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若者が半グレ集団に気軽に関わってしまう背景にあるのは、不公平な社会


 NHKは7/27に「NHKスペシャル 半グレ 反社会勢力の実像」を放送した。自分は初回を見逃してしまい、昨夜の再放送で同番組を見た。半グレとは、暴力団に詳しいジャーナリスト・溝口 敦さんが2011年にそう呼んだことが発祥とされており、 堅気(一般的な社会人)とヤクザとの中間的な存在で、半グレの「グレ」はぐれている、愚連隊のグレであり、黒でも白でもない中間的な灰色のグレーでもあり、グレーゾーンのグレーでもあるとされている(Wikipedia)。
 しかし彼らが収入源としていることは、これまでの暴力団・所謂ヤクザのそれとそれ程差はない。IT企業などの側面を持っていることもあり、ヤクザと堅気の中間とされているが、従来のヤクザだって表向きのフロント企業の顔を持っていることはしばしばあった。つまりやっていることにそれ程大きな違いはない。同番組では、ヤクザと半グレが異なる点として、ヤクザは親分を頂点としたピラミッド型の組織で、半グレは活動内容毎に人材が入れ替わったり、一人の人間が複数の組織に属することもあるなど、結合の緩やかな組織であると説明していた。


 番組でも紹介していたが、半グレが台頭してきた理由の1つには従来の暴力団・ヤクザの衰退がある。1980年代の暴力団抗争激化を受けて、1992年に暴力団対策法(Wikipedia)が施行され、その後2010年頃には各都道府県でも暴力団排除条例が制定されるようになる等、暴力団対策の厳格化が進められた。現在は暴力団の構成員だと携帯電話も不動産の契約も出来なければ銀行口座も持てず、人権的な制約が多く課される状況にある。 そのようなことを背景に、暴対法ができた1992年当時は構成員+準構成員で約9万人だったが、2017年には4万人を割った(時事「【図解・社会】暴力団勢力の推移(2017年3月)」)。しかしその一方で、2018年4月に朝日新聞が「暴力団勢力13年連続減 排除浸透で「半グレ」に移行か」という記事を掲載しているように、半グレ集団はその勢力を伸ばしている。

 半グレ集団は、前述の通り結合が緩やかで、ピラミッド型だった従来のヤクザと違ってその実態把握は難しい。ヤクザなども暴走族等を末端に使っていた側面はあるが、半グレは暴走族や不良集団だけでなく、いかにも普通の大学生やフリーターなどを勧誘し末端の活動員として使うことも多く、しかも大学生やフリーターなどもアルバイト感覚で参加してしまう傾向にあり、その境界は見極め難い。
 1990年代、不良のトレンドが暴走族からチーマーやカラーギャング等に移行し、見た目だけでは不良なのかそうでないのかの区別がつきにくくなった。またその頃からいじめの陰湿化も始まり、2000年代以降はネット普及の影響もあり、更に普通の生徒と不良の区別は難しくなった。決してそれだけが理由だとは思わないが、1980年代中盤以降、暴走族の壊滅に力を注いだ結果、不良が、ある意味で管理しやすかった暴走族から、どんどん目の届き難い状態になっていったことは皮肉だと感じる。同じことは反社会組織にも言えるだろう。1990年代以降の暴力団排除運動の結果、反社会勢力は、ある意味目の届きやすかったヤクザから、目の届き難い半グレに移行していったと言えるだろう。
 冒頭で半グレは2011年頃に生まれた呼称だと説明したが、それ以前から組織・集団としては存在していた。自分の知る限りでは1980年代以前にも、的屋を主な稼業としていた集団は、堅気から見ればヤクザのようなものだったが、自分達は神農の徒であり博徒であるヤクザとは違うと言っていた。それらも広義の非ヤクザ・半グレのようなものだし、1990年代後半から2000年代初頭に起きたアダルトサイトの架空請求の第一次ブーム・サクラを用いた出会い系サイトブーム、2000年代の闇金ブーム、2000年代後半から2010年代初頭にかけての合法ドラッグブーム、そして2000年代後半から今もまだ続いているオレオレ詐欺や振り込め詐欺など、どのシノギにも、ヤクザだけでなく確実に半グレ集団も少なからず関わっていたはずだ。バブルの頃から不動産取引などに関わるようになった経済ヤクザやその舎弟あたりに、現在の半グレ集団の源流があるように思う。


 同番組では、京大生など頭のいい大学生が、投資や人脈作りなどの名目で誘われて半グレ集団に関わるケースも紹介されていたし、中卒で満足に仕事に就くことが出来なかった若者が、たった数万円の対価を目当てに関わるケースも紹介していた。つまり昔の暴走族の頃のように、不良=落ちこぼれ ではなくなっているのが現状だろう。例えば、1995年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教にも、多くの所謂頭のいい大学生が関わっていたし、最近で言えば、東大生や有力な医大の学生が昏睡レイプ事件を起こしたりするなど、有名な大学に合格する・通う学生=真面目でまとも とは決して言えないのは確かだが、番組を見ていて自分が感じたのは、
 普通に・真面目にやっていたらバカを見るとしか思えないような状況、低い賃金で長時間労働を強いられるという搾取されかねない状況、言い換えれば、将来に夢が持てない状況、明るい未来が想像し難い社会が、学歴等にかかわらず若者が気軽に半グレ集団に染まってしまう動機の1つになっているのではないか?
ということだった。
 バブル崩壊以降、非正規雇用が増え続けており、2014年には1990年の2倍になった(統計局「最近の正規・非正規雇用の特徴」)。また、1990年代まではニュースバリューを殆ど持たなかった最低賃金が注目されるようになっており、つまりそれは、それだけ最低賃金周辺の賃金で働いている人が増えたということだろう。厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は7/31に、最低賃金を全国の加重平均で27円引き上げるべきだとの「目安」を決めたそうだ。実現すれば加重平均は901円となるのだそう(ハフポスト/朝日新聞「最低賃金、東京と神奈川で初の1000円台。全国平均は901円に」)。しかし、もし最低賃金が900円になったとしても、1日8時間×週5勤務・祝日(年15日)で計算して、月収はおよそ16万5000円だ。年末年始とお盆の休暇を入れたら更に減る。これでは共働きでも子育てするにはかなり厳しい。10月には消費増税も控えているし、負担は増えているのに自分達が充分な年金を受け取れるかどうかも不透明では、明るい未来など想像しづらくて当然としか言えない。

 「NHKスペシャル 半グレ 反社会勢力の実像」には、そのような考察が殆ど含まれていなかったのが残念だ。確かに、若者へ向けて「安易に犯罪行為に関わらないように注意しよう」と啓蒙するのも大事だろうが、若者だって健全に稼げる選択肢、働いた分だけ対価を得られる選択肢があれば、わざわざリスクを負うような選択はしないだろう。少なくともそのような選択をする者は減る筈だ


 トップ画像は Augusto OrdonezによるPixabayからの画像を加工して使用した。

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