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「有効求人倍率は過去2番目の高水準、失業率は8年連続の改善」は本当?


 今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでは「平均有効求人倍率 過去2番目の高水準」というニュースを、20代が注目したニュースランキングの4位として取り上げていた。
 厚生労働省によると、2018年の平均有効求人倍率は1.61倍と、1973年に次ぐ過去2番目の高水準となった。また総務省が発表した2018年の平均完全失業率は、前の年より0.4ポイント低下の2.4%で8年連続の改善、2018年1年間の就業者数の平均は6664万人と前の年に比べて134万人増加しており、その内訳を見ると男性45万人に対して女性が87万人と大きく上回った
と伝えた。
 まず、厚労省が毎月勤労統計で不正な調査を行っていたのに、果たしてこの発表の数字も正しいのかどうか分からないと率直に感じる。厚労省の統計不正を指摘したのは総務省だそうだが、その後総務省の基幹統計でも不正調査が発覚している(産経新聞の記事)。勿論どちらの省の発表も、それらの不正を勘案した上で再精査した数字を発表しているのかもしれない。しかし、勤労統計不正に関する厚労省の特別監察委員会の実態調査が、再調査に追い込まれるような杜撰なものだったことを前提に考えれば、本当に適当な再精査が行われているかどうかも怪しい。


 番組は「(真偽・各省のデータ読み解きの適不適は別として、)このような発表がありました」という体裁で伝えているという事は、番組MCの堀 潤さんがやんわりと「過去2番目の高水準だからと言っても、手放しで喜べるような状況とは言えない」というニュアンスで解説を行った事からも理解はできる。しかし、数字そのものに疑義を呈するような見解は出演者の誰からも示されなかった。個人的には、発表された数字自体の信憑性が揺らいでいるという点にも触れて欲しかった。つまり、議論をする為の前提が揺らいでいるというのが現在の状況で、それはかなり深刻な事だと自分は感じている。前提とする数字が揺らいでは適切な議論が出来ないということは、昨年の国会で議論された「裁量労働制の拡大」について、厚労省が余りにも杜撰で恣意的な解釈に基づくデータを示したことからも明らかだ。つまり2度ある事は…というのが今の状況だと強く懸念する。

 また、厚労省や総務省が発表した求人・失業率が正しかったとしても別の違和感が生じる。求人倍率が高水準・失業者も少ないということは労働市場は売り手市場、つまり労働者に有利な状態な筈なのに、何故実質賃金が上がらないのかという疑問を感じる。厚労省発表の2018年度の実質賃金は、多くの月でプラス傾向だとされていたが、不正発覚後に野党らが試算しなおした結果、実際は多くの月でマイナス傾向だったことが公表された(ロイターの記事)。厚労省側もその再試算の結果を概ね受け入れている。
 求人倍率が高く、失業率も改善しているにも関わらず賃金が上がらないという事は、その主な要因は景気が良くなったことではなく、団塊世代の引退、少子化などによる労働人口の減少や、所謂ブラック企業に人が集まらない状況などなのではないだろうか。後者については、この日の番組コメンテーターだった中土井 鉄信さんも指摘をしていた。

 モーニングCROSSの伝え方に、1/30の投稿で書いたような、NHKの報道に対して感じたのと同程度の大きな不信感を抱いたわけではないが、冒頭で紹介した、キャスターの宮瀬 茉祐子さんが読み上げた原稿の内容に関しては、もう少し数字の信憑性に対しての懸念が含まれていても良かったのではないかと思う。伝え方について様々なスタンスがある事は理解するが、あの原稿内容では、政府側の発表をそのまま流しているだけで報道ではなく広報ではないのかと感じる。
 勿論、その後に前述したような堀 潤さんの解説や各コメンテーターの読み解きが示されていたので、完全に政府広報化しているとは言えないだろうが、自分には「有効求人倍率は過去2番目の高水準」「失業率は8年連続の改善」という部分が強調されていたように見え、またそれに対する強い疑義、別の側面もある事が充分に提示されていたようには思えなかった為、「景気回復「戦後最長」の可能性高まる」と報じたNHKに対して感じたのと同種の懸念が感じられた。

 以前堀 潤さんは、安易な両論併記は必ずしも中立とは言えないという見解を示していたように記憶している。政府等の発表を出来る限りそのまま伝えるだけの方が「中立・公平」な伝え方なのか、発表に対する疑念も含めて伝えることが「中立・公平」な報道なのか、絶対的な答えなどないのだろうが、逆に言えば、どちらに寄り過ぎても「中立・公平」な報道ではなくなってしまうとも言えそうだ。
 直前に深刻な統計不正が発覚し、それに関する不適切(個人的には不可抗力的な意味の不適切でなく、矮小化目的で意図的に行われた不正と考える)な実態調査が行われた事、昨年来似たような統計・データの不正・捏造・隠蔽が頻発している事を勘案すれば、今朝のモーニングCROSSのこの件の伝え方は、後者の視点での伝え方が足りていなかったのではないか?と感じられた。

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