「これだけやれば大丈夫」というニュアンスの健康情報はどれも大概胡散臭い。○○ダイエットとか○○健康法のような記事・番組、これだけ飲む・服用しておけばそれでOK的な宣伝をする健康食品などを見る度にそう思う。なぜそう感じるのか? 大体どの情報にも、まず「個人の感想です」とか、「適切な食事管理・運動を併用した結果」などの注釈があるからだ。声を大にして言いたい、
好ましい結果の主な理由は「適切な食事管理・運動」等の規則な生活であって、そのダイエット法・健康法、健康食品がその主な理由だというのはあくまで合理性の定かでない「個人の思い込み」であるという状況を、恣意的に言い換えただけではないのか?と。個人的には誇大表現と感じるが、その手の記事・番組だったり、宣伝だったりが無くならないということは、好意的に捉える人も決して少なくないという事なのだろう。しかしよく考えて欲しい。これまで一体幾つの健康法、ダイエット法、健康食品が世に提案されてきただろうか。その内一体どれ程が定番になっているだろうか。定番化したものは皆無だとは言わないが、どう考えても定番化した方が少ない。つまり、その手の情報・商品の大半は大した効果が得られない類の代物だと言っても過言ではない。本当に有用な情報・商品なら定番化し、医療界からも大きく注目されるだろうから、一過性のブームで終わることはない筈だからだ。
2016年、DeNAが運営していた医療情報サイト・WELQ が、正確性を欠いたり無断転用されたりした記事を多数掲載していたことが発覚した(読売新聞の記事)のを発端に、WELQ以外のWebサイトや怪しい新書、更にはキー局やNHKが制作する健康番組等、ネット内外でいい加減な医療・健康情報が幅を利かせている現状が、複数のメディアや有識者・SNS利用者などによって指摘された。そんな状況を憂慮して、話題になる医療・健康情報の信憑性を検証することを目的とした活動がその後幾つか始まったが、BuzzFeed JapanはBuzzFeed Medicalと題して随時関連記事を掲載している。
そのBuzzFeed Medicalの記事の1つとして、「15分ごとに水をゴクゴク 風邪予防になるの?」は昨日・12/27に掲載された。記事で取り上げらたのは、12/19に投稿され少なくとも10万件以上リツイートされた、
喉についたウィルスや菌は気管に入る前に胃に流し込んでしまえば死滅する為15分毎に水分を摂ると風邪やインフルを予防できると知り、職業柄人混みウィルス蔓延の中働いている私は仕事中15分毎に水やお茶を2口ほど飲んでいる。これを実行してから2年近く一度も風邪を引いていない。小まめに摂取がポイントというツイートの信憑性を調べた記事だ。 因みにこのツイートは現在既に削除されているそうだ。記事の見出しを見れば、検証記事という体裁で書かれた記事のように見えるが、実は検証そのものは記事の本旨ではなく、それを切り口に「風邪予防に必要な知識」を紹介するという内容だ。内容を考えれば、この見出しの付け方は本旨とはやや乖離しているようにも感じられ、あざといようにも思えるが、興味を惹き読んで貰う為にはギリギリ許容してもよい見出しのようにも思える。ただ自分から見れば、この記事で紹介されている「風邪予防に必要な知識」はごく当然の事で、記事の本旨とはやや乖離する「見出し」で記事を興味を惹くという手法で、ごく当然の内容の記事を読まされた感があり、PV稼ぎ感を感じてしまったのも事実だ。
しかし、記事では自分が認識していなかった事も紹介されていた。自分は記事の冒頭で紹介された前述のツイートを読んで、
だったら風邪予防のうがいはなんなの?ウイルスや菌を内蔵に入れない為に「飲む」んじゃなくてうがいをして「吐き出す」んじゃないの?とまず感じたが、記事でこのツイートの信憑性に関して解説をしている国立国際医療研究センター・総合感染症科長の大曲 貴夫さんは、
胃酸に触れればウイルスや菌は死ぬでしょうから、それなりに筋の通った話に見えるのが困ったところですね。目や鼻など他の粘膜からも体内に侵入しますから、口から水を喉に流しただけでは感染は防ぎきれないというのが正確な評価でしょうとしている。つまり、うがいで吐き出さずに飲み込んで胃に流し込んでも、完璧ではないにせよ風邪予防にはなる可能性はあるという事だ。ただ大曲さんは、水分の取り過ぎは電解質のバランスに悪影響を及ぼし、体内の塩分濃度が低くなる低ナトリウム血症になる恐れもあるので、15分毎の水分補給を積極的に勧める気にはなれない、というニュアンスも伝えていることは付け加えておきたい。
