スキップしてメイン コンテンツに移動
 

不適切か否かの判断基準


 CS・ディスカバリーチャンネルが放送する番組・ファスト&ラウド。ガスモンキーガレージというアメリカ・テキサス州のカスタムカーショップを舞台としたリアリティーショーだ。番組では毎回1台のクルマを修復しカスタムを加えて仕上げる(若しくは放送2回で1台)。現在ディスカバリーチャンネルで最新シーズンを放送中で、今週の放送で扱うことになったのは1970年代の日産 フェアレディZだった。
 番組の冒頭でショップオーナーが、今回のクルマはフェアレディZだと伝えた際に、ショップスタッフらが日本車を「恥ずかしい」などの表現で、揶揄するようなコメント・態度を示していた。このシーンを見た際に感じたのは、5/2の投稿で触れた「午後ティー女子」の件で当該イラストや、これを掲載したキリンを不適切だと主張している人達には、許せないコメント・態度、そして放送内容なんだろう、ということだった。


 自分も日本で生まれた自動車好きだから、日本車、しかも日本では(というかアメリカでも世界的にも)名車という認識が決して少なくないフェアレディZが、揶揄されているのを見ていてあまりいい気はしなかった。また、番組ではこれまでヨーロッパ車を扱ったこともあるが、その際にはそのような表現は見られなかったことや、この番組の舞台になっているのがアメリカの中でも人種差別や偏見の傾向が決して弱いとは言えない南部地域であること、店のスタッフが概ね白人であることなどを考慮すれば、「アジアを下に見る意識の影響」があるようにも思えた。
 しかし一方でこのショップの主な守備範囲は、アメリカ車がサイズ・排気量ともに最も大きかった70年代以前の、所謂マッスルカーと呼ばれるような車種で、そのようなジャンルのクルマを好む者にとっては、ボディサイズ・エンジン共に大きいことが魅力的なクルマの大きな条件の一つで、それらと比べればボディサイズもエンジンも格段に小さい日本車に、彼らが魅力を感じられないのは全然不思議でなく、差別的な感情とまでは言えないとも思えた。また、番組の舞台がテキサス州であるということから差別的な白人を連想し、それを前提に彼らの発言・態度を判断するのもある意味では偏見なのでは?とも思う。南部の白人が皆、過激な白人至上主義者なんてことはない
 そして何より、例えば、彼らが番組中ずっと日本車を卑下し続けたとかSNSで差別的な発言をしている、などの事実がもしあるのだとしたら差別や偏見の懸念もあるかもしれない。しかし彼らは、フェアレディZを皮肉りつつもカスタムカーとして仕上げることに力を注いでいた。少しでも揶揄したら不適切というのは言い過ぎ・必要以上に過敏だろう。番組内には、スタッフたちがいつも扱っているアメリカ車との違いに戸惑いを示す場面が複数あった。冒頭シーンでの揶揄はそんな不安の表れだっただけなのかもしれない。

 例えば、贔屓のチームが負けると翌日機嫌が悪くなるような巨人ファンと阪神ファンがいたとする。彼らがもし一緒に酒を酌み交わすようなことがあれば、相手チームを揶揄することも多々あるだろう。しかしそれは彼らなりのコミュニケーションの取り方で、明確に不適切な差別意識とか偏見なんて認定する人がいたとしたら、恐らく認定する側の見識の方が疑われるだろうと自分は感じる。
 また、日本人の自動車好きの中にも「アメリカ車なんてバカデカいだけの燃費の悪いクルマ」などと揶揄する人もいる。確かに過去にはそんな時期もあったかもしれないが、現在のアメリカ車には当てはまらない認識だと思う。ただそれでもそのセリフが口にすることも不適切なほどの偏見とまでは言えないと思う。要するに、番組内での日本車を揶揄するような態度は、巨人ファンが阪神を皮肉ったり、阪神ファンが巨人を皮肉ったり、日本車好きがアメリカ車を皮肉ったりするのと同程度の表現というのが、妥当な評価だろうと考える。

 差別やいじめ・セクハラなどに関して、行為を受けた側が「不快感を感じたら」差別やいじめ・セクハラ成立とするべき、というような極端な主張をする者もいる。確かにコミュニケーションをとる際には、上下関係がある中で上から下へのコミュニケーションは特に、相手への配慮を欠かさないことはとても重要だ。しかしそれを考慮したとしても、一方が不快感を感じた時点で即刻アウトは適切な判断基準とは思えない。
 そのような基準が適切あるなら、ダンスをさせたら・客を楽しませたら不適切、などの極端な風営法の解釈で、小規模バーやナイトクラブを取り締まろうとしている警察組織を容認することにもなってしまうだろうし、それを容認するということは、昨年成立してしまった共謀罪法案の恣意的な運用、極端な解釈で過剰に不適切認定を行うことも認めなければならなくなるだろう。

 「誰か一人でも不快感・不適切と感じたら、不適切であると認定できる」ということはそういうことだ。

このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。