辺野古移設の是非を問う沖縄県民投票から2日経った。一部で在京キー局での沖縄県民投票の扱いが小さいという見解があるようだ。自分も思っていたよりも扱いが小さいとは感じるものの、逆に言えば本土市民の沖縄県基地問題に対する関心の低さの現れであるようにも思え、ニワトリが先かタマゴが先か、メディアが先か市民が先か、みたいな状況にもあると考える。ただ、どちらが先だろうが悪循環である事に変わりはない。
BuzzFeed Japanは投票日の2/24に「沖縄の海に叫ぶ、ふんどし姿の「おじさん」と基地問題 切り離せない過去」という記事を掲載した。沖縄の海をバックに社会派ネタを叫ぶ様子をドローンで撮影する動画で注目を浴びているせやろがいおじさんこと、榎森 耕助さんが、奈良県から沖縄国際大学に進学した自身の経歴を振り返る内容の記事だ。沖縄国際大学は普天間基地に隣接しており、2004年に米軍ヘリが墜落した大学だ。
彼は米軍機の騒音によって大学の講義がしばしば中断することや、安さと広さにつられて基地に隣接するアパートを借りたが、想像を超える騒音だったことなどにも触れている。記事では他の事もたくさん書かれているが、この部分だけでも、本土の市民だろうが決して他人事ではないと言えそうだ。自分の実家は厚木飛行場からおよそ10kmだったが、それでも結構騒音はあった。ボロ家だった所為もあるだろうが、航空機の種類・高度・距離によっては窓がガタガタと揺れ、テレビの音も聴き取れなくなることがあった。10km程度離れている事もあって学校は普通の窓だったし、クーラーもなかった為夏は窓を開けていて、飛行機の音が大きくて先生が話を中断することもしばしばあった。湾岸戦争や同時多発テロなど国際情勢がキナ臭くなると、22時以降でも米軍機の音が聞こえる事が普通になる。飛行場のすぐ隣に家があったら、学校があったら、自分の体験なんて足元にも及ばないレベルだろう。羽田空港のすぐ対岸にある城南島公園にはキャンプ場がある。そこでキャンプをすると、頭のすぐ上を飛行機が飛ぶ生活や轟音が半端ないことを体験できる。
沖縄の基地問題が他人事ではない理由は騒音以外にもある。厚木基地を離陸した米軍機が現在の横浜市青葉区の住宅地に墜落し、複数の家屋を炎上させ、市民3名が犠牲になったという事故が1977年に起きている。東京にだって横田基地があり、横田基地についても騒音被害に関する訴訟はある。基地の問題も米軍機の墜落等の問題も、決して沖縄だけの問題ではない。日本のあちらこちらに存在している問題だ。沖縄返還前に日本各地で米軍施設への反対運動が起きた結果、本土での施設の返還が進んだ分が、当時アメリカの統治下だった沖縄への集約・固定化に繋がった側面も確実にある。「基地問題は沖縄が我儘を言っているだけ」とか「沖縄の問題だから関心がない」なんてのは、どう考えても適切な見解とは言えない。例えれば「いじめられていた子が、自分だけいじめられる状況から抜け出し、別の子がいじめられていても「自分の事じゃなから関係ない」と言い始めたり、いじめる側に回る」ような事をしているのも同然だ。
このように「沖縄の基地問題は沖縄だけの問題ではなく日本全体の問題だ」と主張すると、とんだ勘違いが出てくる。今朝のMXテレビ・モーニングCROSSは、昨日首相が県民投票の結果を受けて会見で見解を述べたことなど、昨日に続けてトップで沖縄県民投票関連のニュースを取り上げていた。在京キー局が沖縄県民投票の件を積極的に取り上げない中で、昨日今日とトップニュースでこれを取り上げるモーニングCROSSの姿勢は評価したい。が、今朝のコメンテーターの一人だった国際弁護士・清原 博さんのコメントは信じられない内容だった。彼は「安倍さんが真摯と言ってても、(一方で移設)工事を進めながら真摯に対話をしていきます、そんなのはあり得ない」とし、
