5/14、昨年12月にトランプ大統領が実施すると宣言した、在イスラエル米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転が遂に実行された。AFPの記事などによれば、パレスチナ・ガザ地区で大きな抗議活動が起こりイスラエル軍は実弾発砲を伴った対処をして、その結果50名以上の死者、数千人の負傷者が出ているそうだ。日本では北朝鮮をめぐる東アジア情勢に、特に米朝首脳会談で拉致問題に進展があるのかないのかに外交的な注目が集まっている為、米大使館エルサレム移転の実行や反対デモ・それに伴う犠牲者などに関しては、やや対岸の火事的に認識している人が少なくないと自分は感じる。しかし、米大使館移転問題は決して対岸の火事ではなく、北朝鮮関連問題とリンクする話だと自分は考える。
まず、米大使館のエルサレム移転、言い換えれば、エルサレムをイスラエル首都と認定することは国連決議違反であることを認識しておく必要がある。これについては昨年・2017年12/6の投稿で説明したので詳しくは割愛する。国連決議に違反するような政策を実行すれば国際的に非難を受けるのは当然のことだが、アメリカ政府は昨年、日韓などと共に国連で「北朝鮮の核・ミサイル開発は国連決議に違反している」と厳しく批判していた中心的な存在だった。またトランプ大統領はシリア政府軍が化学兵器を使用したと断定し、昨年報復攻撃にまで踏み切っているが、この非難・報復の根拠は1997年に発効した化学兵器禁止条約で、その背景には1966年に国連総会で採択された「化学兵器及び細菌兵器の使用を非難する決議」がある。要するに、他国に対して「国連決議を尊重し、そして厳格に遵守しろ!」と言っている立場であり、しかも国連の常任理事国という立場の国の政府が、そんな姿勢と矛盾する”国連決議違反”に踏み切ったという側面が「米大使館のエルサレム移転」にはある。
ロイターなどが報じているように、昨日北朝鮮は米韓の軍事演習を理由に、南北閣僚級会談を一方的にキャンセルし、米朝首脳会談のキャンセルも示唆するような態度を示しているようだが、実際に今後米朝会談が開かれたとして、果たして、自分たちに都合の良い”アメリカファースト”な姿勢をあからさまに示すトランプ政権を、まともな交渉相手と考えて交渉に臨むだろうか。それ以前に北朝鮮政府も、日本や韓国からすれば手放しに信用できる相手ではないだろうが、個人的にこれまでのアメリカ政府の姿勢を180度翻して一方的にTPPやパリ協定などから離脱したこと、「100%共にある」と言っていたにもかかわらず、安倍首相を示唆して「彼はいつも微笑んでいたが、それはアメリカを利用できてよかったという意味で微笑んでいたのだろう、日本がアメリカを利用してきた時代は終わる」などとして、鉄鋼関連製品の関税引き上げに踏み切ったことなどを勘案すれば、トランプ大統領・政権は、北朝鮮程でないにせよ手放しで信用してはならない大統領・政権だと思う。今回の米大使館エルサレム移転の実行には、そんな疑念を更に深める側面があったことは決して否定できない。
また、近年のシリア内戦では市民の犠牲を厭わない、というか寧ろ市民に対しても攻撃の矛先を向けているシリア政府軍や、そのシリア政府の後ろ盾となっているロシアに対して、国際的に多くの国の政府が、特に前述したように化学兵器の使用に対して報復攻撃まで行ったトランプ政権は強い不快感を表明し、そして非難している。しかし、米大使館エルサレム移転をトランプ政権が国連決議に反して強硬したことに対して、ガザ地区で大きな反対デモが起きた結果、トランプ政権が強く肩入れしているイスラエル政府が、軍を導入し実弾発砲で対処し決して少なくない死者が出ている件では、アメリカ政府はシリア内戦におけるロシア政府と同じような立場だ。
アメリカ政府側は「イスラエル軍の対処は正当な防衛措置である」という見解を国連などで示している。要するに「ガザ地区での反対デモはテロ行為に準ずる行為で、その対処に実弾が使用されるのは仕方ない」というような認識なのだろう。ここで思い出さなければならないのは、シリア政府軍も市民に対して攻撃の矛先を向けていることについて、「市民ではなく市民に扮したテロリスト」というような言い分だということだ。勿論自分はシリア・イスラエルには行ったことすらないし、当然現地の実際の情勢を目の当たりにしたこともない。しかし、ロシアのシリア政府支持に懸念を示しているアメリカ政府がイスラエルでしていることが適切であるか否かと言えば、適切ではないとしか思えない。
勿論、外交・安全保障上、現在の日本が置かれた立場ではアメリカと決別することが難しいことは重々承知しているし、アメリア大使館の移転式典に参加したり、グアテマラのように追従して大使館を移転するような姿勢を日本政府が示していないことも理解はしているが、日本政府が北朝鮮の核・ミサイルを国連決議違反だと強く批判し改善を求めるなら、同様の批判をアメリカ政府にも示すべきだと自分は感じる。そのような姿勢を示さなければ、結局北朝鮮政府にアメリカの腰巾着とあしらわれ拉致問題の解決も遠のいてしまうのではないかと懸念する。