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蔓延る嘘、嘘のトリクルダウン


 宝島社が1/7に、読売新聞と日刊ゲンダイ、朝日新聞に掲載した意見広告が話題になっている(BuzzFeed Japanの記事)。読売とゲンダイに掲載された広告は同じ内容だが、朝日新聞に掲載された広告は内容が異なる。しかし共に「嘘は社会に悪影響を与える」という事がテーマになっている。


 「嘘」とは一体なんだろうか。「嘘」だけで考えれば「事実ではないこと」だろうが、「嘘をつく」だと「人間をだますために言う、事実とは異なる言葉」で、騙す意思がない場合は事実と異なる内容の話でも「嘘」には該当せず、単なる間違い・勘違いに当たるというのが一般的な認識かもしれない。刑事・民事に関わらず訴訟の中では「騙す意思があったか否か」は重要な判断材料の1つとして扱われる場合が多い。


 しかし、嘘に当たるか否かを判断するのに、この「騙す意思があったかどうか」という点が重要であるという一般的な認識を利用して、というか悪用して、「騙す意思はない」という体裁で平気で嘘をつく人が世の中には少なからずいる。特に政治の世界にはそんな人が以前から多いし、昨今は不適切な発言・行為を指摘された政治家が「誤解を与えかねない発言・行為だった」などの見解を示すことが定石化しており、その傾向に更に拍車が掛かっているように思う。
 宝島社が読売とゲンダイに掲載した広告の文言は、
いろんな人がいろいろな嘘をついている。
子供の頃から「嘘をつくな」と言われてきたのに嘘をついている。
陰謀も隠蔽も改ざんも粉飾も、つまりは嘘。
世界中にこれほど嘘が蔓延した時代があっただろうか。
いい年した大人が嘘をつき、謝罪して、居直って恥ずかしくないのか。
この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。
嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。
で、前述のような状況を強く想起させる内容である。トランプ米大統領などを勘案すれば決して日本に限った話ではないが、広告の中でも指摘されている隠蔽・改ざん・粉飾などが頻発している日本も含めて、各国でその国を代表する政治家・企業経営者らが嘘をつくのが当たり前になっている。彼らの影響で嘘をつくことを厭わない・若しくは開き直る大人が少なからず増える。そんな大人を見て育つ子どもの内の何人かは、嘘をつくこと・誤魔化すことを嫌悪しなくなるだろうし、咎められても「大人もやっている」と開き直るだろう。
 この状況はデフレよりも更に深刻な負のスパイラルではないだろうか。デフレすら脱却できない日本で、現在日本が世界的に見てかろうじて経済水準を維持出来ている要因の一つである、日本は誠実な国民性で信頼できるという国際的な共通認識の存在を、崩壊させかねない負のスパイラルが今後進行するようならば、それは様々な面での国としての明らかな退化に繋がるだろう。


 1/6のNHK・日曜討論の中で、安倍首相は普天間飛行場の辺野古移設工事・土砂投入に関して、「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移植している」と述べた。



 安倍氏は「あそこのサンゴについてはこれ移しています」と述べた後に、「また絶滅危惧種が砂浜に存在したが、砂をさらって別の浜に移した」とも述べており、絶滅危惧種以外のサンゴも移植が行われたかのような言いぶりだ。2018年8/7の沖縄タイムスの記事よれば、確かに絶滅危惧種のサンゴ9群体を移植した事実があるようだが、この首相の発言を受けて掲載された、2019年1/8の琉球新報の記事Jキャストニュースの記事によれば、移植が行われたのはその絶滅危惧種9体のみのようだ。

 自分は「安倍氏は嘘つき」だと断定的に感じている。そう確信させられた一番の要因は、東京オリンピック招致活動のスピーチで、事故を起こした福島第一原発について「the situation is under control」と述べたことだ。実際は全くアンダーコントロール、掌握・支配下にあるなんて言える状況でなかったことは、誰の目にも明らかだ。事実として廃炉作業が順調に、予定通り進んでいるなんて全く言えない状況が今も続いている。



他にも彼が嘘つきであると感じられる理由はある。例えば、1回目の増税延期の際に、次は必ず増税するとしていたにも関わらず増税を延期した、消費税率10%への増税2度目の延期(2016年)の際の「新しい判断」という強引な説明なども、彼は嘘つきであると感じる理由の一つだ。
 今回のサンゴの件も、嘘か否かという点に絞って考えれば、彼の単なる不勉強さが露呈しただけであって、沖縄県民やその他の国民を騙そうと思ってついた「嘘」ではないかもしれない。もしそうだとしてもそれはそれで大問題なのだが、しかし、どう考えても彼の発言が事実に即していないのは十中八九間違いなさそうで、事実とは異なる、という点で言えば、彼の主張は「嘘」と言えるだろう。

 自分が住んでいる国の名実ともにトップである首相が、テレビに出演して平気で嘘をつく状況が現実としてそこにあるのだが、なぜこのような人物や、彼が代表者を務める政党が、選挙の度に国民によって信任されるのだろうか。とても不思議でならない。選挙の度に投票先選択理由の世論調査で、「経済政策」が第1位に挙がるが、多くの日本人は経済の為なら嘘つきが国のトップでも構わないと思っているということだろうか。
 嘘つきが行う経済政策が果たして信用に足ると思っている人が多数派だとしたら、日本国民は総じてお人好し・ご都合主義的過ぎるし、金の為なら多少ダーティーでも構わないという認識が国中に広がっているようなら、近い将来「日本は誠実な国民性」という国際的な評価は確実に失墜することになるだろう。何故なら、意図した嘘か結果的な嘘かに関わらず、嘘をつくこと、いい加減な事を言う事、恣意的な解釈を示す事、誤魔化すこと、開き直る事は確実に誠実とは真逆である。嘘が許される国の国民性が誠実であるなんてことはどうやってもありえない。

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