6/15の衆議院厚生労働委員会で受動喫煙対策に関する法案、健康増進法改正案が可決された。この日の委員会には、がん患者団体の代表2人が参考人として呼ばれ、可決された法案の不備を強く訴えたと、BuzzFeed Japanは6/16に「骨抜きの受動喫煙対策にがん患者が訴え 「死んでいく年間1万5千人の声聞いて」」と言う記事で、まず伝えた。
”まず”というのは、この委員会、そして参考人の発言についての続報があったからだ。大きな話題になったので説明不要かもしれないが、「受動喫煙対策を訴える肺がん患者にヤジ 国会議員「いい加減にしろ!」」という6/21の記事で伝えられたように、参考人らの発言に対して自民党・穴見議員が「いい加減にしろ!」と複数回野次ったそうだ。当然のように各所から批判が出ているが、率直に言って、参考人としてわざわざ来てもらった人の発言に対して、国会議員が「いい加減にしろ」だなんて一体どういうつもりなのだろうか。”傲りここに極まる”以外の何事でもない。
自分は、6/16の記事に対して、次のようにコメントした。
現在国が検討している受動喫煙防止対策は確かに骨抜きだと思う。しかし「 受動喫煙で年間1万5000人が亡くなっている」という、算出基準が適当かどうか疑わしい根拠を持ち出して反論すれば、たちまち説得力が薄くなり、どんぐりの背比べになってしまいかねない。
学校の敷地内云々という話も、屋外で気体がどれほど滞留するというのか。特に小中高などは多く見積もっても教員などの内の何割かしか喫煙しないのだから、一時的にでも強烈に煙が滞留することなどないだろう。
屋内原則全面禁煙に留めた議論を進める方が適切ではないだろうか。
要するに、可決された受動喫煙防止対策の内容は不十分だが、 記事で紹介されていた参考人の長谷川さんの見解・主張も、逆のベクトルで極端に見える、言い換えれば手放しで賛同できる話ではない、と感じたということだ。そのような意味では穴見議員が「いい加減にしろ」と言いたくなった気持ちは分からないでもない。
しかし、どんな意見に対してだろうが「いい加減にしろ」などと一蹴するようでは、それは適切な議論に努める姿勢とは到底言えない。穴見議員の態度は彼が適切な議論を行う能力に著しく欠けていることを証明していると考える。要するに、国会議員の本分を果たすことが難しい人物といっても差し支えないと言えるだろう。
冒頭で紹介したのとは別の6/21のBuzzFeed Japanの記事「肺がん患者にヤジ飛ばした国会議員が謝罪 しかし・・・「喫煙者を必要以上に差別すべきではないという想いで呟いた」」によると、穴見議員は野次に関して見出し通りの釈明をしたそうだ。この釈明から分かるのは、穴見議員は、長谷川さんが参考人として主張した内容が差別に当たると認識していたということだ。
前述したように、自分は長谷川さんらの主張には概ね賛同しないという立場だが、6/16の記事で紹介されている内容が事実と大きく乖離していないのなら、彼らの主張が差別に当たるとは全然思えない。穴見議員の差別に当たるという認識は余りにも感情的で、自分の主張と異なる意見=差別ような認識を持っているようにすら思える。確かに、受動喫煙防止議論において過剰に嫌煙を叫ぶ者、言い換えれば、喫煙者に対する差別と言えるような主張をする者は、ネットを中心に散見される。散見ではなく頻繁に見かけると言っても過言ではないかもしれない。しかし、嫌煙論者=差別論者という判断は確実に適切ではないし、そのような判断を国会議員という責任ある立場の者が、しかも国会審議の中で示してよい筈など絶対にない。