自分は小さいころから風邪予防には「帰宅時の手洗い・うがい」が有効と言われ続けて育ってきた。なので手洗い・うがいさえしていれば風邪を引かないと、手洗い・うがいを過信し過ぎている傾向がある。懸案のツイートを読んで自分は「15分毎に水を飲んだだけで風邪予防になるか?」と感じたし、冒頭で示したように「これさえすれば大丈夫」というニュアンスの健康情報に胡散臭さを感じているにもかかわらず、だ。「これさえすれば大丈夫」のような、あたかも万能性があるかのような医療・健康情報を信じてしまう人は特殊詐欺に騙されやすかったり、怪しい宗教にハマったりする人の予備軍なのかもしれないと思え、この記事のように掘り下げた見解を示して「安易に信じてはいけないと啓蒙する」のは重要かもしれない。しかしその一方で、「病は気から」とも言うし、適度に信じればそれなりのプラセボ効果はありそうだ、とも感じられる。例えば、自分の手洗い・うがいの過信程度なら、それ程大きなリスクもないだろう。
12/26、日本相撲協会は両国国技館で、ファンサービス企画である「赤ちゃん抱っこ記念撮影会」を開催したそうだ(スポニチの記事)。この企画に関して日本相撲協会は、
<赤ちゃん抱っこ会>古来より、強いお相撲さんに赤ん坊が抱っこされると「丈夫に元気に育つ」と言われております。白鵬Tと。http://t.co/KAMU0myLTz #sumo pic.twitter.com/qwoqbT4ifA— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2014年12月27日
と、過去にツイートしている。「古来より、強いお相撲さんに赤ん坊が抱っこされると「丈夫に元気に育つ」と言われております。」というフレーズは、今年のチケット販促 でも用いられている。
今年・2018年4月に、巡業先の土俵で挨拶していた市長が倒れた際に、治療の為に土俵に上がった観客の女性に対して、相撲協会の行事が「女性は土俵から下りてください」というアナウンスを数回繰り返し、さらに関係者から「女人禁制は伝統」のような見解が示されるという事があったが、土俵上の女人禁制は明治以降、つまり近代以降に始まった事なのに、古くからの伝統と言えるのか?とか、ちびっこ相撲でまで女児禁制とするような対応はまともなのか?なんて疑問もあり(4/14の投稿)、この件に関しても「古来って一体いつだよ?」と個人的に感じてしまうし、強い力士に抱かれた子どもが丈夫に育つなんてのは一種の迷信、とも感じる。しかし一方でこれは信じたい人が行う願掛けのようなものであることも分かっている。相撲は神事だそうだから、信じたい人が信じて楽しむ?心の拠り所にする?一種の宗教儀式のようなものだと考えれば、信じたい人がそう信じて興じる分には何も問題はないだろうとも思う。
「強い力士に抱かれたら子どもが丈夫に育つ」というのは、ある意味で胡散臭い医療・健康情報の類であるとも言えるのではないだろうか。勿論、そんな穿った視点で考える人はほんの一握りだろう事も分かっている。しかし、この企画に参加する人の大部分は「願掛け」だと認識して参加するだろうが、万が一「これだけやっておけば子どもは健康に育つ」と本当に信じて参加する人がいたとしたら、そんな人が無視できないくらい増えたら、この企画は途端に胡散臭い治療・予防医学イベントになってしまうかもしれない。もしそんな状況になりそうなら、日本相撲協会も流石に相応の対応をするだろうから、実際にそんなことにはならないだろうが、そのような恐れは一切ないとまでは言えないだろう。
つまり何が言いたいのか? 医療と信仰を明確に区別することは難しく、一見信憑性が薄そうな話でも、信じたい人が適度に信じることには相応の意味・意義があるとも言えそう、という事だ。勿論金稼ぎ等を目的とした悪意のある嘘・誤った情報の発信には、相応の対処をしなくてはならないことには何も異論はない。ただ、BuzzFeed Japanの記事で取り上げられていた「15分ごとに水やお茶を飲むことで風邪が予防できる」という話について、自分は胡散臭くて怪しいと感じるし実践したいとは思わないが、「やりたい人はやればいい」程度の話のようにも思える。ただ、BuzzFeed Japanが掲載したような「ツイートでは何か明確な根拠がありそうなニュアンスだけど、実際はこういうこと」と指摘することにも充分必要性はあるとも思う。