宮城県の老舗かまぼこ店が、3.11、つまり東日本大震災発生した日を前に、
とツイートして話題になった。ストーリー性、つまりテレビで言えば台本、活字系メディアで言えば記者が頭に描いた筋書ありきの取材・報道の多さに辟易しているという表明でもあり、そのようなメディアの姿勢に対する苦言でもある。3.11に向けて毎年2-3月はたくさん取材依頼が来るが、今年は8割以上お断りした。— 蒲鉾本舗高政 (@takamasa_net) 2019年3月9日
まだまだ道半ば系、震災を忘れないで系、困ってます系、こんなはずでは系。
「女川で私はそう思って無いです。取材受けてもいいけど、勝手な構成にしないでね。ナレーションでどうにかするのも無」
大体いなくなる(・ε・
この件に関して、ハフポストの記事「被災地はストーリーの素材じゃない。東日本大震災の報道に、蒲鉾本舗高政が苦言を呈す理由」のコメント欄を見ても分かるように、このかまぼこ店のツイートに同調して、メディアを批判する姿勢のコメントやSNS投稿が多く見られる。
ハフポストの記事にもコメントを投稿したが、自分はこの件に関して、
この件でメディアを批判している人は結構多い。確かにメディアも批判を受けて然るべきだと思う。と感じている。もし、その報道姿勢の評判が悪ければ、つまり視聴率が集まらず、発行部数が伸びず、PV数が上がらなければ、もっと言えばその報道姿勢の所為で視聴率が低下し、発行部数やPV数が下がるようであれば、商業メディアは確実にそんな視点・姿勢での報道をしないだろう。被災地の復興に関する話を、芸能人のスキャンダルや結婚・熱愛報道などとほぼ同列に扱っているのは一部のメディアもそうだろうが、決して少なくない市民にもその傾向があり、それを受けてそのような報道が行われているという側面も確実にある。メディアだけをやり玉に挙げて「マスゴミ」「カスメディアw」なんてコメントを投稿している人を見ると、その手のメディアと団栗の背比べに見えてしまい、とても残念な気分にさせられる。
しかしその一方で、ストーリー性がないと注目すらしない、忘れっぽい視聴者・当該地域以外の国民の多さが、メディアの姿勢に反映されている側面もあると思う。メディア批判をしている人の中には、自ら積極的に被災地の為に何かをしたことがない人も少なくないのではないか。
2020年の東京オリンピックで聖火リレーに使用されるトーチが昨日お披露目された。BuzzFeed Japanの記事「東京オリンピック、聖火のトーチに「光り輝くネギ」の声」によると、
素材は、仮設住宅で使用されていたアルミ素材を再利用したのだそう。これに関しては大会公式ツイッターアカウントでも
とアピールしているし、自分が確認した限り少なくともTBS・テレビ朝日・日本テレビのニュース番組でもこれを取り上げてアピールしていた。恐らく他のキー局も同様だろう。自分にはこれも、メディアだけでなく大会組織委員会などが、被災地・震災・復興に関連するストーリー性を作り出して利用している、厳しく言えば、オリンピックと被災地・復興を政治的な意図で利用しているとしか思えない。#Tokyo2020 #オリンピック #聖火リレー トーチデザインを発表🎉— Tokyo 2020 (@Tokyo2020jp) 2019年3月20日
「桜」をモチーフにした、継ぎ目のないひとつなぎのトーチ。素材の一部には東日本大震災の復興仮設住宅の廃材が使用されています。2020年、桜の季節の訪れとともに、このトーチが全国を巡ります🏃♂️🏃♀️#TorchRelay pic.twitter.com/nhr6JLIXZL
何故なら震災・原発事故から既に8年が経っているのに、未だに帰宅できない地域があるし、帰宅が許されていてもその地域での生活が事実上困難だったり、事故を起こした原発の処理が全く予定通りには進んでいない事への不安などから、避難・もしくは自主避難を続けている人がいるからだ。彼らにしてみれば、「復興仮設住宅の廃材使用」というアピールは、あたかも既に概ね復興が完了しているかのような印象を与えかねないと感じられるのではないか、つまり被災者感情を逆撫でする側面があるように感じられるからだ。勿論そんな風にネガティブに捉えない被災者もいるだろうことも理解はしている。
