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ハンコ制度の弊害と設問設定の重要性


 「これからの時代、ハンコは必要だと思いますか?」今朝のMXテレビ・モーニングCROSSの視聴者投票のテーマだ。結果は必要/792pt、不必要/1224ptで、概ね必要ないという視聴者の意向が示されていた。
 これが今朝の視聴者投票のテーマになっていた理由は、その日のコメンテーターがそれぞれテーマを掲げておよそ5分程度で論じるコーナーで、スマートニュース コミュニケーションディレクターの松浦 シゲキさんが、「ハンコがなくなるとなにが良くなる?」というテーマを掲げたからだ。このテーマの前提には更に、押印制度見直し法案が、印鑑業界の要望で一部見送りになったことがある(ハフポストの記事「『印鑑なしで法人登記』法案提出を見送りへ。自民党議員「印鑑業界の意見がすべてではないが…」」)。


 松浦さんの立場は明らかに「将来ハンコ制度は不必要」だった。しかしそれでも、彼も一部ハンコの利点を認めてはいたし、この日のコメンテーターの一人・泉 木蓮さんは、父親が他界した際に、父親名義の銀行口座の処理に関して、相続人全員の実印押印した書類が必要になり、実印を押すという行為の重大さが、書類にくまなく目を通すことのきっかけになったというエピソードを話した。また、視聴者ツイートの中には、制度的には必要ないが、文化としては残したい、つまり今後もハンコには必要性があるという意見も目立った。
 この番組内での議論を見ていて、「これからの時代、ハンコは必要だと思いますか?」という設問設定には不備があると感じた。何故かと言えば、一方で、今後も押印に法的な意味を持たせる必要があるか、という意味で投票している人もいれば、他方では、ハンコという存在自体が必要かどうか、という意味で投票している人もいただろうからだ。
 これが、押印を今後も制度として・法的な意味を持つ慣習として続けていく必要があるのか、という松浦さんが提示したテーマに関する投票の設問設定だとしたら、適切な投票結果が得られなかった事になりそうだ。ただ、番組での投票開始以前に松浦さんによる問題提起がなされ、更にそれに対する他のコメンテーターらが見解を示し、これに関する視聴者ツイートも紹介した上であれば、「これからの時代、ハンコは必要だと思いますか?」で投票を募っても、多くの視聴者は概ね単一の争点で投票をしただろうが、番組の構成上その順序が逆だったので、適切な設問とは言えないように思えた。
 勿論これは法的に重要な意味を持つ投票ではなく、あくまで議論を喚起する為にテレビ番組で行われた視聴者投票なので大きな問題にはならないだろう。しかし、これが何かしら法的意味を持つ住民投票等だったとしたら大きな遺恨を残す事になっていただろう。イギリスのEU離脱に関する国民投票を見ていて感じたことではあるが、重要な多数決を取る場合は、設問の設定をかなり慎重に検討する必要性と、事前に何についての投票なのかを充分に周知する必要性があり、事実に即しているとは言えない情報がはびこるような状態で投票が行われることだけは絶対に避けなければならない、ということを改めて感じた。


 ハンコが今後も必要なのかと言えば、自分は2つ程ハンコ制度の弊害を目の当たりにしたことがあるので、制度上の必要性は薄い、寧ろないとすら感じている。勿論欧米で主流のサインだって偽造は出来るし、デジタル署名もまだまだ信用に足る制度とまでは言えず、ハンコが圧倒的に劣っているとまでは思わないが、ハンコさえあれば誰かになりすます事もできる制度には疑問を感じることがしばしばある。
 自分が目の当たりにしたハンコ制度の弊害の1つは、約15年程前に自分の兄が、大手生命保険会社の営業マンに勝手にハンコを作られ、勝手にがん保険に契約させられていたという件だ。自分が契約している金額以上の保険料が毎月引落されていたにも関わらず、それに約1年も気付かずにいた兄にも問題はあるが、ハンコ店では売っていないような苗字のハンコをわざわざ作ってまで契約を偽造したという、その営業マンの行為はかなり恐ろしかった。恐らくノルマに追われた結果、ハンコ制度を悪用して起こした偽造事件なのだろう。金額までは知らないが、兄は相応の示談金を貰って事を荒立てずに済ませたようだが、場合によっては週刊誌の格好のネタになっていたような話だろう。またこれが、詐欺師集団による行為だったとしたら、貯金全額を持って行かれるようなことになっていたかもしれない。更に言えば、ハンコ屋や100円ショップで売っているような苗字の人であれば、ハンコを注文するという痕跡すら残さずにこの手の偽造が簡単に出来るということでもある。

 もう一つの経験は、以前仕事を辞める際に「もう要らないからあげる」と言われて、自分の名前のハンコを手渡された事がある。「え?勝手にハンコつくったの?一体何のために作ったの?」という風にしか思えなかった。この体験を番組ハッシュタグを付けてツイートしたところ、
というリプライがあった。更にこのリプライにも
というリプライがあった。

 前述のように、身内が勝手にハンコを作られて書類を偽造された経験があるので、まるで当たり前かのように言われるととても恐ろしい。「各自に任せるといつまでも終わらないから(苦笑)」なんて言い出す人がいるということは、この程度にしか考えていない経営者、管理者が沢山いるのが現実なのだろう。人の知らないところで勝手にハンコ作って押すなよ、有印私文書偽造になるぞ?としか言えない。1件目のツイートはツイートした本人がそれをやっている側なのか、やられた側なのか定かでないが、2件目のツイートは(苦笑)と茶化すような表現をしている点を考慮すると、十中八九、他人のハンコを勝手に作って押した側の経験談を元にしたツイートなのだろう、と感じる。これは所謂バカッターと似たような、有印私文書偽造の告白なのではないか。告白ではなくとも容認、すくなくとも黙認していることは間違いなさそうだ。


ハンコのみで「同意した」「認めた」なんて認定されたらたまったものじゃない、という思いを再確認させられる朝だった。


追記:
みんながやっていたとしても、他人のハンコを勝手につく行為が正当化できるわけではない。

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