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難民に厳しい国・日本に蔓延る自己責任論


 日本代表としても活躍するサッカー選手の長友 佑都さんへのインタビュー記事を、ハフポストが6/20に掲載した。当該記事「長友佑都が語る、理想の子育てと“日本男児像”のアップデート「イクメンという言葉ができること自体が問題」」のメインテーマは、その見出しの通り、サッカー選手としての長い海外生活を経て、育児に関する認識が変化したという点だ。テーマや見出しでは男性の育児参加に関する話が強調されているような印象だが、育児に限らず日本のステレオタイプ的価値観に対する認識の変化などにも触れられている。
 記事の終盤で、サッカー界では18歳の久保 建英選手が日本代表に選ばれるなど、若手の台頭が目立ってきたという話題を長友さんへ投げかけ、長友さんはそれに対して
僕も世界に出て、自分の常識が覆される経験を沢山してきました。
海外で色んな世界を知って、色んな人と接することで、自分の意識レベルもアップデートされる。
それを日本に還元していくことができれば、日本ももっと活性化していくと思っています。
と答えている。この部分は一見すると「サッカー選手はどんどん海外に出て経験を積め」とだけ言っているようにも見えるかもしれないが、「今後、若い世代が活躍する社会になっていく」という前フリが、若い世代が活躍する「日本のサッカー界」ではなく「社会」とされていることに鑑みても、決してサッカー界・サッカー選手に限定した話ではないことが容易に窺える。


 この記事の冒頭で長友さんは、現在所属するチームがトルコ・イスタンブールのチーム、ガラタサライSKであることから、トルコについて語っている。彼は
  • トルコは「本当に愛にあふれた国
  • 家族に対しての思いがすごく強い国なので、子育てをしていても皆が助けてくれる
  • 子どもが泣いていたとしても、トルコでは他人があやしてくれたり、手を差しのべてくれる 
と、トルコを絶賛し、記事はそこから「トルコと日本の子育てを比べた時、日本に足りないものとは何なのか」というメインテーマに繋げる構成になっている。長友さんが語ったトルコへの評価はしばしば耳にする評価で、自分は一度もトルコへ行ったことはないが、概ね間違ってはいないのだろうし、長友さんの言うように、トルコの国民性に学ぶべきことは多いのだろうとも思う。
 しかし、それはトルコのある一つの側面であって、それが全てではないこともまた事実だろう。同じく6/20にBuzzFeed Japanは、「心から愛している。だから、新婚生活中に捕まった夫を待ち続ける」という見出しの記事を掲載している。この記事は「入国管理局に収容されたクルド人の夫を待ち続ける、日本人の女性がいる」という書き出しで始まる、トルコ国籍のクルド人男性と日本国籍の妻の話だ。
 この記事の冒頭でも
クルド人は、トルコ、シリア、イラク、イランにまたがる山岳地帯に暮らす民族だ。総人口は4000万人ほどと推定される。国境線が民族分布と無関係に引かれたため、自らの国家を持っておらず、「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれる。
そして、どの国でも「少数民族」として、差別や民族運動の弾圧などにさらされてきた。
トルコは伝統的に、クルド人を含めた全国民を「トルコ人」として同化する政策を続けてきた。そのため、クルドの独立運動は激しい弾圧を受けた。
と、クルド人について説明している。戦前の日本が、日清戦争の結果領土とした台湾や、1910年に併合した朝鮮、そして戦中に進軍した東南アジア諸国、更に言えば明治政府樹立の前後に実質的に併合した蝦夷の先住民・アイヌや、琉球民族に対して行っていたのと同様に、トルコはクルド人への同化政策を行ってきた。このことは日本でも全く知られていないわけではないし、時事問題系バラエティー番組などでもたまに取り上げられている。しかしそれでも、中国のウイグル族やチベット族への同化政策に比べれば、日本での認知は進んでいないようにも思う。
 つまりトルコには、長友さんの言う温かい国民性があるのも事実だろうが、クルド人への弾圧という冷たい側面もある。トルコでトップ選手として、しかもトルコ最大の都市・イスタンブールで活動する長友さんには、現トルコ政府の強権的な側面を批判し難いという事情もあるのかもしれないが、トルコで活躍する日本人選手で、しかも強い影響力を持つ立場なのだから、「長友さんにこそトルコのポジティブな側面だけでなく、トルコが抱える問題にも触れて欲しかった」、というのがハフポストの記事を読んだ感想だ。


