最近、特にリーマンショック以降躍進を見せている中国の電気/電子機器ブランド。この10年くらいの間に普及が飛躍的に進んだスマートフォンについても、性能に対する価格の安さをアピールポイントにシェアを拡大している。
少し前までスマートフォンの世界的なシェア争いの中心は米・アップルと韓国・サムソンで、5年前・2013年はサムソン31%、アップル15%、ファーウェイ/ LG/ レノボがそれぞれ5%という状況だった。2017年でもサムソンが1位・アップルの2位という点は変わらないが、両社の全体に占めるシェアは低下傾向にあり、3位のファーウェイや4位のオッポを筆頭に、世界シェア上位10社中7社が中国ブランドと、近年の中国勢の躍進は目覚ましい。2018年度の月別等短期的な集計では、アップルの出荷台数をファーウェイが上回る事もあった。つまりそれ程勢いがあるということだ。
ファーウェイのCFO・最高財務責任者で、創業者・任 正非(レン ツェンフェイ)さんの娘でもある孟晩舟(モウ ワンジョウ)さんが、12/5にカナダで逮捕され大きな波紋を呼んでいる。逮捕理由については「アメリカからの要請」「米国のイラン制裁を逃れる取引に組織的に関与していた疑い」等と報道されているが、どちらも報道ベースの情報で当局から正式な発表があったわけではない。これについて中国は「中国公民の合法的で正当な権益を侵害している」などとして猛抗議している。
アメリカ政府は中国の情報/電子機器ブランドへの懸念を以前から示しており、11月にはドイツやイタリア、日本など、既にファーウェイの機器を広く採用している同盟諸国に対して、同社製品の使用中止を求めたそうだ(Engaget japanの記事)。このような状況の影響なのか、日本政府はファーウェイとZTEの製品を事実上排除する方針を固めたそうだ(Engaget japanの記事)。また携帯大手各社も同様に、ファーウェイとZTE製品の排除を検討しているという報道をメディア数社が行っている。
携帯大手、「5G」でファーウェイなど除外検討(読売)
携帯4社、中国製を排除(日経)
中国通信排除、来年度から 政府方針に携帯3社も同調
個人的には、各社の掲げた見出しには問題があるように思う。
読売新聞の記事では、ドコモとソフトバンク・楽天は、次世代通信規格・5Gの事業化に関して「通信設備には中国企業(ファーウェイ・ZTE)の製品を採用しない方向で検討している」とし、KDDI(au)は「決定した事実はない」 と紹介されている。これが日経や東京新聞の記事では「除外する」「方針を固めた」などと断定的に書かれている。読売の記事は12/10の23時、日経・東京新聞の記事は12/11の朝刊の記事で、大きなタイムラグはないが、表現が異なるのは取材先・情報ソースが異なっているからかもしれない。
しかし注目すべきはその差ではない。各社がファーウェイ・ZTE製品を採用しないとしているのは、基地局などの通信設備に関してであって、個人が利用する端末などに関する言及は一切ない。しかし、どの記事もそれが明確に伝わるような見出しにはなっていない。その影響はSNS上にも如実に表れており、ファーウェイやZTEの端末の排除方針が決まったと誤認しているコメントが散見される。アメリカでは5月に国防総省が懸念を示し、米軍基地内にある日用品などの小売店でのファーウェイ・ZTE製品の販売を禁じたそうで(Engaget Japanの記事)、勿論これからの動きの中で日本でも、端末も排除するという動きが起こるかもしれない。しかし、実際にはまだそこまで話は進んでいないのに、あたかもそうなったかのような見出しを大手新聞各社が掲げるのは如何なものだろうか。自分には、私企業に深刻な不利益を与えかねない見出し、つまり適切な報道をしていないと感じられる。
このような事を書くと、極端且つ短絡的で、条件反射的に主張する人たちが「ファーウェイ・ZTEの肩をもつ気か!」とか「この反日野郎!」のような馬鹿げた事を言い始めるのだろうが、ファーウェイやZTEの製品に明確な悪意が確認された訳でもないし、個人向けの端末まで含めて排除されることが決定した・排除する方針を通信各社が固めたわけでもないのに、あたかもそうであるかのような印象を抱かせる見出しを掲げるのは、ハッキリ言ってレッテル貼りだと思う。それでは「公正で中立的な報道」とは間違っても言えず、この件に限らず他の件でも公正・中立的でない報道がされているかもしれないという懸念を感じてしまう。
しかし、スマートフォンにしろパソコンにしろ、ルーターのような通信機器にしろ、中国ブランドの情報/通信機器には、自分も不信感を抱いている。それは中国の大手企業が中国共産党と関係がある事と、数年前までの安かろう悪かろうのイメージがまだぬぐえないのが大きな理由だが、中国のパソコンブランド・レノボのPCに、セキュリティ上問題のあるソフトウェアが含まれていると指摘され、レノボもそれを認めた(日経 xTECHの記事)という件があったのも大きい。
パソコンやスマートフォンなどは、利用者に気付かれないようにソフトウェアを仕込むことが難しくなく、特に個人情報を取り扱う端末では信用のおけるブランド選びが重要だと思っている。 そんな観点から自分は中国メーカーの製品を敬遠する傾向にある。しかし、敬遠しているのは何も中国ブランドだけではない。アメリカのブランド・hp(ヒューレットパッカード)のPCにも、キーロガーというキーボードからの入力を記録するソフトウェアが見つかっており(ITmediaの記事)、個人的に同ブランドへの信頼感はゼロに等しくなった。どちらのケースも企業側はミス・バグなどと説明しているようだが、果たしてその説明に信憑性が感じられるだろうか。個人的には感じることができない。
流石に自分はhpに不正疑惑があったからというだけで、アメリカ製品は全て怪しいとまでは思わないが、中国共産党への不信とレノボの件を理由に中国製品全般に不信を感じるなら、各国首脳に対する盗聴疑惑を、NSA:アメリカ国家安全保障局の元職員によって内部告発されたアメリカ政府に対する不信もあるので、それとhpの件を理由にアメリカ製品全般に不信を感じてもいいのかもしれない。
そんな風に考えれば、アメリカ政府の「ファーウェイ・ZTE排除」に果たして説得力があるのか?という疑問も湧いてくる。それは、ウイグル族の弾圧や、政府に批判的な弁護士等を不当に拘束するような中国政府が、カナダでのファーウェイの幹部拘束について「中国公民の合法的で正当な権益を侵害している」などと反論するのと同じくらい「お前が言うな」的な事なのかもしれない。
また、アメリカのブランド・アップルやその他の情報通信機器ブランドにも、勿論日本のブランドでも、部品単位では中国製の製品が少なからず含まれている筈だ。そのような事を勘案すれば、アメリカ政府が進める中国製品排除は、国防上の理由だけでなく経済戦争上の理由も背景にあるように思う。個人的にはこれからも当面中国ブランドの情報通信端末を使う気はないが、「中国製だから排除」というのは、1980年代にアメリカで起こった「労働者の仕事を奪うから日本車を排除」と似たような側面がある動きのようにも思う。