三菱電機で2014-17年の間に、5件の労災認定事案が発生し、内2人は自殺、別の3人は脳梗塞、くも膜下出血、精神疾患を患っているそうだ。しかも自殺者1人を含むこの内の3人は、裁量労働制の労働者だったことが伝えられている(毎日新聞の記事)。この件は、今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでも取り上げていた。それに対する視聴者ツイートの中に、
という主張があって驚いた。確かに、自殺や疾患が引き起こされた直接的な原因は長時間労働であることに違いはない。しかし、5件の内3人の労働者が裁量労働制で働いていたのだから、裁量労働制が長時間労働を悪化させた恐れは否めない。言い換えればその間に因果性は無くとも相関性がある恐れは充分にあると言えるだろう。裁量労働制が問題じゃなくて、過労死するほど長時間働くことにストップがかからないのが問題なんじゃない? #クロス— Nobuaki Tobari (@richard_nt) 2018年9月27日
Googleで検索してみたところ、 三菱電機の現在の従業員は2018年現在・13万8700人だそうだ。5/13万8700人と考えれば、過労自殺や労災はイレギュラーと考えられるかもしれない。前述の毎日新聞の記事によると全社員(正社員及び契約社員という意味だろうか)は3万人だそうで、3万人のうちの1/3程度が長時間労働だったとしても、長時間労働と過労自殺・労災との因果関係はおろか、相関関係すらないとも言えるかもしれない。しかしその考え方では、労災を被ったものは運が悪かった、とか、自殺した者や精神を患った者は心が弱かっただけ、体を患った者は体が弱かっただけ、と一蹴することにもなりかねない。自分の子どもや家族が長時間労働を強いられて身体を壊したり、精神を病んだりした時に、他に同じ条件で働いても、体や精神に異常をきたす者の方が少ない事を理由に個人の問題とされたとして、それを受け入れられる者が果たしてどれ程いるだろうか。
自分は、裁量労働制は長時間労働と因果関係、因果は言い過ぎでも相関性もないと言いたげな、「裁量労働制が問題ではない」という発想は、そのような発想と似たような感覚に因るものだと考える。裁量労働制を労使共に上手く活用する・出来る事例も、確かにあるだろうし、裁量労働制下でなくとも長時間労働を強いられることはしばしばあり、長時間労働の原因の大半を裁量労働制が占めるとは言えないのは間違いない。しかしそれは、現状裁量労働制の適用はかなり限定された条件でしかできない為、そもそもデータ上の裁量労働制労働者自体が決して多くないからだとも言えそうだ。
毎日新聞の記事によれば、三菱電機に裁量労働制で働く労働者は全労働者3万人のおよそ1/3・約1万人いたそうだ(この件で三菱電機は裁量労働の全廃を決めた)。また、この記事で紹介されている労災・過労自殺は長時間労働によるものと認定されているようだから、労災・過労自殺に至った者の割合が、裁量労働制の労働者1万人の内3人、非裁量労働制の労働者2万人の内の2人という事は、裁量労働制という働き方に何かしらの問題性があるかもしれない、裁量労働制は長時間労働を悪化させる恐れがあると推測するべきではないだろうか。
また、昨日のTBSニュースで労災認定された者の家族がインタビューに答えていたが、裁量労働だからと、自殺や疾患に至っても労災認定されないケースがあったり、そもそも被害を訴えないケースも多いと指摘しており、裁量労働制にはまだまだ問題が多いと言わざるを得ないことを再確認させられた。もし、労働者側が裁量労働制を希望するのなら、個人事業主となり企業と個別に契約を結ぶという形でも同じような状況を作ることは可能だし(勿論、裁量労働制よりも企業から受けられる保障は減るなどの短所もある)、人が死に至るような状況を悪化させかねない懸念のある裁量労働制を、充分な対策なしに導入する必要があるとは思えない。
裁量労働制が長時間労働を悪化させる恐れがあるのだから、間違っても「裁量労働制が問題ではない」なんて言えない。それは確実に詭弁である。