11/6はアメリカで上院・下院議員選挙、一部の州では知事選も行われる所謂中間選挙の投票日だった。トランプ大統領就任後初の中間選挙で、この2年間の彼の政策への是非が国民によって示される、というコピーを掲げるメディアが多かったが、選挙の結果は、全議席を改選する下院では民主党が過半数の議席を獲得したものの、1/3の議席のみ改選する上院ではトランプ大統領側の共和党が過半数を維持するというものだった。この結果は投票前の予想通りだったし、中間選挙・下院で野党側が勝利を収めるというのは、大統領が野党との対立の中で公約を概ね実現出来るケースは少ないので決して珍しいことではなく、視点を変えれば、民主党は予想の範囲内の戦績しか残せなかったというようにも評価できそうだ。
この度の選挙戦でもトランプ大統領は相変わらず極端な主張、支持者や国民の恐怖心・不安を必要以上に煽るような表現を多用していた。ハフポストは11/7に「放送中止になったトランプ陣営のCM、どんな内容だったのか? 死刑判決の男と移民集団を並べて...」という記事を掲載した。記事ではCMの内容を、
問題のCMは、中米からアメリカを目指している移民集団「キャラバン」と、2014年にカリフォルニアで警官2人を殺害し死刑判決を受けた人物をなぞらえて映し出していた。と評しているが、正にその通りで差別や偏見を煽るような内容だと言わざるを得ない。キャラバンとは、治安悪化が深刻化するホンジュラスなど中米の国からアメリカへの移民を求めて、現在メキシコ内を北上している一団のことだ。確かにアメリカへの移住を求めるなら強行な手段でそれを実現しようとするのではなく、適切な手段に訴えるべきではあるが、彼らには難民のような側面もある。
にもかかわらずトランプ氏は明確な根拠なくキャラバンを「犯罪者集団」と呼んだり、「アラブのテロリストが紛れ込んでいる」と言ってみたり、移民・難民政策でトランプ氏や共和党よりは寛容な態度を示す民主党について、「民主党は犯罪者集団を国に引き入れようとしている」とか、「民主党は我が国を犯罪者の天国にしようとしている」なんてことも言っている。自分には所謂陰謀論染みた主張としか考えられない。
彼はこれまでにも「イスラム教徒の入国を全面的に禁止する意向」を示して大きな反発を受けたり、女性に対する蔑視が強く疑われるような発言も度々しているし、白人至上主義者が自動車で反差別を訴える人に突っ込んで死傷者が出た件について、白人至上主義を明確に否定しなかったり、明らかにトランプ氏には人種・民族差別的な傾向がある。
CSのドキュメンタリー系チャンネル・ディスカバリーChやナショナルジオグラフィックChでは、視聴率がいいのか再放送を含め、頻繁にナチス・ヒトラーに関する番組を放送しているのだが、そのような番組を見る度にトランプ氏とヒトラーの傾向に類似点を見出してしまう。トランプ氏のイスラム教徒・移民・難民に対する差別的な傾向は、ヒトラー・ナチスのユダヤ人迫害と似ているし、ヒトラーの強硬で偏見を交えた演説もトランプ氏のそれを連想させる。ヒトラーが写真や当時最先端のメディアだった映画を支持拡大に利用したように、トランプ氏も現在の先端メディアSNS・ツイッターを積極的に利用している。勿論それらのメディア利用自体には何の問題もないが、それに載せる主張やプロパガンダには問題がないとは言えない。
そのような事も踏まえ、11/7のハフポストの記事に自分は次のようにコメントした。
CMどころか、トランプ氏の陰謀論者丸出しの演説自体が大統領に相応しいとは思えない。
それでも彼の支持が45%程度もあるということは、アメリカ人の半分はオカルト好きなのかも。都合の悪いメディアをフェイクニュース認定する彼を支持するという点も、「信じたい事を信じる」というオカルト好き(というか厳密にはオカルトではなくカルト信者)の傾向か。
本当にアメリカの約半分が(オ)カルト信者だったら、アメリカは相当病んでいる。キャラバンは目指すべき国を間違っている。
その一方で、ハフポストが11/3に掲載した記事「「華氏119」は“21世紀のファシズム”の映画だ。マイケル・ムーア監督がいま日本人に伝えたいこと」に自分は、
あくまでも推測だが、ヒトラーやムッソリーニがドイツやイタリアで指導者になった時だって、「それ以前の暴君と言われたような指導者とは違う」という話だったろうと思う。何故なら暴君だと思われていたなら、民主的なセオリーで彼らが指導者に選ばれるわけがない。また今彼らを見れば、それ以前にはいなかったタイプ(部分的に似た者はいたかもしれない)の暴君であると言えるのではないか。
トランプがこれまでにいなかったタイプの暴君なら、過去との対比だけではその危険性は見えてこないだろうから、トランプをこれまでの暴君と同じかどうかで判断することに合理性があるとは言えない。とコメントした。マイケル ムーア監督や自分が前段で示したように、トランプ氏とヒトラーの類似性、ファシズム染みているという懸念を主張すると「トランプは虐殺も言論弾圧もしていないのだから、ヒトラーと同じではないしファシズムでもない」のような反論をする人がいることを念頭に置いたコメントだ。
ムッソリーニについては民主的な過程とは言い切れないが、ナチスやヒトラーは民主的な手続きで政権の座を獲得している。ヒトラーやナチスが不適切だという判断が下されたのは第二次大戦後・ナチスドイツ敗戦後の事で、彼らが政権の座を得る過程では、ドイツ国民の多くは彼やナチスを不適切だとは思っていなかったはずだ。当時のドイツ国民がヒトラーが暴君になり得ると認識していたのなら、選挙で選ばれるはずがない。要するにファシズムやヒトラー、ナチスは急に不適切さをあらわにしたわけでなく、最初は支持を得る為に美味しい話を並べ、しかしその裏で徐々に不適切な施策を進め、最終的に第二次世界大戦とユダヤ人等への迫害・虐殺という深刻な事態を引き起こした。第二次大戦については戦争が勃発した要因はナチスだけにあるわけではないが、人種差別的な政策は多くのドイツ国民が見逃していたから起こってしまった事態だ。イスラム教徒や移民・難民に対する差別や偏見を、経済政策でくらまそうとする姿勢もトランプ氏とナチス・ヒトラーの相似点の一つである。
「トランプは虐殺も言論弾圧もしていないのだから、ヒトラーと同じではないしファシズムでもない」と反論する人に強く言いたい。
迫害・言論弾圧などが起きてからでは、国民にはどうすることも出来ない。その予兆を見極め、そんなことが起きないように日頃から出来る事をしなくてはならない。
と。それはナチスドイツが引き起こした悲劇から多くの人が学んだことだし、中国や北朝鮮を見ればそうしなくてはならない事は明らかだ。