告収入の為なら不適切な行為を厭わない愚か者というレッテルを貼りたがる傾向があり、大手メディア、特にネット動画とはライバル関係でもあるテレビ業界には、それに迎合する傾向が強いように思う。勿論30歳以上の所謂大人やテレビ業界全員がYoutuberを不当にレッテル貼りをしている訳ではないだろうが、20代以下に比べたらそんな感覚を持っている人の割合は多いように思う。
少し前に莫大な広告収入を得ていたアメリカ人Youtuber(彼は誰もが認める所謂ユーチューバー)が、青木ヶ原の樹海で自殺者の死体を茶化すような動画を投稿したり、それ以外にも旅行先で現地の人をからかうような動画を撮影・投稿して問題視されたこと、日本でも「Youtuber舐めんなよ」などと言いながら、チェーンソーを持って宅配業者の事務所に押し入る動画を投稿した者が逮捕されたりしていることは当然自分も知っている。そんなことを考慮すればYoutuberの中に好ましくない者がいることも確実に事実だ。
しかし、だからと言ってYoutuber全員が不届き者ということではない。もしそうであるなら、Youtubeは即刻閉鎖されるべきだろうが、そんなことは決してないから閉鎖されていない。要するに前述のようなレッテル貼りは良識ある人間のするべきことではない。
このように書くと、TBSニュースの記事はYoutuber=不届き者というレッテル貼りをしている、と私が確信していると感じる者もいるかもしれない。しかし実際は、TBSニュースの記事にそんなことは明確に書かれておらず、明らかにレッテル貼りしているとは言えない。記事には、「Youtubeに投稿する動画を撮影した際に問題があり、撮影者である女子高生らが送検された」ということしか書かれていない。自分は、今回送検された女子高生らがどんな動画を投稿し、どの程度の再生回数を稼ぎ、どの程度の広告収入を得ていたかを知らない。もしかしたら記事が書いているように、女子高生らはそれなりの再生回数・広告収入のあるような、所謂ユーチューバーだったのかもしれない。
前段でも書いたように、Youtuberの中にも不届き者は居る。そしてそのような者が問題を起こしたり、警察のお世話になるようなことがあれば、「Youtuberが問題を起こした」と報道されるのは当然だろう。しかし、この記事では女子高生らがどんな容疑で送検されたのかにも触れておらず、記事を書いた記者の中にある”Youtuber=概ね不届き者”のような感覚が強く滲んでいるのではないかと想像してしまう。
このような印象を読む側に与える場合があるということは、問題を起こさない所謂ユーチューバーの印象にも悪影響を与える恐れがあると言えるだろう。勿論全ての読み手がこのような印象を抱くわけではないだろうが、全くの取り越し苦労とも言えないと自分は思う。一つ目の違和感に関して警察発表や通信社の配信をほぼそのまま記事化している恐れもあるだろうから、実際はTBSニュースの記者でなく、警察の広報担当者、若しくは通信社の記者の感覚が伝言ゲーム的に伝えられているのかもしれないが、報道機関、特にテレビや新聞などの大手メディアで記事を掲載・放送する場合には、もっと多方面に配慮が必要なのではないかと感じた。