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人手不足で2種免許取得条件を緩和してもいいのか


 NHKの記事「運転手不足に対処 2種免許の受験資格の緩和検討へ」によると、タクシーやバスの運転手不足と高齢化が深刻化しており、現在、21歳以上・普通免許取得から3年以上とされている2種免許の受験資格の緩和が可能か、警察庁が検討を始めたそうだ。
 規制は時代と共に変わる状況と、矛盾したり合わなくなったりすることもしばしばあり、見直される必要が生じることもある。そんな観点で考えれば、この2種免許の取得条件に関する見直しが行われることは、ある意味当然かもしれないし好ましいとも言えるかもしれない。しかし、個人的にはポジティブに受け止められない気もしている。それは、見直しが行われるのが「人手不足だから」という理由だからだ。

 
 何故2種免許、商業的に客を乗せることが出来るようになる免許の試験を受ける条件が、これまで普通免許を取得してから3年以上とされていたのかと言えば、そのような者は不特定多数の者を乗せて運転する可能性が高く、不始末を起こした場合に自分以外の人間に影響を及ぼす恐れが一般的な運転者よりも高く、そのような事態を極力避ける為に相応の運転経験が必要で、その為に少なくとも運転免許を取得して3年は経験を積む必要がある、ということだからだろう。自分は法律家でも交通分野の専門家でもないので、とりわけこれに詳しいわけではない。しかしこの考えが大きく間違っているとも思えない。
 例えば、見直しが行われる理由が「運転アシスト技術が格段に進歩し、事故が起こる恐れが著しく低下しており、3年以上の運転経験というハードルを設ける合理性が低くなっている為」などなら自分も納得できる。しかし、「人手不足だから」では全然納得できない。確かに交通インフラの維持は必要だし、その為にはそれを支える交通機関も維持する必要性があり、完全な自動運転技術が確立するまではドライバーの確保は重要な問題だ。対策は必要ないなどとは間違っても思わないが、人間の運転能力が以前に比べて著しく向上しているわけでもないのに、「人手不足だから、免許取得基準を緩和する」では副作用として事故が増える恐れもあるように思えるし、また別の視点で考えれば、今存在している普通免許取得3年以上という基準は、相応の合理性はなかったが何となく決められていたということにもなりかねない。もしそうならば、自分は現在の道路交通法上のいくつかの規制には合理性がないのでは?と感じているのだが、その自分が持つ疑念は更に深くなりそうだ。言い換えれば、「道路交通法には結構いい加減な規定が多い」ということにもなりかねない。
 
 自分は20代の頃、片道16kmの距離を50ccの原付1種スクーターで約10年間通勤していた。経路のおよそ半分は片側2車線ないし3車線の国道で、交通の流れに乗るだけで原付1種の法定速度30km/hを簡単に超えるような状況だった。その国道は白バイがよくいる路線で、その10年間で何度もスピード違反で追いかけられ、免許停止も複数回経験した。
 確かに原付1種、所謂原付バイク免許は、たった1日でかなり気軽に取得できるものだ。また、16歳から取得が可能で、50㏄の原付を運転する者には未熟な者も少なくないことは理解できる。また、厳密に言うと自動二輪車ではなく原動機付”自転車”で、バイクという扱いですらないという区分であることも理解する。そのようなことを勘案して法定速度が30km/h未満とされているのだろう。ただ、自分は10年間原付で白バイに取り締まられかねない速度を出して通勤していたが、事故を起こしたことも事故に巻き込まれたことも1度もない。ただ運が良かっただけかもしれないが、それはもし自分が小型自動二輪(50km/hまで出せる原付2種)や普通自動二輪に乗っていたとしても同じことだったのではないだろうか。確かに自分の経験だけでは多くの人でも似たような結果になるとは言えないだろうが、ただそれでも、少なくとも、車格も性能もほぼ差のない原付1種と2種(小型自動二輪)に、20km/hも制限速度に差があることに合理性があるのか疑問を感じる強い理由には、十分になり得ると思う。

