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日本の有名人が政治姿勢表明に消極的な理由


 今年はアメリカ議会の中間選挙の年だった。就任直後から、というか就任以前から何かと物議を醸してきたトランプ大統領の後半の任期の動向を左右する重要な選挙で、投票は11/6に行われ、その結果下院で民主党が過半数を獲得した(ハフポストの記事)。トランプ氏にとっては都合の悪い結果だったが、中間選挙で野党側が勝利を納めるのはそれ程珍しい事でもなく、強がりか本心かは定かでないが、トランプ氏は「大成功」とツイ―トした(AFPの記事)。
 中間選挙を約1か月後に控えた10/8に、アメリカだけでなく世界的に、若者を中心に絶大な人気を誇るテイラー スウィフトさんが、SNSで民主党支持を表明・投票を呼び掛けたことが大きく注目された(ハフポストの記事)。アメリカでは、芸能人などが政治的な姿勢を明確に示す事は決して珍しい事ではないが、彼女が若者にかなり大きな影響力を持っている事、これまで政治的な姿勢を明示していなかった事などが注目を集めた理由だろう。


 自分はこの記事に「日本のアーティストにはこの手のモノ言う人が出てこない」とコメントをした。しかし今考えてみると、例えば松山 千春さんは鈴木 宗男さんへの支持を明確に示してきたし、やや性質は異なるが、元SPEEDの今井 絵理子さんは自身が議員として立候補し、現在実際に議員として活動しているし、決して日本のアーティストに政治的な意思表示をする人が皆無とは言えない。ただそれでも、政治的な意思表示するアーティストが少ないことには違いない。
 沖縄では、急逝した翁長県知事の次の県知事を決める選挙が9月に行われ、翁長知事の路線を引き継ぎ「辺野古移設反対」を掲げた玉城 デニー氏が、辺野古移設に関しては沈黙を貫き政府与党の支援を受けて立候補した佐喜眞 淳氏に8万票もの差をつけて当選した。安倍首相は玉城沖縄県知事との初めての会談の中で、「県民の気持ちに寄り添いながら、基地負担軽減に向け一つ一つ着実に結果を出す」と述べたにもかかわらず、現在辺野古での工事が強行されており、12/14より土砂の投入が始められている。



この事態を重く見た有志によって、アメリカのトランプ大統領へ建設中止を求めるインターネット署名活動が始められた。人気バンド・アジアンカンフージェネレーションの後藤 正文さん、タレントのりゅうちぇるさん、モデル・タレントのローラさんもSNSなどで署名を呼び掛けた(ハフポストの記事)。

 特に注目を浴びたのは、日本だけでなく海外へも活動の幅を広げており、若者へ強い影響力を持つローラさんだ。彼女が明確に政治的な意思表示をした事に対して、「大した知識もない芸能人が口を出すな」のような中傷がSNSの一部にみられる。また、彼女が日本とバングラディシュのハーフであり、国籍を公言していない事を根拠に「外国人が日本の政治的事案に口を出すのは内政干渉だ」なんて馬鹿げた主張をする者もいる。暴言を恥ずかしげもなくSNSに投稿することでも有名な百田 尚樹氏などは、

などと、ローラさんを「牝ガエル」呼ばわりする始末だ。

 自分はこの流れを見ていて、昨年末に何人かの女性有名人が、海外でのMeTooムーブメントに呼応して過去のセクハラ体験を告白した時に、所謂セカンドレイプ的な、被害者を蔑むような主張がSNS上で決して少なくなかった事や、今年・2018年4月に発覚した財務事務次官によるテレビ朝日記者の女性へのセクハラ発言問題でも、麻生財務大臣を始めとした複数の政治家が「次官は嵌められた」、つまりセクハラはでっち上げだと示唆する発言をした件を思い出した。
 前述したように、日本の芸能人・タレント・有名人・スポーツ選手などには、政治的姿勢を明示する者はあまりいない。ワイドショーに出演してコメンテーターを務めるタレントもいるし、これまで挙げたように少数ではあるが政治的な姿勢を明示する者は存在するが決してその数は多くない。なぜ日本の有名人にその手のタイプが少ないのかと言えば、ローラさんのように誹謗中傷の対象にされる恐れがあるからだろう。彼女が示した姿勢を誰もが肯定しなければならないなんて事は絶対あり得ないが、異なる見解を表明して批判する事と、誹謗中傷は確実に別モノである。それを理解していない大人が日本にはどうも多いようで、それはつまり、日本の民度がまだまだ先進国のそれとは言い難いという事なのかもしれない。国外からそう思われたくない日本人は、批判と誹謗中傷を区別できない人達に対して、明確にそれを指摘していく必要があると思う。

 日本人の参政権行使率、つまり投票率は下落傾向にある。特に若年層ではそれが顕著で、政治に興味・関心が薄い人が多い傾向にあり、有名人に限らず政治的な話を敬遠しがちだ。例えば、辺野古基地移設問題に関しても、自分事と受け止められず沖縄だけの問題と認識している人も多い。これについて、沖縄の海が背景のドローン空撮を駆使した映像にのせて自分の主張を繰り広げることで今年注目を浴びた、在沖縄芸人の通称せやろがいおじさんは、「沖縄の問題やなく、日本の問題として考えよう~」と訴えている。


個人的には、沖縄の問題でなく日本の問題として考えようと訴えると、「沖縄だけの問題じゃないんだから、沖縄だけで選んだ県知事の方針でなく、国政選挙の結果選ばれた日本政府の意向に従え」と主張し始める人達が一定数いるので、その観点からの問題提起にはあまり賛同できないのだが、それでも「自分とは直接関係ないとは思わず目を向けよう」という見解には強く共感する。

 日本人の多くは、学校で「いじめを見て見ぬふりしてはいけない、見て見ぬふりをすることは、いじめに加担しているのも同じこと」と教えられている筈だ。少なくとも自分はそう教わったし、そのような問題提起をする啓発CMも放映されてきた。



辺野古への基地移設工事の強行が「いじめ」なのか、に関しては人それぞれ評価が分かれるだろうが、基地移設反対を掲げた知事が8万票もの差をつけて当選した、つまり沖縄県民が選んだにもかかわらず、国がそれを無視して工事を強行しているのは自分には「いじめ」と思えるし、その工事に異議を呈したモデル・タレントらに対して誹謗中傷が行われるのもまた「いじめ」の類だろう。なぜ少なくない日本人はこのような「いじめ」を傍観できるのか自分にはよく分からない。大人がこんな状況では、子供社会からいじめがなくなる筈ない。
 有名人がこういう事について、その影響力を行使しないのも「いじめの傍観」だと感じるし、影響力を行使するタイプ、つまりモノ言うタイプだと誹謗中傷の対象にされてしまう、そんな状況に陥る懸念があるから影響力を行使しない有名人が増える、という負の連鎖が日本にはあるように思う。自分はこの元凶は、兎に角波風立てないようにすることが重視される、主張が強いと煙たがられる、周囲と同じであることを求められる、同調圧力が強い学校教育だと思っている。まずそこから改善しない限り、いじめの問題も、政治的関心の低さの問題も、批判と誹謗中傷を区別できない大人の問題も、どれも根本的な解決に至らないのではないか?と考える。

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