イギリス前首相・キャメロン氏が実施を決めた、イギリスのEU脱退の是非を問う国民投票の結果、僅差で脱退支持が上回り、実施を決めた当本人のキャメロン氏が首相を辞したのは2016年7月だった。それを受けて、サッチャー氏に続くイギリス2人目の女性首相となるメイ氏が就任し、およそ3年間EU離脱案をまとめようとしてきたが難航、遂に5/24にメイ氏は辞任を表明した。
イギリスのEU離脱に関しては今も離脱支持派と反対派がほぼ拮抗しているようだし、スコットランドとイングランド・ウェールズという地域による認証の格差も大きく見える。また、アイルランドと陸上で国境を接する北アイルランドの存在も離脱案の取りまとめが難航する理由の1つだろう。北アイルランドは1960-90年代にかけて民族性や宗教を背景に紛争が起きていた地(Wikipedia:北アイルランド問題)で、EU離脱によってアイルランドとの間に物理的な国境を復活させるか否かは大きな問題だ。国境を復活させれば統一アイルランド支持派が反発し、国境を復活させなければ、北アイルランドだけでなくイギリス全体のEU離脱支持派が「離脱の意味がない」と反発する状態だ。
日本では、世界最大の大国の一つで、あくまで個人的な見解ではあるが、実質的な宗主国でもあるアメリカ国内の政治事情は良く伝わってくる。ただアメリカ以外の国内政治情勢は全く伝わってこないということもない。例えばフランスで起きたジレジョーヌ(黄色いベスト)運動に関する報道で、市民のマクロン大統領に対する不満は伝えられるし、ドイツのメルケル首相が急速に支持を失いつつある現状なども伝えられている(ロイター)。フィリピンでドゥテルテ氏があれ程強行な姿勢にもかかわらず、相変わらず支持されていることも伝えられているし、韓国・文政権の動向等もしばしば伝えられる。しかし、イギリス・メイ氏が国民にどのように思われているのか、に関する報道は何故かあまり見られなかった。個人的は上手く伝えられない程に情勢が混沌としているのだろうと思っていた。
BuzzFeed Japanはメイ氏の辞任表明を受けて、5/26に「混迷のイギリス政治、次期首相レースは離脱強硬派に勢い 背景に新興右派政党の存在」という見出しの記事を掲載した。
その記事によれば、
イギリス国内では「やっと辞めてくれたか」という安堵感が広がっています。という雰囲気なのだそう。与党・保守党からの同意も、野党・労働党からの同意も取り付けられない離脱協定案をこれまで3度つくり、2019年3月末の離脱期限内に話をまとめられず、更に4度目の離脱協定案の提示も先延ばしにしていたのだから、延期した離脱期限・10/31までに果たして離脱案の取りまとめが間に合うのか、という疑問が投げかけられて当然だったのかもしれない。
記事には次期首相候補と思われる面々も紹介されているのだが、紹介されている人達を見る限り、誰が次の首相になろうが10/31までに離脱案の取りまとめがスムーズに行われるとは思えない。候補者として挙げられている人物の中には離脱強行派に分類される者もおり、もしその手の人物が次期英国首相の座に就けば、所謂「合意なき離脱」や、一部の国民を無視するような手法で離脱案を強行するかもしれず、もしそうなればイギリスは今以上に混沌とする恐れもある。最悪の場合、概ね離脱反対のスコットランドと北アイルランド、離脱支持のイングランドとウェールズに国が分裂する状況に発展してしまう恐れもあり得るのではないか。
このようなイギリスの情勢を見ていると、具体的な内容も検討せずに勢いだけで国民投票を行うことが、如何に国を傾けかねないことかがよく分かる。しかもイギリスのEU離脱の是非を問う国内投票の際は、明らかに事実に即さないキャンペーンが横行していた(論座:英国民投票と「ポスト・トゥルース」の実態)。
昨今は日本でも、選挙の度に怪しい情報をSNSで拡散する者も決して少なくないし、4月に行われた衆院議員・沖縄3区補選では、「女は政治は無理 女は台所に帰れ」と書かれた出所不明のポスターが複数貼り出されるということが起きた(BuzzFeed Japan)。しかし沖縄のポスターの件は、大きく注目され警察への告白状まで提出されているのに、何故か続報が一切ない。昨今は防犯カメラの普及などによって、街中で起きた事件であればどんな事件でも大概すぐに容疑者が割り出される。にもかかわらずこの件の続報が聞こえないというのは一体どういうことだろうか。警察の怠慢にも思えるし、それを指摘しない報道機関の怠慢でもあるようにも思う。 つまり日本も、フェイクニュースが飛び交ったイギリスのEU離脱投票や、2016年の米大統領選を教訓に出来ていないということだ。最悪の場合、日本でも誰かがフェイクニュースを、積極的にか消極的にかは定かでないが、利用している恐れもある。
BuzzFeed Japanの記事を読むと「このイギリスのE状況が、もし自国のそれだったら最悪だ」と強く感じたのだが、少し落ち着いて考えてみると「いや、今の日本は英国以上に悪いかも」という思いが込み上げてきた。傲慢な与党と期待感の薄い野党、そして「現政権は他の政権よりマシ」と言う決して少なくない有権者。問題を指摘せずに単なる広報機関に成り下がるメディア。そんなのを加味すると、「今の日本は混沌とする英国よりもマシ」なんて到底思えない。