自転車に乗っていると自分の脇をスピードを下げずに追い抜いていくクルマのことを「危ねぇなこの野郎」と思う。勿論口には出さないがそう思う。道路交通法の幾つかの条文から、追い抜く際に安全な側方間隔を設けられ場合、クルマは徐行しなくてはならないと考えられている。しかし、クルマを運転していると別の気分になることがある。道幅の狭い道路で自分の前を自転車が走っていると、「速度の速いクルマが来たんだから、路肩に寄せて追い越しさせろ、その方がお互いに安全だろうが」なんて思ってしまうことがある。勿論口には出さない。いや、窓を閉め切った密室の車内であれば独り言を言っているかもしれない。端的に言って自分に譲り合いの精神が欠けているだけかもしれないが、そんな事全く思ったことがないという人がもしいても、自分はその言葉を信用しない。口に出さなかったとしても少なからず思ったことはあるだろう。
その考えが正しいかどうかは別として、自分の立場を優先して物事を捉えるのは人間としてそれ程不自然でない。度が過ぎる人の事を「自己中心的」と言ったりするが、程度の差はあれそんな側面は誰にでもある筈だ。
現在の道路交通法などでは、自転車はクルマよりも弱者とされている。つまり立場の弱い者と認識されている。しかし一方で、自転車には免許制度がないこともあり、傍若無人な乗り方、つまり立場の弱い者として保護するべき存在という枠に収まらないとしか思えない自転車利用者というのも確実に存在する。
しかしそれでも、クルマ対自転車の事故が起きればより大きな影響が出る自転車を、クルマ側が慮る必要があるというのは、決して合理性を欠いた話とは思えない。前段で示した自分がクルマに乗っている際の感覚、「速度の速いクルマが来たんだから、路肩に寄せて追い越させろ、その方がお互いに安全だろうが」について言えば、クルマが接近するだけで自転車を危険な状況にしているという認識を持つ必要があるだろう。自分本位に考えるのは決して適当とは言えない。
「円滑な交通状況を維持する」という視点で考えれば、自転車も後ろから接近してきたクルマを先に行かせるという配慮をするべきだ。しかし、自転車が左側に寄って走ればクルマが速度を落とさずに追い抜けるような道幅なのに、自転車が我が物顔で道の中央部付近を走っている、のような状況なら、自転車の走行にも非があるだろうが、そうでなければクルマを先に行かせない自転車は不適切とは言えないだろう。
BuzzFeed Japanは5/18に「「30代男性が1ヵ月ベビーカー通勤をしてみたら」匿名ブログに注目、投げかけられた願い」という記事を掲載した。「満員電車にベビーカー反対派の意見を少しだけ聞いてほしい」と、「ベビーカー通勤を1ヶ月間してわかったこと(都内30代男性の話)」という、主張の異なる2つのとあるブログ投稿に関する記事だ。
この手の話は以前から度々話題になっている。率直に言って、当該ブログの投稿者に限らず「満員電車にベビーカー反対派」は何を言っているんだろうとしか思えない。
当該ブログの投稿者は、ベビーカーに限らず満員電車に子どもを乗せることは危険で好ましくないという論調で主張している。確かに大人でも押しつぶされそうな程すし詰め状態の満員電車は、背丈の小さな子供や幼児等を乗せるのは危険だ。その話に異論はない。しかしそれは背の低い女性などや足腰の弱い高齢者でも同じことだ。危険だから子供を乗せるなというのは問題の解決法として正しいだろうか。
自分が通っていた高校の側には私立小学校があり、1-6年生の児童が電車で通学していた。1年生などは体格的に幼稚園児と大差ない。その付近はすし詰め状態になる程の通勤ラッシュがある地域ではなかったが、通学してくる児童の中にはすし詰め状態になる地域を通過してくる子もいただろう。そんな子や親に対して「満員電車は危険だから学校に通わせるべきじゃない」と言うつもりだろうか。
また、満員電車にベビーカーは危ない・邪魔という感覚は、前段で示したクルマのドライバーが自分本位で自転車を邪魔者扱いするのと似ている。ベビーカーに乗っているのは乳幼児であって、成人健常者に比べたら確実に弱者である。つまり優先的に慮る必要のある存在だ。ベビーカーを危険な状態にしているのは満員電車の他の乗客であり、ベビーカーに乗っている乳幼児や保護者にしてみれば、邪魔なのは他の乗客だ。百歩譲っても邪魔なのはお互い様だろう。にもかかわらず絶対的な弱者を邪魔者扱いするなんて、どれだけ冷たいのだろうか。そんな話がまかり通っているから少子化傾向に歯止めがかからないのだろうし、あまりにも自分本位の考え方としか言えない。
更に言えば、ベビーカーを邪魔者扱いする人は車椅子使用者をどう思っているのか、自分には「邪魔だから電車に乗るな」と思っているとしか思えない。ベビーカーに乗っている乳幼児は自分の足で移動できない存在であり、実質的な準障害者と言えるだろう。車椅子を使わないと移動できない障害者や、ベビーカーがないと移動が困難な乳幼児を邪魔者扱いするということは明らかな差別だ。また、ベビーカーは邪魔だから抱っこヒモ等で抱きかかえろ的な発想もおかしい。すし詰め状態の車内では子どもを抱きかかえる方が押しつぶされる危険性が高いし、そんなことを言う人は、車椅子利用者に「車椅子は邪魔だから誰かにおんぶして貰って乗車しろ」と言うつもりだろうか。自分本位の主張を押し通す為に、短絡的で合理性を欠いた話を持ち出すのは止めたほうがいい。
「満員電車は危険だから子どもを乗せない方がいい」と言う者には、自らも満員電車の状況を作り上げている、つまりそこに乗る子どもに危険な状況を強いている存在だということを認識して欲しい。「満員電車は危険だからー」と言う者全てが早起きしてオフピーク通勤を心がければ、少なからず満員電車の危険性を除去、若しくは軽減できる。口でそんな事を言う人のうち危険性軽減に自ら積極的に努めている人がどれほどいるだろう。というか軽減に努めているなら、満員電車時の子連れ乗車やベビーカーに対する不満など出ないのではないだろうか。そんな矛盾が感じられる。
過剰な自分本位の主張以外に、弱者に対する配慮のなさ、自分は多数派に属しているという傲りのようなものが強く感じられてしまい、とても残念だ。