更には、このような見解を彼が釈明のコメントで示したことが、彼に対する懸念をより高める。発言している参考人にまで聞こえた野次を、「呟いた」などと矮小化しようとする態度は自己保身の為の表現としか思えず、本当に彼に謝意があるとは到底思えない。この一件に関して彼への処分は当該委員長による口頭での厳重注意だけのようだが、事態の矮小化傾向は当本人の穴見議員だけでなく、自民党内にもその風潮があるんだろうと懸念する。要するに、これまでにも似たようなことがしばしば起きているし、彼かどうかは分からないが、これからも似たようなことは起きるのだろうとしか思えない。言い換えれば、与党や政府が言う「再発防止」とか「うみを出し切る」なんて話が如何に虚しいことなのかを再確認させられるという事だ。
BuzzFeed Japanはこの件に関して「ヤジ受けた患者・ヤジ飛ばした議員両方に嫌がらせ殺到 「死ね」「見苦しい」」という見出しで、6/22に更に続報を掲載している。野次られた参考人の長谷川さんには過激な喫煙者から、野次った穴見議員には過激な嫌煙派から、罵倒・中傷・嫌がらせのような主張が電話・メールなどで寄せられているという話だ。記事では取材に応じた長谷川さんの、
対立が深まるのを望んでいるわけではありません。穴見議員への嫌がらせもどうか止めていただき、受動喫煙で苦しむ人がいなくなるように冷静に法案の議論を深めてほしい。
というコメントを紹介している。長谷川さんの姿勢は適切な議論に必要不可欠だ。自分と異なる意見についても馬鹿げた表現で一蹴するのでなく、耳を傾け適切な表現で反論しなければ議論など成り立たない。そのような意味では、双方に対する罵倒・中傷・嫌がらせのような主張は、単にお互いの溝を深めるだけの行為でしかない。言い換えれば、そのような人々は批判している対象と同レベルに自らも成り下がっているという、自分の愚かさに気付いていない、自分の事を棚にあげていると言えそうだ。それは「いい加減にしろ」などと野次り、差別云々」などと釈明した穴見議員も同じだ。
自分は6/21の記事へのコメントの中でこう書いた。
政府のおかしな説明に理解を示してしまう与党、適切な追及・指摘の出来ない野党、そして虎の威を借るキツネのような議員。この国の国権の最高機関は一体どうなっているんだろう。
国会議員は国民の鏡だろうから、国会に限らず概ね日本人とはその程度の人の集まりだと思うと情けない。アジア1の先進国だなんて思っている人は一体何を見ているのだろう。
見ようによっては、上から目線の高飛車な主張に見えるかもしれない。しかし、穴見議員と似たり寄ったりの行動に出る人が、穴見議員側にも、彼を批判する側にもいる事は、6/22の記事でも指摘してされているように明らかだし、何より穴見議員のような人物に多数派である与党が公認を出し、そして票が集まり当選しているのだから、思った以上に多くの人が、6/22の記事で指摘された攻撃的な態度に出る人でなくとも、表現しないだけで似たような感覚を持っているのかもしれないと再確認させられる。
自分が辿り着いた結論は、いじめを見て見ぬふりするのは、いじめに加担しているの同じである、という話同様、穴見議員と似たり寄ったりの攻撃的な言動に至らなくとも、この件に対して無関心であることも、消極的にではあるが穴見議員と似たり寄ったりである、ということだ。
国会議員に限らず、国民全体の適切な主張・議論の能力が高まらなければならないし、高まれば当然国会議員の能力も高まる筈だ。卵が先か鶏が先かのような話ではあるが、逆に言えば、国会議員は率先してそのような社会の空気を醸成しなくてはならない立場であるとも思う。感情とは様々なモチベーションの為に必要不可欠な要素だろうが、感情的になり過ぎることは決して好ましいとは言えない。バランス感覚が重要なのは言うまでもない。
最後に、BuzzFeed Japanのコメント欄で頻繁に「BuzzFeed Japanは朝日新聞に牛耳られている」かのような馬鹿げた批判を見かけるので、これらの一連の記事を書いた岩田直子さんは読売新聞出身であることを紹介しておきたい。