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責任と処分のバランス、メディアがもたらす影響


 「本日わたしは炎上しました」という4コマ漫画が連載打ち切りになるそうだ。人気がなくなり連載が打ち切りになるというのは何も珍しくもないが、ハフポストの記事「『本日わたしは炎上しました』打ち切り 過去の「ヘイトスピーチ」で謝罪、連載再開を予定していたが...」によると、作者の6年前のツイートについて抗議が起こり、その責任をとる為に連載が打ち切りになるようだ。
 記事によると、作者は謝意を示しているように見える。また、懸案のツイートはマンガ家デビュー以前の、19歳当時のツイートだったようだ。このような事から考えると、個人的には打ち切りという処分は過剰なのではないか?と思えた。果たして、あと数年で19歳は成人に該当することになるし、当時も成人ギリギリとは言えど未成年当時の、所謂若気の至りかもしれないツイートの責任と、連載打ち切りという処分はバランスが悪いように見えた。


 この漫画家がどんなツイートをしたのか気になった。既にこの漫画家はツイッターアカウントごと削除しているようだが、調べてみると2012年に
  • チョンにもいいチョンだっていると思ってたけど、最近の過激な行動をみるとなんかさすがにねー…
  • ナマポに慈悲はない!
  • ナマポじゃ最低限の生活をできる額にしないと味をしめて一生働かない
など、差別用語を用いたツイートや、偏見に満ちたツイートをしていたようだ。チョンという表現について評価は様々だし、個人的には必ずしも蔑称とは言えないとも感じるが、世間一般では差別表現と認識されることは事実だし、この場合は蔑む意図が強く感じられる為、差別・偏見を指摘されて当然だろう。また、ナマポとは生活保護を揶揄する場合に用いられるネットスラングだし、主張の内容を勘案すれば、これも差別・偏見に当たると言えそうだ。
 勿論、未成年だからと言ってこのような表現が許される筈はない。もし未成年という理由でこのような表現が許されるのなら、身体的暴力以外のイジメは概ね全て許容しなくてはならなくなる。しかし一方で、未成年当時のツイートの責任を連載中止という形でとらせるということもやり過ぎではないだろうか。確かに差別的な発言ではあるものの、当時は影響力もそれほどない単なる1人の青年だったわけだし、適切な分別が備わっているとまでは言い難い未成年が、ネット上などの愚かな言説に影響されていたという側面も考慮しなくてはならない。また、誰かを個人攻撃して追い込むような、深刻な攻撃性を見せていたわけではない。

 しかし、6年前のツイートの不適切さを指摘された際に、この作者がどのような反応を示したのかによっては、連載打ち切りが妥当な処分に当たる場合もあるかもしれない。例えば、指摘・抗議を受けて即座に過ちを認め、謝意を示した上で当該ツイートを不適切だったという理由で取り下げるなどの対応をしていたなら、連載打ち切りは重過ぎる処分ではないだろうか。しかし、もし指摘・抗議を受けても開き直るような態度を示し、謝意を示さなかったのであれば、要するに未成年当時の所謂若気の至りツイートであっても、それを分別があって然るべき年齢になっている6年後の彼が、その不適切さを認められないようなら、それは連載打ち切りという処分を受けても仕方がない。何故なら、当時と同様の認識を今も持っているということにもなりかねないからだ。言い換えれば、現在進行形で差別意識・偏見を持っている人ということになれば、出版社側が連載を打ち切るという判断に至っても何も不思議ではない。

 肝心なこの部分についてハフポストの記事では触れられていない。この点についての言及がなければ、読み手は連載打ち切りという処分が適当だったか否かを判断し難い。ライターは何か意図があってそのことに触れなかったのか、単に読み手がそう思うことに配慮が至らなかった、言い換えれば記者の能力がその程度だったのかは分からないが、この事案を記事として、それなりの影響力を持つメディアが取り上げるならば、この点は確実に説明をしておかなければならない重要なポイントだと自分は思う。
 確かに、連載打ち切りという処分が科されたことから、指摘を受けた後も作者が不遜な態度を示したと推測することも出来る。しかし、昨今クレームに過剰反応を示す企業は決して少なくないので、この件に関してもそのような側面があるかもしれないと推測することも出来る。説明しておくべき重要な点を示しておかなければ、世の中に実情と間違った憶測を広めてしまう恐れがある。メディアにはそのような影響力があることを理解した上で記事を書いて欲しい。
 因みに、ハフポストが朝日新聞の記事を転載する形式で掲載した、「水球女子、合宿打ち切り 男子監督の批判投稿で選手動揺」にも同様の印象を感じた。この記事も結局選手がわがままなのか、男子監督の言動が不適切なのか、記事の内容だけでは推測し難い。記者は問題提起しているつもりなのかもしれないが、記事化して問題提起したいなら、もっと読み手側が判断する為の材料を提供するべきではないだろうか。この後に続報があるならまだしも、掲載日の7/20から1週間以上経つ今も一切続報は掲載されていない。

 話を「「本日わたしは炎上しました」連載打ち切りの件に戻し、作者が当該ツイートに関する指摘を受けて、どのような反応を示していたのかと言うと、
  •  ちょっと過激な言い方だけど、日本のこと死ぬほど憎んでる頭おかしい国もあるんだからそういうの許しちゃいけないと思うのよね。
 と2017年6月にツイートしていたようで、このツイートから判断すると、連載打ち切りという処分は妥当、と自分は思う。冒頭で紹介したハフポストの記事によると、
 この漫画家は謝罪文の中で、
 6年前の発言当時の私は19歳と若く、注目されることも無かった為に言葉を選ぶという最低限のマナーを欠いておりました。また、当時の発言が現在の特定の方々に影響を与え不快感を与えるとは思考が及ばずこのようにお騒がせする形となりました。
と述べているが、指摘や抗議が広がった理由は、6年前の19歳当時のマナーを欠いた主張・振舞いだけではなく、1年前・25歳前後の彼のツイートや態度・反応も多きな理由だろう。連載打ち切り処分も、発端は6年前のツイートかもしれないが、漫画家になっていた昨年の彼の対応・ツイートに対して科された処分というのが実情だろう。このことを出版社も漫画家自身も正しく認識していないから前述のような謝罪文が掲載されたのだろうし、ハフポストの記者もそれを認識していないから大事な部分が欠落した記事を書いたのだろう。

 もしかしたら、読み手も含めてこの件に関わる人のうちの少なくない者が、何がこの件のポイントなのかを理解出来ていないのかもしれない。勿論自分の視点が絶対的に正しいと言うつもりは一切ないので批判して頂いて一向に構わないが、問題の本質を把握していない認識が広がっているのならば、日本から差別や偏見がなくなる日はまだまだ遠いと憂慮してしまう。問題点を的確に認識できないならば問題を解決できる筈はない。

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