誘致の際に「コンパクト五輪」を標榜し、約6000億円(3000億円という報道もあれば、7000億円という報道もあった)と試算されていた、2020年東京オリンピックの大会予算は、総額3兆円を超えると言われている。昨年・2018年10月の産経新聞の記事によれば、会計検査院は、開催決定から2018年までの5年間でオリンピックに関する国の支出は約8011億円に上っていると指摘したそうだ。オリンピック全体の予算ではなく、東京都や組織委員会などの負担分を含まない国が負担した分だけで、しかも開催のおよそ2年前までで、既に当初試算されていたオリンピック全体の予算を上回っている。
コトバンク・復興予算によれば、2013年の時点で現政権は
東日本大震災にかける予算を「5年で25兆円」と計画
したそうだ。しかもこの内の10.5兆円は復興増税(2013年から25年間所得税に2.1%の上乗せ、2014年から10年間1000円の上乗せ)によって賄われている。勿論、オリンピックが行われなかったとしても、8011億円全てを復興予算に回せるということではないだろうが、この数字を比較すれば「オリンピックなどやらずに被災地にかける予算に税金をまわせ」と思う人は決して少なくないのではないか。自分には、このような批判をかわす為の施策の一つとして、「聖火リレーのトーチには仮設住宅の廃材を利用しました」というストーリー性をアピールしているように思えてならない。
環境省は原発事故によって発生した汚染土を除染した土の8割が再利用可能だとする試算を3/19に発表した(毎日新聞の記事「除染土8割「再利用可能」 環境省試算 福島県内には抵抗感」)。朝日新聞は2/26に「福島汚染土、県内で再利用計画 「99%可能」国が試算」という記事を掲載している。この除染土の再利用に関する話、福島県内で実験を行うという話は既に昨年あたりから浮上している。
- 除染土を路床に利用 環境省が一般の道路で実証へ(2017年12/13 日経)
- 除染土、農地造成に再利用 環境省方針(2018年6/3 日経)
- 原発事故除染土の再利用を検討(2018年9/3 福井新聞)
環境省が除染土は8-9割が再利用可能だと言うのなら、オリンピック関連の工事、オリンピックとは直接関係のない工事であっても、東京都での工事にその土を使えばよい。世界の注目が集まるオリンピックは、「除染土から危険性は完全に取り除かれている」ということを世界中にアピールする絶好のチャンスではないのか。政府も組織委員会も一部のメディアも「復興五輪」という看板を掲げ、一部の市民もそれに賛同しているのだから、除染土を東京オリンピックや、オリンピックの開催地で政府もある首都・東京で率先して引き受ければ、被災者や福島県民・周辺地域の住民にも喜ばれるだろう。自分も、オリンピックや復興をこのようなストーリー性でアピールするなら、政府や東京都、組織委員会、そしてメディアの手腕を称賛したい。
一方で聖火リレーのトーチに「仮設住宅の廃材」を利用したとアピールし、一方で除染土の首都・東京への、オリンピック工事への受け入れという話は全く聞こえないということは、それは、トーチで使う廃材は微々たるものなのに大々的にアピールし、オリンピックやそれ以外の東京都の工事ではそれなりの量の除染土を受け入れられるのに、政府も都も組織委員会も全く見向きしないということで、つまり、トーチの仮設住宅廃材利用が「作られたストーリー性」のアピールでしかないように見えてしまう大きな理由だ。
いい加減「復興五輪」なんて見え透いた嘘を、政府も東京都も組織委員会も、そしてメディアも、恥ずかし気もなく言い続けるのは止めてもらいたい。参加が期待される、大会の盛り上げに関わるスポーツ選手らには罪はないし、宣伝の為に起用されるタレントらも、仕事だからある程度仕方ないという立場にあることも分かるが、それでも、嘘の片棒を担がされているという側面もあることを認識した上でオリンピックに関わってもらいたい。良い側面ばかりをアピールし、負の側面から目を背けるのは、消極的にではあるが、被災地・被災者・復興を都合よく利用するような行為であると肝に銘じておくべきだ。