大企業の定時株主総会は概ね6月に集中している。この投稿を書くにあたって「何で6月に集中しているのか」に疑問を持ち、とりあえず検索してみると共同通信の「【会社法入門講座①】株主総会はなぜ6月下旬に集中しているのか」という記事がヒットした。記事によれば、 以前は総会屋対策という側面もあったが、現在は総会屋対策・規制が整備されその側面の比率は小さくなっているが、会社法では「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と定められており、多くの企業が3/31を年度末に設定していて、その日を基準日とし、その日に株主だった者・基準日株主には、定時総会に株を保有していなくても議決権行使を認めているが、基準日株主の議決権行使には3カ月以内に制限されている為、6月に定時総会が集中するということらしい。勿論、年度末から株主総会までに準備期間が必要になることにも触れられている。
昨日・6/13には、日本最大の自動車会社・トヨタ自動車の定時株主総会が開かれたそうだ。これに関して産経新聞は、「「プリウスの事故が多いが大丈夫?」株主の質問に役員は トヨタ株主総会」という見出しで記事を掲載している。見出しの通り、
高齢者が運転する車が暴走している。事故を起こした車に、プリウスが頻繁に登場する。運転ミスだと思うが大丈夫かという質問があったそうだ。
「運転ミスだと思うが大丈夫か」としていることから勘案すれば、恐らくこの質問をした株主は、「プリウスに欠陥があるわけではないとは思っているが、事故のニュースの度にプリウスが画面に出てくるので心配になってしまう。だから念の為確認しておきたい」というようなニュアンスで質問をしたのだろう。産経新聞の見出しが絶対的に不適切とまでは言えないが、この質問から「プリウスの事故が多いが大丈夫?」だけを見出しに切り出すと、あたかも株主が「プリウスは欠陥商品なのではないか」と懸念した質問をしているように見えてしまう為、果たして適当な見出しなのかに疑問を感じる。自分には、クリック数を稼ぐ為の釣り見出し的な側面が強く感じられた。何度かこのブログで指摘しているように、見出ししか読まずに内容を判断する者というのが少なからず存在し、この見出しでは、そのようなタイプの者が「株主もプリウスの欠陥を指摘している」と恣意的な解釈をしかねない。勿論、恣意的な解釈をする者の責任が最も重いのだろうが、わざわざそれを誘発するような見出しを、大新聞が用いなくてもよいのではないか。
産経新聞は、記事の本文ではどういう質問があったのかについて適切に説明しているので、BuzzFeed Japanの記事「福岡の高齢者逆走「またプリウス」の誤情報、拡散したトレンドブログ 川崎殺傷では「犯人は在日」のデマも」が指摘しているような、粗悪サイトと同一視するのは妥当性がないだろうが、産経新聞にその意図がなかったのだとしても、「プリウスは事故を誘発するクルマ」という不適切な印象を助長しかねない見出しだったように自分には思える。
確かに昨今報じられる事故のニュースにプリウスが登場する率は高い。しかし軽自動車が事故を起こしているケースもプリウスに負けず劣らず高い。それは何故かと言えば、軽自動車の保有台数が普通車よりも多いからだ(全軽自協「軽三・四輪車および全自動車保有台数の車種別推移」)。総数が多ければ事故を起こす割合も普通車より高くなるのは自然だろう。プリウスについても同じことが言える。 プリウスは2003年に登場した第2世代モデル以降常に販売ランキング上位をキープしている。特に2009年に登場した第3世代は、発売翌月の2009年6月には軽自動車も含めた販売台数で首位に立ち、2010年年間販売台数は、それまでの年間最多販だった1990年カローラの記録を破っている。2009-11年の3年間は普通車の登録台数で3年連続首位を守る勢いを見せていた。現在は、他にハイブリッド仕様車の選択肢が増えたこともあってその当時程の勢いはなくなったが、それでも常にベスト3前後を維持している車種であることに違いはない。つまり、プリウスは90年代までのカローラと同様に、日本で最もよく見かける自動車の1つだ。台数が多ければ事故に絡む率が高くなるのは当然のことだ。
