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中絶禁止法の欠点と日米企業対応の差

 各国の人工妊娠中絶に対する法律
Wikipedia:人工妊娠中絶より

 この世界地図からも分かるように、現在日本では、妊娠中絶は条件付きで合法である。日本における妊娠中絶の話をすると、どうしても優生保護法との関係に触れない訳にはいかないのだが、この投稿の題材とは少し話がズレてしまうのでここでは触れないことにする。詳しくはWikipediaの人工妊娠中絶#日本を参考にして欲しい。
 地図だとアメリカは全体が合法の地域とされているが、アラバマ州で5/15に妊娠中絶を禁止する法案が成立した。アメリカの州は日本の県とは異なり、多くの分野で自治が認められている。例えば大麻に関しても州によって合法だったり非合法だったり、医療目的での使用のみ合法だったり、嗜好品としての利用も認められていたりとルールが異なる。
 日本でも県民性に差があるように、アメリカも州によって住民や社会の傾向が異なる。もっとも典型的なのはその差によって起きた南北戦争だろう。今でも南部は、北東部や西部よりも白人至上主義傾向が強いとも言われている。また、南部や中西部はアメリカの中でもカトリックが強い地域で、中絶を禁止する法案が成立したアラバマ州も南部に位置している。そのような法が成立した背景には、カトリック/キリスト教保守派が強い影響力を持っているということがある。


 BBCの記事「全米で最も厳しい中絶禁止の州法が成立 アラバマ州」によると、アメリカでは昨年来、オハイオ、ミシシッピー、ケンタッキー、アイオワ、ノースダコタ、ジョージアの各州で、ほぼ全面禁止の厳しい中絶禁止法が成立しているそうだ。それらはキリスト教保守派の影響が強い州だ。東洋経済オンラインの記事「アメリカで「中絶禁止法」が次々成立する事情」では、8州で中絶の権利に意義を唱える州法が成立と紹介されている。今日・5/30のTBSニュースの記事によれば、南部のルイジアナ州でも中絶をほぼ禁じる法案が可決されたそうだ。

 ハフポストの記事「アラバマ州で最も厳しい中絶禁止法が成立、波紋呼ぶ。賛成したのは全員白人男性だった」によると、アラバマ州で可決された法案は
 「人命保護法」と名付けられ、妊娠何週目であっても中絶を禁止する。性犯罪や近親相姦などによる望まない妊娠をした場合でも中絶は認められず、中絶手術をした医師は10年以上、最大で99年の禁固刑が科せられる。
とのことだ。CNNは、ローマ法王が5/27にローマ市内で開かれた人工妊娠中絶反対の国際会議で講演し、人工中絶を「ヒットマン(殺し屋)を雇う」行為になぞらえて強く批判したと伝えている。ローマ法王はキリスト教(カトリック)の最高権威だ。ただ記事を読む限り、ローマ法王が懸念を示しているのは、胎児が重い病気に罹っていた際、つまり先天的に障害を持つことが明らかだった場合における堕胎・中絶のようで、性犯罪に関する望まない妊娠にはついては言及していないようだ。

 命の重さを尊重するのはとても大事なことだ。障害があることが分かった胎児の中絶は、確かに優生保護法の背景にある理念と似た感覚で行われる側面があり、その是非・線引きには議論も必要だろう。そんな意味では、ローマ法王が示した見解は確実におかしいとまでは言い難い。
 しかし性犯罪による望まない妊娠を禁止することは果たして理にかなっているだろうか。中絶を全面的に禁止してしまうと、レイプ等で妊娠させられた女性は産む以外の選択肢がなくなる。ただでさえレイプ被害で苦しむのに、更に加害者の子どもを産まなければならなくなるし、場合によっては育てなくてはならないのだとしたら、人によってはとても大きな苦痛になるのではないか。どんな命でも尊さに差はないが、その尊重と引き換えに女性が苦しむようなことがあってもいいのだろうか。生む以外に選択肢のない女性の人生は犠牲になってもいいのだろうか。
 ハフポストの記事の見出しにもあるように、アラバマ州上院は賛成25、反対6で法案を可決し、賛成した25人は全員共和党に属する白人男性だったそうだ。彼らはそんな女性の苦しみも考えた上で賛成に票を投じたのか甚だ疑問である。ニューズウィークも「レイプや近親相姦でも「中絶禁止」の衝撃」という見出しの記事を掲載し、女性に中絶の権利を認めてきた歴史が覆されつつあるとしている。


 これまでに紹介してきたどの記事でも、アメリカ南部・中西部の州で中絶を禁止する法律が成立している背景には、キリスト教保守派が強い影響があるとされており、それは概ね間違いなさそうだ。宗教的な理由で中絶を禁止するということは、生命の尊さを重んじるということなのだろうが、もし命の尊さが理由で中絶をほぼ全面的に禁止する必要があるなら、男性が自慰行為や妊娠を目的としないセックスで射精することも法律で全面的に禁止する必要性があるのではないだろうか。1回の射精によって数億の精子が放出されると言われているが、精子とは女性の卵子と結合して胎児になる生命の一種である。しかも人間の素になる生命だ。男性は1回の射精で数億の生命を殺しているとも言えるのではないだろうか。
 どこからが殺人でどこまでは殺人でないのかという議論は、中絶の是非に関する話には常について回る。今問題視されている各州の中絶禁止法では概ね、胎児の心音を医師が確認できたら中絶を禁止するという条件のようだが、精子だって生命、しかも人間の素となる生命であることには変わりなく、極端ではあるが広義の殺人と言えるかもしれない。
 というのが、命の尊さを理由に中絶を全面禁止する必要があるなら、妊娠を目的としない射精も法律で禁止するべきなのではないかと考える理由だ。勿論自分は中絶の全面禁止など馬鹿げていると思っているので、男性の射精を禁止する必要があるとは思っていない。


 ブルームバーグは「ネットフリックス、米ジョージア州から撤退も-中絶禁止法施行なら」という記事を掲載している。記事によれば、ジョージア州は映画・テレビ産業への補助金が多い人気の制作拠点となっているらしいのだが、法律が施行されれば、ネットフリックスはジョージア州での「あらゆる投資」を見直す方針なのだそう。
 アラバマ州では現在、トヨタとマツダに部品を供給する予定の新工場の建設が進められている。これらの工場はトヨタやマツダ系列の部品メーカーの工場だ(日本貿易振興機構「日系自動車部品メーカーのアラバマ州進出が相次ぐ、トヨタ・マツダ向けサプライヤー」)。個人的には、トヨタやマツダも即時撤退をすべきとは全く思わない。しかし、何かしらの意思表示をする必要はあるのではないか。今のところ現地で活動する日本企業が何かアクションを起こしたという報道は見当たらないし、且つてエコノミックアニマルと揶揄された日本企業にその気概があるとは考え難い。そしてもし実際にトヨタやマツダが事態を静観して、今後もこれまで同様に何もアクションを起こさないのなら、やはり日本企業はただのエコノミックアニマルだと言われてしまうかもしれない。
 というか寧ろ日本国内から見ても、内部留保が過去最高と言われているのに、賃上げも出来なければ、「終身雇用は限界」などとして解雇規制緩和を求めている日本の企業はただのエコノミックアニマルだとしか思えない。 彼らが労働者の権利を蔑ろにする風潮であることや、彼らが社会貢献活動に消極的且つ権力におもねる傾向が強いことも、日本人は世界の誰よりもそれを知っている。

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