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不適切・不衛生な動画投稿を抑制したいなら、職場・労働環境の改善を


 アルバイトの従業員が不適切・不衛生な動画をSNSへ投稿して注目を浴びたことによって、定食チェーンの大戸屋は3/12に全店舗を休業し従業員の研修を行うと発表した。ハフポストの記事によると、大戸屋は今回の騒動を受け、3月期の決算は当初見込みより売上高が1億8000万円の減、営業利益と経常利益はそれぞれ1億円、純利益4000万円減の見通しだとしているそうだが、一部では、売り上げ・利益減は今回の騒動が主な理由ではないのではないか、今回の騒動を、売り上げ減を株主等に説明する為の口実に使っているのではないかという見解を示す者もいるようだ。
 不適切・不衛生な動画の投稿が本当に約2億円弱もの売り上げ減を引き起こしたのか、については個人的には疑問を感じる。しかし、もし損失が過大に見積もられたのが事実だったとしても、全く悪影響がないとは言えないだろう。寧ろ悪影響は確実にあったはずだ。自分はあの動画だけで「大戸屋には絶対行きたくない」とまでは思わないが、もし大戸屋と似たような定食屋が並んでいたら、あの動画を見た直後なら大戸屋ではない方を選んでしまうような気もする。


 このような不適切・不衛生な動画の投稿が問題視され始めたのは2013年頃からだ。当時はスマートフォンの本格的な普及と重なる時期で、アルバイト先で冷蔵庫や食洗器などにふざけて入る写真や動画が主にツイッターへ投稿された。当時も、現在と同じようにテレビ等で大きく取り沙汰され、その結果一度そのような投稿は下火になったが、昨年あたりから再び話題となり始めた。ただ、話題になったのは昨年後半来だが、投稿されたのは半年以上前という動画も少なくないようだ。
 再びこの手の投稿が取り沙汰され始めた背景には、インスタグラムへ、24時間で投稿が自動的に消える・ストーリーという機能が追加されたこともあるだろう。24時間で消える投稿=足がつかないという思い込みが、不適切・不衛生な動画の投稿への躊躇を打ち消しているのかもしれない。24時間で消える投稿であっても、閲覧者が動画を保存することは可能なので、それを再投稿されたら24時間では消えずに永遠に残る。所謂デジタルタトゥーとなってしまう。
 
 昨年後半来再び不適切・不衛生な動画の投稿がしばしば取り沙汰されるようになったことを前提にした、「外食産業が信じられなくなった」といった趣旨のSNS投稿をしばしば見かける。そのような見解を示す人達は概ね「昨今の若者はモラルが低下している」のような認識を持っているのだろうと想像する。
 しかし、実際に起きているのは「モラルの低下」ではなく「低いモラルの可視化」だろう。自分が高校生・大学生だったのは90年代だが、弁当屋でバイトをしていた知り合いは「床に唐揚げを落としても「消毒」と言って2度上げして弁当に詰めるのは普通」と言っていたし、ファミリーレストランやファーストフードでバイトしていた知り合いの中には、「バイトすると現場の不衛生さが見えてしまう為、食べたくなくなる」と言う者もいた。つまり、今も昔も、安さがウリで学生バイトだけで回しているような飲食店やコンビニの内情に大きな差はないと言えそうだ。昔はスマートフォンもSNSもなかったので内輪で悪ふざけをするだけだったのが、スマートフォンやSNSの登場により、そして後先を深く考えない者によってそれが可視化されているだけなのが実情だろう。
 このように書くと「今も昔も学生バイトのモラルは低い」と言っているように見えるかもしれないが、前述の弁当やの唐揚げ消毒は「オーナー店長がそうしているのでみんなやっている」という話だったし、今も昔もモラルが低いのは学生バイトに限らないだろう。経営者にだってモラルの低いものは決して少なくない。ただ、学生バイトよりは後先考えるし、スマートフォンやSNSを積極的に使わないので可視化され難いだけだと自分は思っている。日本の食品産業は世界的に見れば意識が高いと言われているが、2000年以降も、赤福の消費期限偽装やミートホープの事件、 2013年に大手ホテル・百貨店のレストラン等で、産地や食材の虚偽・偽装表示が相次いで発覚した件、2016年に発覚した、産業廃棄物処理業者から賞味期限切れ食品を購入した食品卸売業者が、それを転売していた事件など、モラルが低い企業や経営者による事件がしばしば起きている。

 前述のように、大戸屋の不適切・不衛生な動画の投稿が約2億円弱もの売り上げ減を引き起こしたかのような発表の発表には疑問を感じるし、全く意味がないとは言わないが、社員やアルバイト従業員に対して研修や店舗でのオリエンテーションを実施し、食材を大切に扱うことや、こうした不適切な行為をしないよう業務上の意識などの教育を再度徹底することにも限界はあるだろうと考える。
 個人的には、安い時給でそれなりの労働力を使うからこのような事案が発生する側面が少なからずあるように感じている。何が言いたいのかと言えば、アルバイト従業員による不適切な行為の背景には「失うものは何もない」という勘違いがあるんだろうということだ。一度ネットに動画を投稿すれば、たとえ24時間で自動的に消えるシステムでの投稿であっても、前述のようにそれが永遠に残るリスクがあり、問題視された投稿のように注目を浴びれば、今後の就職や結婚の際にその影響があるかもしれず「失うものは何もない」は勘違いで「失うものはかなり大きい」が本当のところだが、彼らはそこまで頭が回らないのだろう。
 従業員教育の中で、そのようなことを学生バイトに説くことにも一定の効果はあるだろうが、そんなことは2013年頃の第1期不適切投稿ブームで既に指摘されていたことなので、それだけで充分な効果があるとは考え難い。また、もし充分な効果があるのだとしても、第1期ブームがあったのに、企業が従業員や従業員教育に掛かるコストを嫌い、それを蔑ろにしてきたということのようにも思える。つまり損害を受けた企業は自業自得であるとも言えそうだ。

 では何が必要かと言えば、勿論それだけで全て解決すると言うつもりはないが、学生バイトが「失いたくない」と思うような報酬と職場環境を整えるのが最も効果的な対策ではないだろうか。極端な話だが、例えば平均時給が1000円のところ、同じ仕事内容で1万円貰えるバイトがあり面接に受かったとしたら、そのバイトをクビになりかねない行為をするだろうか。自分なら確実に躊躇する。報酬も仕事も同じだが、とびぬけて居心地のいいバイト先があったとする。そんなバイト先をクビになりかねない行為をするだろうか。自分なら確実に躊躇する。
 勿論、どんなに時給が高かろうが、どんなに居心地がよい職場だろうが、悪ふざけをする者は少なからず出るだろう。しかし一緒になって悪ノリに興じる者は確実に減るだろうし、共犯にされたくないという思いから抑止する側に回る可能性だってある。
 再度示しておくが、良い報酬とよい職場環境が全てを解決するとは言わないが、少なからず悪ふざけへの抑止にはなるはずだ。自暴自棄になって犯罪に走りそうになっても、自分の事を親身になって育ててくれた親に迷惑をかけたくないと感じ、思いとどまる者は決して少なくない

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