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著作権保護と文化振興のバランス感覚


 Gigazineの記事「ハイパーリンクを貼るだけで著作権料がかかる通称「リンク税」がEUで導入されようとしている」によるとEUで、サイト・ページにリンクを貼られた場合にリンクされたサイト・ページの作成者・権利者が、リンクを貼った者に対して著作権料の支払いを請求できる、とする著作権法の改正が議論されているそうだ。その改正著作権法案は既にEUの著作権に関する委員会で可決されているそうで、本会議・欧州議会で法案について評決が行われる段階らしい。
 この著作権法改正は、GoogleやFacebookなどの大手サービスの、ニュース提供サイト、例えば新聞社やネット系報道サイトなどへ与える影響力を下げようという思惑で議論されているらしいが、記事でも示されているように副作用が懸念され、というか副作用の方が大きくなりかねない恐れもある。


 リンクを貼っただけで著作権料を請求されることになれば、個人的なブログやサイトでも気軽に関連サイトなどにリンクを貼る事が出来なくなりそうだ。自分はこのブログで気になる記事を取り上げて、読んでくれる人の利便性を考慮して当該記事にリンクを貼り、その記事に対する自分の見解を書いている。現在EUで議論されている著作権法改正案と同様の改正案が日本でも成立すれば、このブログのリンクも著作権を請求される対象になるということだろう。
 自分はGoogleのブログサービス・Bloggerを利用してこのブログを書いているので、もしかしたら個人に著作権料が請求されるのではなく、Facebookやtwitter・Googleニュースなどと同様に、サービスを提供しているGoogleに請求が行くかのもしれない。しかし、もしレンタルサーバーを個人で借りて、ブログを個人的に構築していたら、ブログを書いている個人に著作権料が請求されることになるのだろう。
 また、議論の内容を詳しく読んでいないので、SNS上でユーザーが個人的に貼ったリンクに関しての扱いがどうなるのか、詳しく理解していないが、SNS運営者がプラットフォームを提供してるだけというスタンスを主張し、それが認められたら、SNS上で個人が貼ったリンクに関する著作権料の請求先は貼った個人ということになってしまう恐れもある。

 取材を行い、記事を書き、それを提供する側、言い換えれば報道機関が相応の報酬を得る権利を守る必要性がある、という改正の趣旨は理解できる。確かにネット上の情報の流通に関して、検索最大手のGoogleや、直接情報を提供しないYahooニュースなどのキュレーションサイト、隆盛を極めるFacebookやtwitterなどのSNSが、ある意味では牛耳っていると言えるような状況だ。しかしそれでも、リンクを貼られただけで著作権料を請求できるようにするという対処は、深刻な著作権違反に対抗するためとは言え、政府が法改正もなく接続規制を指示するのと同じくらい安直過ぎるし、副作用の大きい話だと自分は思う。
 そもそも、自由なリンクとはインターネットの根幹を支えている要素の一つだ。自由にリンクを貼って縦横無尽に情報を参照できる環境こそ、インターネットが発展してきた理由の一つだろう。日本でもこれまで何度か所謂「無断リンク」に関する議論は起きている。それに関してはWikipediaでも項目が設けられまとめられている。

 Wikipediaの無断リンクの項目でも触れられているように、他者のサイトをあたかも自分の著作物かのように偽装する行為や、画像ファイルへのアクセス数の増大でサーバーに負荷をかける場合など、例外的な場合もあるにはあるだろうが、サーバー側の設定である程度対策は可能だ。なので個人的には、基本的にリンクを貼られたくないなら、ネット上に情報を公開するべきではないと考える。実社会に置き換えるとどんな状況なのか、その解釈は様々だろうが、自分は、家の車庫に派手なクルマを停めておいて「じろじろ見るな、見た者には見物料を請求する」と言っているようなものだと考える。見られたくないなら、そして見物料を徴収するようなら、シャッター付きのガレージに収納するなどするべきだ。ネット上で言えば、記事を読むのに有料会員登録が必要で、ログインしないと記事が読めないようなサイトがそれに当たるだろう。

 要するに、単純なリンクを実質的に規制するような施策を実施することは、インターネットの利便性を著しく阻害し、インターネット上のパワーバランスが、既に地位を築き相応の資金を持つ者へ今以上にシフトすることを、促進してしまうような行為だと自分は考える。例えば、著作権料請求されるのを避けたい者は、直接記事へのリンクを避け、記事の見出しを引用して検索を促すことになるだろうが、それでは今以上に検索サイトにアクセスが集まることになる。 言い換えれば検索サイトの影響力が今以上に増大することになる。
 EUで議論されているから日本は関係ないと受け止める人もいるだろうが、ネット上には明確な国境はない。決して対岸の火事ではない。また前述したように、法改正もなく特定サイトへの接続遮断を支持するような政治の下では、似たり寄ったりな著作権法改正が日本でも行われかねない。著作権に関して日本は欧米に右へ倣えする傾向が確実に強い。

 1990年代にこの手の議論が起きて、そのような著作権観がネット黎明期から成立していたなら、「ネットなんてそんなもの」ということで納得できたかもしれないが、これまでネットの、そして発展の根幹を確実に担ってきた要素の一つを捨て去るような施策を、手放しで受け入れる気になど到底なれない。

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