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労働状況と調査の信頼性


 日本経済新聞が「「自由だから非正規」4割増 待遇改善も影響 労働力調査 多様な働き方なお課題」という記事を掲載していた。見出しの「なお課題」という部分や、内容を読めば、非正規労働が増えていることには良い面も悪い面もある、ということを書いているようにも思えるが、その見出しからも内容を見ても、記者は非正規労働が増えていることをどちらかと言えばポジティブに捉え、そのニュアンスの方を醸成したいのだろうと少なくとも自分には思えた。いかにも日経らしい論調だとも感じた。
 記事の根拠になっているのは、総務省が8/7に発表した今年の4-6月の労働力調査だ。それによると、非正規労働者は昨年の同じ時期に比べて4%増え、2095万人だったそうだ。この調査によると、非正規で働く理由として最も多かったのは「自分の都合の良い時間に働きたいから」で、そう答えたのは全体のおよそ3割・592万人だったそうだ。記事では一応「正規の仕事がないから」と答えた人についても触れており、その人数は259万人らしい。記事では言及がないが割合にすると約13%である。


 記事は厚労省の賃金構造基本統計調査を根拠に、「非正規の賃金上昇ペースが正社員を上回り、その差は縮小している」とも紹介している。2017年の非正規の賃金は正社員の66%だそうで、5年前より4ポイント”も”上昇した、と強調する。個人的には、首相が同一労働・同一賃金をスローガンに掲げているのに、まだまだ約35%もの賃金格差があることをポジティブには受け止められないし、5年でたった4%しか変わっていないのかと落胆させられる。つまり「4ポイント”も”」と書ける記者は、能天気過ぎるか、若しくは労働者側の視点が欠けているようにしか思えない。
 確かに、正社員が負う責任と負担は、非正規労働者よりも重い場合は比較的多く、正社員と非正規の賃金が全く同一になることが適切だとは言わない。しかし、どちらが負う責任もほぼ同じなのにも関わらず、雇用形態だけで待遇に格差がつけられる労働現場は今でも決して少なくない。記事は非正規雇用のポジティブな面を強調しているが、 果たしてそれは実情に即しているだろうか。勿論そういう恵まれた非正規労働者がいることは事実だろうが、裁量労働制の導入の為にかなりいい加減な、捏造とすら言えそうな統計を示し、元データの提示を求められると今度は隠蔽を画策した厚労省が提示するデータを手放しで信用できるかと言えば、自分は決してそんな気にはなれない。省は違えど総務省も同様だ。厚労省以外でも公文書改ざん・隠蔽が頻発しているのだから、総務省だけは問題ないなどとも到底思えない。たとえデータの数字自体は間違っていなかったとしても、データを集め方によっては適切な統計とは言えない場合もある。

 今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでは、朝日新聞の記事「裁量労働制、285事業場で違法適用の疑い 厚労省調査」を取り上げ、厚労省の調査によると、厚労省が求めた自主点検に応じた1万793の事業場のうち、285で違法に裁量労働制が適用されていたことが判明したと伝えた。また、今回の調査はあくまで「自主点検」であることを根拠に、ネット上で「信用出来ない」「氷山の一角」などの批判が上がっていることも紹介していた。自主点検ということは、あくまで雇用者側の自己申告でしかなく、問題があっても雇用者側が申告しなければ調査には反映されない。そのような恐れのある調査による数字が果たして適切と言えるだろうか。厚労省はこの件について「改善を促す」と問題意識を示しているようだが、自分には「裁量労働制の法規違反はこの程度の割合だ」と言いたげにも見える。同じ様に感じている人が「信用出来ない、氷山の一角」と批判しているのだろう。

 もし、厚労省のデータ裁量労働制に関する不適切データ問題や、財務省の公文書改ざん事件、その他の官庁で頻発した隠蔽疑惑・事件がなかったとしても、雇用者側の自己申告による調査をそのまま信用することは出来ないが、これらの事を背景に考えれば、その調査結果により一層懐疑的にならざるを得ない。この先、政府や行政機関の調査に関する疑念は、少なくとも現政権が続く限りそのレベルが下がることはないだろう。前述した数々の不祥事はそれ程重大である。しかも、副首相が財務省の公文書改ざんについて、調査してもよく分からんと太々しく言い切るような状況では、個人的には現政府への信頼感は最悪レベルだ。
 各社の世論調査では、このようなことがあり、しかも与党議員が差別的な発言をしたことについて、首相らが消極的な対応しかしていないような状況でも、内閣支持率は未だに30-40%前後で推移しているようだ。むしろ直近の調査で支持率が回復している調査もある。支持の理由で最も多いのはどの調査でも「他より良さそうだから」なのだが、この状態で「他より良さそう」とは、他は一体どんなレベルの低さなのだろう。というのは勿論「他より良さそう」と考える人への皮肉である。そのような、よく考えない人が一定数いるということは、日本の社会が今より良い状況になるのは相当先ということでもある。悲観的にならざるを得ない話ではあるが、諦めるわけにはいかない。

 この状況をただただ悲観して諦めの境地に至るというのは、東京医科大の女子受験生への差別を、「許容し難いが仕方ない」と諦め、理解出来ると答えた65%の医師(朝日新聞の記事)と同じような存在に成り下がるも同然だ。自分が住んでいる国を愛しているなら、女性差別も、政府の体たらく、一部の国民の妄信・無関心も決して諦めることなど出来ないのではないだろうか。諦めれば、その内絶対自分にその悪影響が降りかかる。 

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