今回民意が示されたのは沖縄だけだが、全国の世論調査を見ても、やはり辺野古移設は止めるべきだという意見の方が多かったりするわけで、こうなったらもう全国的な国民投票で、本当に辺野古移設でいいのかどうか、国外移転ということを交渉すべきじゃないかとか、そんな論点で全国で投票すべきだと思うと述べた。 恐らく彼は「沖縄の県民投票の結果が尊重されていないから、更に無視できないような国民全体での投票を行うべきだ」と言いたかったのだろうが、よく考えてみて欲しい。沖縄の民意は、1996年の「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票」でも圧倒的多数で示され、また昨年の県知事選でも、辺野古移設反対を掲げた知事が8万票もの差をつけて当選したことによって既に示されているにもかかわらず、日米政府が「普天間基地の除去については、辺野古移設が唯一の解決策」という姿勢を変えず、工事を強行しているから2/24の県民投票が行われたという事を。
つまり、国が辺野古移設に関する国民投票を行うなんてことはまずないだろうし、百歩譲って国民投票が行われ、移設反対が国民全体の民意が示されたとしても、2度ある事は3度あるだろうから、日米政府はそれを無視して工事を続けるだろう。もし万が一国民投票で移設賛成が上回るような事になれば、上回らなくても賛成とも反対とも言えないような微妙な結果が出てしまえば、沖縄と日本全体の民意にねじれが生じることになる。そんな事になれば、スコットランドやカタルーニャのように、沖縄も日本からの独立を問う県民投票を検討するなんて事にもなりかねない。
辺野古移設に関する国民投票を提案するのなら、沖縄が県民投票を検討し始めた時点で、少なくとも沖縄が県民投票に踏み切る前に提案しなくてはならなかった。もしかしたら以前から彼はそんな主張をしていたのかもしれないが、沖縄での投票結果を受けてから「辺野古移設は沖縄だけの問題じゃないから国民投票を行うべき」なんて言うのは、沖縄の民意を無視して踏みにじるような行為でもある。つまり清原さんも、安倍氏と同様県民投票の結果を真摯に受け止めていないとしか言えない。辺野古移設問題は日本全体の問題であるのは事実だが、絶対的な当事者である沖縄県民が示した民意を尊重しない行為の合理性を論じるのに、それを持ち出すのは詭弁である。意図的にではないかもしれないが、清原さんはそれをしてしまっている。
この清原さんの主張のすぐ後に、番組MCの堀 潤さんは、AbemaTVのブログ/ニュースサイト・Abema Times「「今こそ自衛隊のあり方を議論すべき」辺野古の埋め立て賛否を問う県民投票の結果受け、堀潤氏」でも主張していた、 自衛隊の在り方見直しを今こそ、米軍基地問題と共に考えるべきという見解を示していた。確かに、沖縄の米軍施設の返還を求めるのならば、同時に自衛隊による防衛策の充実についても考える必要はあるだろう。しかし個人的には、なぜ沖縄県民が米軍基地に反対しているのかにも注目するべきだと思う。
前述のように首都圏でも厚木基地や横田基地等の基地問題はある。しかしなぜそれが深刻化していないのか、反対の声が沖縄程高まらないのかと言えば、沖縄県程は墜落事故が起きないし、米兵による暴行・殺人事件なども殆どないからだろう。沖縄で米軍絡みの事件・事故が多いのは、日本に駐留する米軍の約7割が沖縄に集中しているからという側面がある。母数が多ければ事件や事故が多くなるのは当然だ。例えば米軍・米兵に限らず、基本的に人が多くなれば犯罪の発生件数も増えるし、自動車の台数が増えれば事故件数も比例して増える。だから「沖縄以外の県にも米軍基地を負担して分散させて欲しい」として、反対している沖縄の人も決して少なくないだろう。
しかし集中していることだけが不満の理由ではない。東京や大阪には人口が集中している分、犯罪や事故の件数も多いだろうが、だからと言って「人口をもっと分散させろ」という論調は高まらない。厳密には、代々住んでいる人の中には「もうこれ以上東京(大阪)に集まってくるな」と言っている人もいるだろうが、沖縄の基地問題への反対程は多くない。何故かと言えば、人が多い分犯罪や事故の件数も多いが、それらの事故・事件について、概ねまともな捜査が行われ、まともに裁判が行われ、公平な判断が下されるので、人やクルマ等が多い分事件事故件数も多いことによるメリットもあるし、ある意味仕方ないと思えるからではないだろうか。もしまともな捜査や裁判が行われないのだとしたら、しかも地方から東京や大阪に出てきた人贔屓の捜査や裁判が行われる状況だったら、人口が多いことによるメリットがあったとしても、代々東京(大阪)に住んでいる人達は、沖縄の基地反対と同じ程度かそれ以上の勢いで「もうこれ以上東京(大阪)に集まってくるな」と言うのではないだろうか。それどころか「地方出身者は東京(大阪)から出ていけ」と言い始めるのではないだろうか。