 30km/hでは前述のような国道では周囲の交通の流れに乗る事が出来ないが、これを言うと「大きな道を原付で走ろうという思うこと自体がそもそもの間違い」かのようなことを言う人もいる。現に、自分をスピード違反で取り締まった白バイ警官の中にもそのようなことを言う人がいた。もしその話が正しいのならば、そのような国道を原付1種で走ること自体がそもそも危険ということだろうから、原付1種は通行禁止にするべきだろう。原付1種がダメなら自転車も通行禁止にするべきだろう。ただ、自動車専用道路でもないのにそんな規制をすれば多くの人が不利益を被ることになると自分は思う。
 要するに自分は、原付1種の30km/hという法定速度に合理性があると今も言えるのか、現在の交通事情に見合っているのか?と強く感じている。また、その影響・「30km/hでは3車線の最も右側にある右折レーンへ移動することは危険」などの観点から作られた2段階右折も同様だ。東京以外の地域に住んでいる人は「2段階右折なんて、誰かやってるの?」と思うかもしれないが、都内、特に23区内では頻繁に取り締まりが行われている為、2段階右折を行っている原付の方が確実に多い。しかも、2段階右折をしようと考えていたら、右折レーンに入るのが困難なタイミングで2段階右折禁止の標識が出てきたりすることもあり「2段階右折を心掛けていたら、2段階右折禁止違反になった」、なんてことにもなりかねないし、そもそもT字路でどうするべきなのかについてなどでは、警察官によっても言うことが違ったりする為、2段階右折ですらなく大きな交差点の度に下りて横断歩道を押して歩く原付ライダーもいたりして、自分は初めて東京を原付で走った際とても驚いた。
 
 原付を積極的に活用する者の多くは、経済的な状況などの理由から若者が多いだろう。そして交通事故を起こす割合は若年層ほど高いことを考えれば、30km/hという規制はある意味では理に適っているかもしれない。しかし、取り締まりは誰が原付1種に乗っても受ける。今は決して若者とは言えない自分が原付1種に乗っても30km/h以上で走れば取り締まられる。それが嫌なら「いい歳なんだから、それなりに金もあるだろうし、普通自動二輪の免許とって250cc以上のバイクを買えば?」という話もあり、多くのライダーは現状に甘んじてそうするのだろう。規制を議論するのはほぼ30歳以上の人間だし、そもそも、主に法律を立案する官僚や議論する議員が原付に乗るなんて全く思えない。そんな背景があるから原付の30km/hという規制に合理性があるかどうかの議論にすらならないのかもしれない。
 余談だが、日本では80年代までバイク=不良の乗り物という認識が強く、また暴走族が社会問題化したことなどを背景に規制がどんどん強化された。それでもこれまでバイクメーカーの販売の大きな部分を占めていた原付1種は、排ガス規制、少子化などの影響でどんどん減っているのが現状だ。元来日本国内でも世界でも、一番のライバル同士であるホンダとヤマハが、アジアブランドの台頭の影響もあるが、原付分野では協力体制を打ち出したことがその深刻さを物語っている。バイクは自動車以上に日本の企業が世界中で強さを誇る分野だ。人手不足を理由に2種免許の取得条件緩和を検討するなら、日本のバイクメーカーの原付の国内販売台数減少を理由に速度制限の緩和を検討してもいいのではないだろうか。
 
 話を2種免許の受験条件緩和に戻すと、人手不足になっているからという理由で、経験が少ない者の受験を可能にしても大丈夫だということなら、これまでの3年以上という規定は、前述したように合理性がないルールだったということになると思う。NHKの記事によると、この緩和検討について全国ハイヤー・タクシー連合会は

現在の受験資格が壁となって若い人にタクシー業界に興味をもってもらえないという側面もあったので、関心を持って今後の推移を見守っていきたい。業界としても安全対策を適切かつ充分に講じていきたい

としているそうだが、安全対策で経験不足がどうにかなるなら、やっぱりこれまでの3年以上という規定は根拠に乏しいルールだったということになりそうだ。ならば、原付1種の30㎞/h規制も同様に根拠に乏しいルールで、少なくとも原付2種同様の50㎞/hに規制を緩和してはよいのではないか、そして2段階右折なんて分かり難いルールも必要ないのではないか?と思えてしまう。

 4/4にも「ルールの本質」というタイトルで投稿を書いたし、直近では4/5の投稿でも触れた、大相撲巡業先で救命措置を名乗り出た女性に「土俵から下りろ」というアナウンスが投げかけられたことを発端に、土俵上の女人禁制という規則は維持するべきか否か、維持するにしても全く例外なく運用するべきなのかなど、伝統という名を借りた、視点によっては理不尽に思える規則が注目を浴びている。また、行政や政治の世界ではルールを明確に破っていなければ、若しくは詭弁でも言い訳さえできれば何をやってもよい、というような認識が蔓延しているとしか思えない事案が多発している。4/4の投稿と同じ結論だが改めて、「ルールとは一体何なのか、何の為にあるのか、何の為に必要なのか」ということを良く考える必要が確実にあると自分は思う。

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