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男が威張り散らす国


 財務事務次官のセクハラ問題に関して、麻生大臣が被害女性に対して「財務省の顧問弁護士が行う調査に協力して欲しい」という旨の発言をしたり、矢野官房長が「財務省の顧問弁護士に名乗り出ることがそんなに苦痛なのかと発言したり、4/19の投稿で指摘したように、言っていることが支離滅裂な被疑者である福田財務事務次官は言わずもがなだが、財務省内には適切なセクハラに対する見識を持ち合わせた者が、おおよそ居ないようだ。
 そして、そんな愚か者たちに同調するように、というか同調なんてレベルではなく、被害者を特定することに躍起になったり、セカンドレイプとしか言えないような誹謗中傷まがいのSNS投稿をする者が、自分が見る限り決して少なくない。財務省という中央官庁の中でも最も優秀な集団とされるような組織や、我が国の副首相が前述のような姿勢を見せているのだから、その影響を受ける者が少なくないのもある意味では仕方がないのかもしれない。ただ、国外から見た際に、政府の中枢からそんな姿勢が示され、少なくない国民が同調している日本は一体どのように見えるだろうか。少なくとも先進国とは思ってもらえないだろうと自分は感じる。

 NHK BSプレミアムでは、2014年に放送した連続テレビ小説・マッサン再放送を4月から行っている。今朝は18話の放送だった。スコットランドから日本に嫁いできた主人公エリーと、その夫マッサンが夫婦喧嘩をしてしまうのだが、その後エリーを慰めたキャサリンこと種子の「男が威張り散らす国に何故嫁に来た?」という旨のセリフがとても印象に残った。
 濱田マリさん演じる種子は、エリーが住む町の教会の、宣教師の妻で、キャサリンと名乗っていることが示すように、日本社会の男尊女卑の傾向などに疑問を感じている。ドラマで描かれる大正当時は欧米でもまだまだ男女平等とは言えなかっただろうが、今週放送されたある場面で、エリーは相武紗季さん演じる優子に「いい嫁とは、男にとって都合のいい女。お台所、掃除、洗濯など家の事なんでも出来ていつも男を立てる、それが日本の男が求めるいいお嫁さん」と言われ、夫であるマッサンに「マッサンはキング?エリーは女中?」と問いかける。するとスコットランド留学中にエリーと恋仲になり、嫁として日本に連れてきたマッサンは「そんなことない、フィフティフィフティじゃ」と答えるという描写があった。要するに、当時の日本の男尊女卑傾向は欧米以上に強かったという見解が示唆されていた。
 夫婦喧嘩の理由は、仕事に没頭し過ぎたマッサンに、エリーが蔑ろにされたと感じて苦言を呈したのに、マッサンが女はつべこべ言うなという態度を示したことだった。それは、マッサンが「ここは日本じゃ」と言うセリフを何度も繰り返すことで、日本の慣習に従え、女は男を立てろという意思表示をしていたように描かれていた。これを受けて、キャサリンこと種子は「男が威張り散らす国に何故嫁に来た?」とエリーに問いかける、というシーンだった。勿論ドラマではマッサンが間違いに気付き、2人は仲直りする。

 男女格差の評価に関する指標は様々あるだろうから、当時の日本と欧米のどちらが実際に男尊女卑傾向が強かったのかは厳密には分からないし、それは当時に限らず、現在でも同じことかもしれない。ただ、女性が社会進出している割合、結婚・出産後も、それ以前と同様に仕事が出来る環境が整っているかなどの点で考えれば、女性の社会進出が進んでいる欧米の一部の国に比べれば、日本の状況の方が良いとは間違っても言えない。勿論、世界中を見れば日本よりも悪い状況の国は決して少なくはないだろうが、だから日本は現状維持でよいと言えないことは間違いない。