沖縄は戦後ずっとそんな状況に晒されている。何故なら、米軍が事故を起こしても、米兵が事件を起こしても、日本側が主体的に捜査に関与できないという取り決めの日米地位協定があるからだ(厳密に言えば任務・職務外での事故や事件なら日本側にも捜査権はある)。自分が知っているだけでも、1995年の米兵少女暴行事件、2004年の米軍ヘリ墜落事故、そして近年頻発した米軍ヘリやオスプレイの墜落事故に関しても、暴行事件の犯人は引き渡されず、日本側は捜査が一切できなかった。このような状況は1955年の嘉手納幼女強姦殺人事件などからも分かるように沖縄の返還前から続いている。
個人的には、地理的状況、日本を取り巻く国際情勢を考慮すれば、沖縄に基地が集中している状況はある意味仕方がないことだとも考える。しかしそれを前提にしたとしても、普天間基地の機能を沖縄県内に留めたいのであれば、明らかな不平等条約である日米地位協定の改定は不可欠だ。
前述した1977年の横浜での米軍機墜落事故等でも日米地位協定によって日本は主体的な捜査を行えず、米軍や米兵への責任追及ができなかった。また、厚木・横田・横須賀等にも沖縄程ではないが米兵が駐留している。彼らが沖縄で起きたのと同様の暴行・殺人事件を絶対に起こさないとは言い切れない。日本人の中にも、警察官や自衛官の中にだって婦女暴行やその他の犯罪を起こす者が少なからずいるように、米兵にだって罪を犯す者はいる。今後もし本土でそんな事件が起きた際に、基地内での出来事だから、などの理由によって、日本側が捜査を主体的に行えないなんてことがあってはならず、地位協定の改定が必要だというのも、決して沖縄だけの問題ではない。
ただ、地位協定の悪影響を最も受けてきた、というか今も最も受けているのは沖縄県であって、普天間基地の機能に留めたいとか、辺野古移設が唯一の解決策だ、などと言うのなら「最低でも日米地位協定の改定・不平等条約の解消」が不可欠だ。なのに何故か首相や政府・与党からは一切そんな話は聞こえてこない。読売新聞や産経新聞を始めとした、沖縄県民投票の結果を過少評価する勢力もそんな主張は一切しない。特に自民党関係者らが「県民投票の結果を尊重する必要がある」と述べたという報道は一切見ないし、県民投票の結果に関わらず、「それでも辺野古移設は必要だが、その為に日米地位協定の改定を提案したい」という主張をしたという話も一切聞かない。こんな状況では、どうやっても「沖縄県民に(辺野古移設は必要、唯一の解決策だと)理解してもらう」ことなど到底無理だろう。
最後にMXテレビ・モーニングCROSSについて、一つだけ指摘しておきたい。この番組ではハッシュタグ・#クロス を付けた視聴者ツイートを番組中画面に表示している。最近はあまり言及しなくなったが、以前は「タブーなきご意見をお待ちしています」などとしていた。今日は、
というツイートが画面に表示された。邪推だけど、埋立賛成住民は反対派のテロを恐れて、投票に行かなかったと思う。 #クロス— 相川直斗(偽名)™@3/9 茅原実里 中野サンプラザ (@Aikawa_gimei) 2019年2月25日
以前は90分だった放送時間が、現在は広告料収入の伸び悩みやMXの経営的判断などの口実で60分に短縮されているが、番組がこの手の誹謗中傷まがい、明らかな事実誤認に基づく視聴者ツイートを画面に表示する限り、まともな視聴者は寄り付かないのではないか。この手の中傷や、差別的、事実を捻じ曲げた解釈に基づくツイートが画面に表示される度に、同じような事を自分はこのブログに書いて、そのリンクを付けてツイッターでハッシュタグ #クロス をつけて再三指摘しているが、どうやら番組制作側にはそれが届いていないようだ。そろそろモーニングCROSSにも見切りをつけるべき時期かもしれない。