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想定外


 9/6の早朝に北海道で震度7の大きな地震が起きた。当初震度6強との発表だったが、気象庁はその後、その震度を7に修正して「平成30年北海道胆振東部地震」と呼ぶことを発表した(tenki.jpの記事)。この地震の影響で北海道全域で停電が発生。1日経った現在、復旧は進み始め、一部では停電が解消しているようだが、まだまだ停電している地域の方が多い。完全に復旧するまでは1週間程度かかる見通しだそうだ。
 この停電によって、現在運転を停止している北海道の泊原発でも外部からの電源供給が失われたそうだが、使用済み燃料プールにある核燃料の冷却に必要な電力は、非常用ディーゼル発電機を起動して電気を供給したそうだ。朝日新聞の記事「外部電源喪失の泊原発、電気供給が復旧 北海道電力」によると、発電機の燃料は少なくとも7日分は確保していたらしい。この記事を見ると、不測の事態への備えはそれなりに機能しているようにも感じる。

 しかし、その感覚は適切だろうか。本当に不測の事態への備えは充分だったと言えるだろうか。NHKは「資源エネルギー庁 3つの発電施設同時停止は想定外」という記事で、
 6日午後に経済産業省で開かれた記者会見で、資源エネルギー庁の担当者は、北海道で最大の火力発電所「苫東厚真発電所」の3つの発電施設が同時に停止したことについて、「これまで、出力70万キロワットの大きな火力発電所が停止した場合に安定した電力供給を保つことは検証していた。しかし、瞬時に全部が停止し、165万キロワットが落ちる対策までは取っていなかったと思う」と述べました。

また今後、北海道内で節電を求めるかどうかについて「今は、すべての人に電力の供給ができず、使っていただく電気がない状態なので、節電ということは申し上げられない。ただ、需要と供給のギャップがある中で政府としても今後どうするか検討していきたい」と述べました。
と伝えている。要するに、見出しの通り、北海道全域で停電が発生する事態が地震の影響で起こったことについて、資源エネルギー庁は「想定外」という見解を示している、ということだ。勿論どんな事態にも想定外はつきものだ。想定外が起きないという保証などできる筈がない。しかし、原発のように、一度事故を起こせば何十年、場合によっては何百年も人が住めなくなるような深刻な被害を引き起こしかねない存在については、想定外なんてあってはならない。 例えば今回の停電が7日以上続いていたら、ディーゼル発電機を使用しての燃料冷却は出来なくなる。勿論停電していたとしても軽油を供給すればディーゼル発電機による冷却は可能だ。しかし、地震の影響で原発への道路が寸断されたら軽油の供給は困難になる。ヘリ等での運搬は可能かもしれないが、万が一台風などによる悪天候が重なればそれも困難だ。現に地震の直前に西日本は台風による大きな被害を受けている。その恐れは低いかもしれないが、このタイミングが運悪く重なる恐れが絶対ないとは言えない。そもそも、福島原発の事故だって想定外の地震による想定外の大きさの津波によって起きている。

 今回の地震については、震源の位置も想定外の地域だった。北海道で大地震が起こる恐れが指摘されていたのはその東側だったのに、今回の震源は苫小牧付近、要するに北海道の西側だった。南海トラフや首都直下など、現在地震発生の懸念が示されている地域以外でも大きな地震が起こる恐れは、否定することなど出来ないという事だ。何事にも絶対はあり得ず、場合によっては現在原発がある場所が、震度6-7クラスの大きな地震の震源になる恐れもあるという事だ。勿論現在の規制基準では東日本大震災を教訓に同程度の大地震を想定はしているだろう。しかし、東日本大震災を超えるような強さの地震が起こらないという保証は誰も出来ない。そのような地震が人間の歴史の中でこれまで起きていないことは確かかもしれないが、地球の歴史数十億年の内の経った数千年・有史の間に記録がないというだけだ。人間の科学が起こり得ないとしていたことが起こることは往々にしてある。福島原発の事故を起こした津波がそのいい例ではないのか。

 今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでも、勿論北海道の地震について触れていた。その中で今日のコメンテーターだった宇佐美 典也さんは、想定外の大規模停電と原発について、
 全体としてこういう事態は想定していなかったという電力供給全体の話と、原発レベルのサイト?レベルでこういう災害を予想していなかったというのは別問題で、原発レベルでは予想してたんですけど、全体の(電力)需給レベルでは予想していなかったことなんで、全体の電力供給をどうしていくのかってのが今後の議論だと思う。

と述べていた。聞き取り難い部分もあったが、要するに、原発の安全基準は問題ないが、全体の電力供給に問題があったと言いたいのだろう。個人的には全然理解出来ない。原発の運営に外部電力が必要なことは明らかで、電力供給に問題があることを想定出来ていない安全基準が適当と言えるだろうか。勿論今回は非常用電源で事なきを得たし、非常用電源を用意していたという点は適切な基準だと認められるが、外部からの電源供給の問題と原発安全基準の問題は別問題という認識が適切な認識だとは思えない。電力供給全体に想定外の事態が起きるのなら、原発にだって想定外が起こる恐れは否めない。
 これについては、もう一人のコメンテーター・田勢 康弘さんがこう述べている。
 想定外、想定外って言うが、行政としては想定しなきゃいけないことですよね、例えば福島原発だって何故あんなことが起きたのかってことは、4つの調査委員会が分厚いの(報告書)を出しているが、何言っているかサッパリ分からない。結局は非常用電源が使えなかったということ、簡単に言えば。そういうことを考えると、もっと想定の幅・深度がなくてはいけないと思う。
自分には田勢さんが宇佐美さんの見解を部分的に牽制・批判したように見えたが、個人的には田勢さんの見解にもあまり賛同は出来ない。想定の幅・深度を広げることは確かに重要だが、最も重要なのは「人間の想定を自然は簡単に超えてくる」ということを認識することだと考えるからだ。

 このような事を書くと「想定外の事(不意にケガする場合など)があると分かっていても包丁を使って料理するし、想定外の事(交通事故)があると分かっていても自動車に乗るのに、原発だけ別扱いするのは何故か」と反論されることがある。確かに想定外は往々にして起こるが、想定外の事が起こっても対処が出来るから危険性を招致でそれらを利用する。要するに想定外が起こると事を想定している。また、想定外の事態によるリスクが高いものの使用には規制が掛かっている。例えば銃などがそのいい例だ。得られる利益と想定外の場合に生じるリスクを比べて釣り合わない存在だから、日本では銃の所持は基本的に禁止されているのだろう。
 確かに、原発は発電手段としては、環境に与えるリスクも低く、事故が起こらなければコスト的にも魅力的かもしれない。要するに管理運営の技術が確立されれば最も好ましい発電方法かもしれないという利点があり、得られる利益は大きいと言えるかもしれない。しかし、廃炉まで含めればコスト的に有利とは言い難いし、核廃棄物の処理方法も確立していないし、事故が起こった際の対処が確立されていないことも、福島を見れば誰の目にも明らかだ。果たしてそれでリスクよりも得られる利益が大きいと言えるだろうか。銃同様に使用を制限するべき存在なのではないか?と自分は考える。

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