 今回の財務事務次官のセクハラ問題に関して財務省側が示した前述のような姿勢に、野党議員らは#MeTooタグを掲げて訴え始めた。個人的には政治家にはそのような手法でなく、真っ向から議論を戦わせるような手法で戦って貰いたいと思っており、野党議員らの動きはパフォーマンス感が強くてあまりいい印象を持てないのだが、#MeTooムーブメント自体を批判するつもりは全くない。というか寧ろ、それを過剰に批判している者、特に日本人には「男が威張り散らす国」の住人感を強く感じる。
 #MeTooのムーブメントは、昨年・2017年10月にアメリカで、ハリウッドの映画プロデューサー・ハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラ疑惑が報じられたことを受けて、同様の被害をこれまでに受けてきた多数の女優や関係者の女性が「Me too/私も被害を受けた」と告白し始めたことで、その後芸能界に留まらない広がりを見せ、2018年度のピュリツァー賞を受賞するにような大きな動きになった。ただ、ムーブメントとして大きくなると、2017年12/25の投稿でも触れたように、極端なセクシャルハラスメント感も一部で示されるようになり、またそれに対する反動とも言えるような、#MeToo全般を批判的な動きがあることも事実だろう。どんな事案でも大きくなればなるほど様々な受け止めが生まれるのは当然で、ある意味ではそれは自然なのかもしれないが、極端なセクハラ感を正当化する行為も、それに対抗して#MeTooムーブメントを全て否定しようとするような行為も、結局適切な理解・判断・認識に基づいていない偏った考え方だと自分は思う。

 昨年、#MeTooムーブメントが起きる前に、日本では伊藤詩織さんが元TBSの報道記者・山口敬之さんによって性的被害を受けたと訴えを起こし、#MeTooムーブメントが起きてからは、ブロガーのはぁちゅうこと伊藤春香さんが、電通在籍当時に上司からセクハラを受けていたと告白した。伊藤詩織さんの件はまだ係争中だが、はぁちゅうさんの件に関しては当該上司だった岸勇希さんが経緯を認めて謝罪したにも関わらず、伊藤さんへもはぁちゅうさんへも、セカンドレイプ的な心無いSNS投稿が多数行われていたし、今も同様の事案が起こる度に、彼女らへの根拠に乏しい誹謗中傷を繰り返す者がいる。
 また、2017年12/19の投稿でも触れたように、はぁちゅうさんの告白を受けて、これまでに受けたセクハラの経験を告白した人が何人かいたが、そこへもセカンドレイプ的な心無い誹謗中傷が行われ、それ以降日本では告白したり訴えたりすると、心無い言葉を浴びせられ自分が傷つくというような懸念が広まったからだろうが、諸外国程に#MeTooムーブメントは盛り上がらなかった。そしてそこへ、新たに持ち上がったのが財務事務次官がセクハラ発言を繰り返していたという疑惑なのだが、前述のように、財務省側が被害を訴えた女性記者よりも、身内である事務次官を信じるかのような態度を示したことにもあり、結局また被害を訴えた者へのセカンドレイプ的な主張が横行するような状況になっている。

 4/5の投稿4/14の投稿でも触れた相撲協会の女人禁制に対する前時代的で頑な態度、女人禁制の合理性を、伝統・神事以外に全く説明できていないのに、一部で擁護するような者も少なくないことなどや、前述のようにセクハラ被害を訴えると、セクハラ加害者が認めても誹謗中傷されてしまう状況が確実にあること、政府の中枢である省庁の幹部や副総理までが認識不足であることを考えれば、この国は大正時代の「男が威張り散らす国」から殆ど進歩していない時代錯誤の国と、諸外国から思われているんだろうなと強く感じてしまう。そこに住んでいる者としてとても恥ずかしく思う
 ここからは個人的な推測に過ぎないのだが、今回の財務事務次官セクハラ問題で、被害者にセカンドレイプ的な主張をしている者の多くは、麻生大臣が「TPPより森友問題でばかり取り上げるのが日本のメディア」なんて誹謗中傷を繰り広げたように、くだらない内政問題よりも外交に関する国益を重視しろ、というような主張をしている人達と重なっているように見える。彼らが、勿論財務大臣・財務省も含めて、セカンドレイプ的な主張を繰り返せば繰り返す程、日本全体の国際的な評価を下げる事に繋がるだろうから、彼らこそ国益を損ねる元凶だと自分は感じる。

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