高度プロフェッショナル制度を含む働き方改革関連法案が、衆院厚労委員会で可決されようとしている。野党側は個人的には高鳥修一委員長の解任決議案を提出したが当然否決され、今後加藤厚労大臣の解任決議案が提出し、法案の決議を引き延ばす戦術のようだが、ハッキリ言って焼け石に水とはこのことだろう。この状況には強い懸念を感じている。先月、様々な理由はあろうが、審議拒否して議論を怠った野党側にも、その間も一方的に議論を進めて「充分な議論を尽くした」としている与党側にも強い不信感を覚える。また、朝日新聞の記事「首相、過労死遺族会との面談応ぜず 働き方改革関連法案」などが伝えているように、高プロ制度へ懸念を示し、首相に直接声を伝えようとした過労死者の遺族たちに対して積極的な対応を見せなかった政府や首相にも不信感を感じる。拉致被害者家族には積極的な姿勢を見せているのに、なぜ過労死遺族には正面から向き合おうとしないのだろうか。
高プロについて、元日経新聞記者で経済ジャーナリストの磯山友幸さんが現代ビジネスに「労働組合が「高度プロフェッショナル制度」に反対する本当の理由」という記事を寄せている。記事を読めば、磯山さんは高プロについて概ね肯定的に捉えていることが分かる。磯山さんは、
左派野党は高プロ制について「定額働かせ放題プラン」「過労死促進法案」といったレッテルを貼り、高プロ制が導入されれば、対象社員が際限なく働かせられ、今以上に過労死が増えるとした。
と、反対派の言い分を受け止めているようだ。この彼の受け止めからは、野党や過労死遺族が懸念を示している「今後対象拡大される恐れ」という要素が欠落しており、必ずしも適切な認識とは言えないだろう。というか寧ろ意図的にそのような部分を無視しているようにも思える。その一方で、
本当に「働かせ放題」にならないかどうかは、導入する企業が対象社員をプロフェッショナルとして扱い、自主性を認められるかにかかっている。不本意な労働を強いられれば、ストレスは大きくなり、過労死の原因になり得る。
と述べており、運用が思惑通りにいかなければ、高プロが過労死の原因になることもあり得るという見解も示しており。反対派の主張に関してある程度の理解をしめしていることも事実だ。
ただ、彼は記事の見出しにもなっているように、労働組合が高プロに反対している理由について、別の思惑があると解釈しているようで、
社員の中に「時間によらない働き方」をする人が生まれれば、社員の労働に対する考え方がバラバラになり、「団結権」をテコに同等の待遇改善を求めてきた従来の労働組合の「闘い方」に影響が及ぶ。そうでなくても組合の組織率は17%にまで低下している。
として、労働組合は働き方が多様化することで、その存在意義・影響力が低下すると考えているから反対している、というような解釈を示している。確かにそんな側面もあるかもしれないが、彼の言うようにそもそも既に組織率はかなり低下しており、時間によらない働き方をする人が今後増えようが、大きく状況が変わるとは思えないし、これも、彼が「左派野党は高プロ制について「定額働かせ放題プラン」「過労死促進法案」といったレッテルを貼っている」と評したのと同様に、彼による労働組合へのレッテル貼りでしかないように自分は感じる。
反対派の主張について、主張の一部を度外視した上で、正しい認識とは言えないレッテル貼りだと評したにも関わらず、彼も労働組合のある側面だけに注目して、レッテル貼りと思えるような正しいとは思えない認識を示しているようでは、その主張に説得力を感じることは出来ない。
彼は、「高プロによって時間に捉われない働き方が促進され、まさに働き方改革が起こる」という主張のようで、記事でも
「定額働かせ放題」と言うなら、現状の「管理職」の方が、問題は大きいのではないか。中小企業などでは年収1075万円以下の管理職は大勢いる。彼らは残業代もつかずに長時間労働を強いられている。
本来、管理職は自らに裁量権があるとされ、時間管理から外れているが、中間管理職の多くは実際にはヒラ社員と変わらない働き方を求められている。実際には管理していない「名ばかり管理職」問題もまだまだ存在する。高プロの導入をきっかけに、こうした名ばかり管理職の取り締まりを強化していくべきだろう。
と述べている。「現状、管理職は実質的な裁量権などないのに残業代も払われず、既に働かせ放題の状態なのだから、高プロの導入によって正しく評価されるような状況目指すべきだ」というような考えなのだろう。しかし自分には「今も名ばかり管理職が既に働かせ放題状態なのだから、高プロが適用される人たちも同じ様に、実質的には裁量など殆ど認められず働かせ放題状態になってしまう恐れが強いのでは?」と感じる。そして今後対象が拡大されるようなことがあれば、それこそ今まで以上に過労死を引き起こしてしまう恐れもあるだろう。磯山さんはこの後に「高プロの導入が、日本の会社における「働き方」が変わる第一歩になることだけは間違いなさそうだ。」と言っているが、考え方が余りにも楽観的過ぎるように自分は思う。
彼は派遣労働者の規制が緩和された結果、どのような状況が起こっているかを考慮した上でこのようなことを言っているのだろうか。経済ジャーナリストを名乗っているのだから当然知らない筈はないだろうが、彼が、反対派が「今後対象拡大される恐れ」に懸念を示していることに言及していないことを考えると、もしかしたらそんな前提は、彼の頭の中にはないのではないか?という不安を感じてしまう。