つまり、前述の質問をした株主を揶揄するつもりはないが、自分には、
「プリウスの事故が多いが大丈夫?」という質問は「プリウスが売れているけど大丈夫?」と聞いているようにも思える。プリウスが登場していなければ、現在の事故報道に多く顔を出していたのは軽自動車とカローラだったろうし、事故の原因かのように槍玉に上げられていたのはカローラだったろうし、株主総会での質問も「カローラの事故が多いが大丈夫?」だっただろう。
自動車関連のニュースでもう一つ気になる記事があった。ハフポスト/朝日新聞は6/11に「市川市、テスラ車を公用車に 環境を重視、車両価格は1100万円」という記事を掲載している。見出しの通り、千葉県市川市が、市長・副市長の公用車としてアメリカの電気自動車に特化したブランド・テスラの高級セダン・モデルSとSUVタイプのモデルXを導入すると発表したそうだ。
記事によれば、市川市はモデルXを調達する為の一般競争入札を6/6に行い、7月から8年間のリース契約でリースは月額13万2000円なのだそう。因みにモデルXの価格は972万円からで、今回調達されるのは約1100万円とされているので、おそらく1091万円からのロングレンジモデルだろう。このリース金額は現在の車種より月額約6万8000円高いそうだが、市企画部は「電気代と燃料代の比較などを考えると維持費は安い」と説明しているそうだ。公用車とは、月額約7万も高いリース料を、燃料代で相殺出来る程走行するものなのだろうか。個人的には市がいい加減な事を言っているように思えてならない。
電気自動車を公用車に選ぶということには、環境保護対策の一環、そのアピ―ルという側面もあり、必ずしもコスト的に優れていなくてはならないということでもないのだろうが、日本でも日産がリーフという電気自動車を製造しており、しかも世界的にテスラのモデルよりも売れており、価格もテスラのモデルS/Xよりかなり安いのに、なぜ日産 リーフではなくテスラを選んだのかに疑問を感じる。モデルX ロングレンジの航続距離は、EPAという米国基準で505kmだが、リーフはe+という航続距離の長いグレードでJC08モードで572kmとされているものの、EPAに換算すると364kmなのだそう。つまり性能的にはリーフの方がやや劣る面があるが、リーフの価格は最も高い仕様でも473万円だ。公用車としての利用ならば、リーフ e+の航続距離でも概ね差し支えはない性能だろうし価格的にも有利なので、リーフでなくテスラを選択した理由がどこにあるのか分からない。
更に言えば、環境性能とコストの両立で考えれば、市長・福祉長の公用車に限らずに、市が使用する自動車を全て(乗車人数が足りない、積載量が足りない等用途的に妥当ではない場合を除いて)軽自動車に置き換える方がはるかに効率的なのではないだろうか。昨今の軽自動車は明らかに質が向上しており、安全性能でも居住性でも普通車に引けを取らないレベルに達している。見栄さえ気にしなければこれほど優れた乗り物はない。しかも価格は概ね100万円台で、200万を超えるような車種はごく一部しかない。つまり1台当たりのコストはテスラ モデルXの1/10程度、高いモデルでも1/5だ。しかも日本製なので内需にも貢献することができる。何より最も庶民感覚に近づくことのできる乗り物でもある。
その質素な暮らしから「世界で最も貧しい大統領」としても知られている、ウルグアイの前大統領・ホセ ムヒカさん(Wikipedia)は、知人から貰った18万円相当の1987年型フォルクスワーゲン ビートルに乗り続けていたそうだし、前天皇の明仁さん(Wikipedia)も、1991年型ホンダ インテグラに乗り続けている。環境への配慮をアピールするなら、リースで車を次々に乗り換えるのではなく、修理・メンテナンスを行って長く乗り続けることの方が重要なのではないか?とも考えさせられる。