 ハフポストの編集主幹を務めている長野 智子さんが、国連UNHCRの報道ディレクターに就任したそうだ。そのことを紹介するハフポストの記事「難民問題を、もっと日本に引き寄せたい。国連UNHCR協会の報道ディレクターになります。」が掲載されてから3日後の6/17に、
 東京入国管理局で長期収容されていたクルド人男性、チョラク・メメットさんが、約17カ月ぶりに仮放免となり、入管に迎えに来た家族と再会した
ことを伝える記事「「やっと一緒に暮らせる」ある男性が家族と17カ月も引き離されたその理由」をBuzzFeed Japanが掲載した。
 ハフポストも、2018年11/21に「難民めぐる落書き、東京入国管理局が写真付きで「止めましょう」とツイート ⇒ 逆に収容者らの人権問題で批判相次ぐ」という東京入管への懸念に関する記事や、2017年7/6には「「難民なのは大変。いつ入管に拘束されるかわからない」 クルド人夫婦・コミュニティーを訪ねて【ルポ】」という、日本に逃れてきたクルド人の難民申請に関する問題の記事も掲載しているが、BuzzFeed Japanが6/17に記事化した件にも一切触れていないし、3月にメメットさんが体調不良を訴えた際に、東京入管が充分な対応をしなかったとされた事案(BuzzFeed Japan「体調不良のクルド人男性を「救急搬送させなかった」? 東京入管側の説明は…」)についても、ハフポストは記事化しておらず、6/17の件にハフポストが触れなかったことについて、

とツイッターで長野さんへリプライを送ってみたが、未だに何の反応もなく、更に残念感が漂う。
 勿論、BuzzFeed Japanの記事の内容が全て事実に即しているとは断定できないし、もしかしたらハフポストが当該事案・日本で難民申請するクルド人に関して積極的に取り上げないのには何かしらの理由があるのかもしれない、とも想定できる。また、1つのメディアが全ての事案を網羅できるわけでもないので、取り上げない=無視しているとも言い切れないのも事実だが、もしそうであっても、国連UNHCRの報道ディレクターに就任する人物が編集主幹を務めるメディアがそれを取り上げず、「なぜ取り上げないの?」と問われたら、勿論直接このツイートに対する返答である必要性はないが、何らかの反応があっても良さそうなものなのに、それすらないのは残念である。
 ただ、日本の難民申請者に対して厳しい姿勢に、
ハフポストが全く無関心であるとは言えない。6/20には「難民 "収容されても「帰れない」"その意味を考えたことがありますか?」という、ミャンマー出身の男性について紹介する記事を掲載しており、その記事の冒頭には、
 日本にたどり着いた難民をめぐって、入国管理局の外国人収容所で、病気の収容者に対して医療行為が行われなかったり、自殺者が出たりと、人権侵害の問題が相次いで指摘されている。
とあり、6/20が世界難民の日だったからでもあるだろうが、日本が難民に厳しい国であることについて取り上げている。


 前述の通り、現在世界的に見て日本は難民に厳しい国であって、トランプや彼の支持者、そして欧州の移民・難民排斥主義者らから羨望の眼差しを送られている。そのような現実を、日本人なら誰もが知っておく必要がある。テレビでは日本人の親切さや、「おもてなしの国」のようなイメージを殊更に強調する番組が多く放送されているが、今の日本には「親切な国」とは言えない側面が確実にあり、単に「外面がいいだけの国」というのが実情に近いと自分は考えている。観光客には親切だが、母国の惨状から逃れてきた人や、労働の為にやってきた外国人には滅法冷たい仕打ちをする側面が、日本には確実あるからだ。
 自分の出身地の近くにある神奈川県大和市のいちょう団地は、ベトナム人ら外国系の住民が多く住んでいる。それはベトナム戦争後、インドシナ難民を日本が受け入れたから生まれた状況だ。当時も偏見や差別はあっただろうが、それでも少なからず難民を受け入れていた。それと比べて今の日本は更に冷たい国になっているように感じられる。一体いつから日本はこんなに冷たい国になったのか。
 あくまで個人的な観測でしかないが、バブル崩壊で経済的な余裕がなくなったことや、2004年に起きたイラク日本人人質事件などから論じられ始めた、所謂自己責任論が日本人の冷たい側面を増幅させているように感じられる。

参考:
Wikipedia:イラク日本人質事件 
 14年前、誰が「自己責任論」を言い始めたのか?「イラク3邦人人質」記事を読み直す(文春オンライン)
自己責任論の蔓延、「集団と違う者」を排除する日本人の特徴(NEWSポストセブン)

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