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参院定数6増案成立に思う、票が嘘つき政権与党に集まる不思議


 7/18の衆院本会議で、とうとう参議院議の員定数を6人増やす改正公職選挙法が成立した。BuzzFeed Japanの記事「参議院、来夏の選挙から議員が6人増に 問題点はどこ?」が伝えているように、産経や読売新聞など、比較的政権や与党に近い論調を掲げる新聞でさえ、苦言を呈すような状況になっている。たった1人ではあるが、自民党のベテラン議員・船田 元氏が造反・投票を棄権したということも伝えられている。
 BuzzFeed Japanの記事では見出しの通り、成立した改正公職選挙法の問題点は何なのか、について説明する内容だ。記事はとても冷静に問題点を指摘しているが、個人的には、もっと単純な問題点があるのに見過ごされているような気がしてならない。成立した改正公職選挙法の問題点は、端的に言って、自民党が、自民党総裁である安倍首相が「約束を反故」にしたことにあると自分は思う。このような状況に異論を唱えることが出来る議員が、党内に船田氏しかいなかったことはかなり残念だ。


 2012年12月の総選挙の結果を受けて、現在も続く安倍政権が誕生した。この選挙が行われるに至った経緯として、同年11月に行われた、当時の民主党・野田首相と野党だった安倍自民党総裁の党首討論がある。2016年6月に所謂、社会保障と税の一体改革について、与党だった民主党と、野党だった自民・公明両党の三党間で合意がなされていたのだが、11月の党首討論で総選挙を迫る安倍総裁に対して、野田首相が、

 国民の皆様に消費税を引き上げるというご負担をお願いをしている以上、定数削減をする道筋をつけなければなりません。我々は、自分たちの出している法案にご賛同いただきたい。

と述べたのに対して、安倍総裁は、

 来年の通常国会において、私たちは既に私たちの選挙公約においてですね、定数の削減と選挙制度の改正を行っていく、そう約束をしています。今、この場で、そのことをしっかりとやっていく。約束しますよ。

と答えている。自分が読む限り、ハッキリと「定数削減と選挙制度を行っていく」と言っている。にもかかわらず、参議院の定数を増やす法案を成立させたということは、約束を反故にした、嘘をついた に他ならないのではないだろうか。

 確かに、この党首討論で議論されていたのは、参議院でなく主に衆議院についての話だったことは間違いない。しかし概ね「国会制度全体の改革」の話だし、国民に負担を強いる以上という前置きを考えれば、参議院議員だろうが衆議院議員だろうが定数削減して然るべきと考えている、と、当時の安倍総裁は述べていると受け止めるのが自然だろう。
 また「来年の通常国会において」という前置きがあるから、それから何年も経っている今国会で議員定数を増やしても嘘にはならない、なんて受け止める人もいるようだが、だったら嘘つきと思われない為に「来年以降はこの限りでない」と言っておくべきだったろうし、参議院だから増やしてもOKという話も「衆議院に限った話で、参院はこの限りではない」と宣言しておくべきだったのではないだろうか。当時の党首討論でそのように言っていたら選挙の結果はまた別の結果だったかもしれない。要するに、美味しい話を匂わせておいて「そんな約束していない」とするような言動は、世間一般的には「騙す」と表現する。騙されて投票した国民も愚かだが、騙した側の責任は追及されるべきで、相応の評価を下さなければ、同じようなことが繰り返されてしまう。

 というか、自民党・安倍自民総裁が選挙に勝つと、途端に約束を反故にするような事態、要するに前段最後で「同じようなこと」と表現したようなことは既に繰り返されてきた。前段の党首討論や三党の合意などで議論されていた、社会保障の充実や財政健全化の為に消費税率を10%へ引き上げについて、当初は2015年10月とされていた引き上げの時期を、安倍首相は2014年11月に、2017年4月への延期を発表し、その際

 再び延期することはない、断言いたします

などと会見で明言していたが、2016年6月に再び、10%への消費増税を2019年10月へ延期することを発表した。その際には前言を覆したことについて、

 これまでのお約束と異なる新しい判断、『公約違反ではないか』とのご批判があることも真摯に受け止めている

と述べている、要するに彼や自民党にとって、公約なんて「新しい判断」と言えば覆せる程度のこと、という認識でしかないのだろう。しかもこの発表が行われたのは、参議院選挙の直前だ。彼は前述の野田首相との党首討論の中で、野田首相が議員定数削減を求めたのに対して、

 民主党というのはですね、改めて思いつきのポピュリスト政党だなあ、本当にそのように思いました。

などと言っていたのだが、 都合の悪いことは忘れてしまうらしい。

 また、昨年の衆院選でも平然と公約違反をやらかしている。自民党は選挙公約として「すべての子どもたちの保育費全面無償化」を掲げていた。しかし、選挙後すぐに無償化対象は認可保育園のみという案の検討を進めていることが報じられ、大きな批判が起き、一応方針転換はしたものの、それでも「貧困家庭に限り」とか、「認可外については認可保育園と費用だけ援助」とするなど、すべての子どもが対象とは到底言えないような、羊頭苦肉を地で行く案を今も検討している。認可保育園に入れず、やむを得ず認可外に通う・通わせるような家庭も少なくないのに、それを除外して一体どこがすべての子どもが対象と言えるのだろうか。結局のところ、保育無償化ではなく全入化が優先事項なのにもかかわらず、票集め目的に偏った公約を掲げたツケが回ってきたとしか言えない。
 安倍首相を始めとした自民党の政治家らに問題があるのも事実だが、それでも自民党が票を集めてしまうのだから、国民にも大いに問題ありと言えそうだ。嘘が横行することを国民が、消極的にかもしれないが、認めていると言わざるを得ない。民主主義は必ず正しい判断になるとは決して言えない。最悪な例はドイツ・ナチスで、ヒトラー率いるナチス政権は、民主的な方法で成立している。

 最後に、今回の改正公職選挙法に定められた方式がすこぶる分かり難いことを指摘したい。現政権は、携帯電話事業者に対して、料金プランが複雑で分かり難く、結果的に消費者が騙されるようなことにもなりかねないという観点から、複数回にわたって是正を促してきた。政府や与党は、今回成立させた選挙方法をどのように考えているのだろうか。個人的には、一票の格差是正の為という大義名分の下で、国民を騙そうとしているのではないか?と思えてならない。

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