トランプ大統領は8/5に行った演説の中で、
社会における暴力を賛美する風潮を辞めなければいけません。その中には、今や当たり前となってしまった感のある陰惨で恐ろしげな表現を含むビデオゲームも含まれます。今日では、問題を抱えた若者が暴力を賛美する文化に身を包むのが簡単すぎます。これ(陰惨で恐ろしげな表現を含むビデオゲーム)を完全に規制するか、大幅に削減する必要がありますと、暴力的な表現を伴うゲームに対する批判を行ったそうだ(ゲームが銃乱射事件の一因となっているとトランプ大統領らが非難 - GIGAZINE)。彼はこれまでにも同様の発言を度々行っている。個人的には「以前は北朝鮮への武力行使を強く示唆し、今はイランへの武力行使を猛烈に示唆している者がよくそんなことを言えるな?」と感じてしまう。
結論から言って、ゲームは乱射事件の憂慮すべき要因・規制が必要なレベルの要因ではない。ゲームが銃乱射の大きな要因ならば、一応今もゲーム大国である日本やオンラインゲーム先進国・韓国でも、アメリカと同じかそれ以上に乱射事件が深刻化しているはずだ。しかしそんな状況は全くないことは誰の目にも明白だ。
しばしば、トランプ氏の頭の中は1980年代後半で止まっていると言われるが、この件についても全く同様のことが言えそうだ。ゲームだけでなく新しい娯楽はこれまでもスケープゴートにされてきた。70-80年代はまだまだ新興メディアだったテレビやマンガが、80-90年代はアニメやゲームが槍玉にあげられた。90年代-現在はネットにその矛先が向いている。今は特にYoutubeなどがその代表的な存在だろう。例えばトランプ氏が何かしらの研究結果等に基づいてその種の主張をしているのならまだ理解もできるが、彼が一体何を根拠にその種の主張をしているのかも定かでない。
銃乱射事件とシューティングゲームの関係性が大きく取り沙汰されたのは、1999年にコロラド州で起きたコロンバイン高校銃乱射事件(Wikipedia)だ。15人の死亡者を出した銃乱射事件で、乱射した2人の少年がDoomというゲームを好んでいたという話が注目された。同事件では、退廃的な芸風が特徴のバンド・マリリンマンソンも、2人が好んでいたとされ槍玉に上がった(マリリン・マンソン、コロンバイン銃乱射事件に言及。「本当に俺の音楽を聴いていたらこうはなってない」rockinon.com / マリリン・マンソン#コロンバイン高校銃乱射事件を巡って - Wikipedia)。しかしどちらも結局、事件に影響を与えたという関係性は証明されていない。ゲームに関しては「「ゲームをプレイすること」と「暴力的であること」に関連はないという研究結果が発表される」(Gigazine)という話もある。
そもそもゲームが槍玉に上がる以前は、映画やテレビ、日本ではマンガやアニメが悪影響を与えると言われていた。しかしもしそうなら、ニュースで戦争や暴力事件の様子を伝えることだって悪影響を与えるだろう。「ゲームは自分が主体的に関わることが出来るので、映画やマンガよりも影響が大きい」と言う人もいるが、だったらボクシングや武道などの選手は、それらのスポーツをしない人よりも暴力的なケースが多くなるだろうし、格闘技は全てなんらかの規制が必要になりそうだ。しかし、格闘技の選手に暴力沙汰を起こす者が多いとは決して言えない。
しばしば性犯罪の裁判で、痴漢やレイプもののAVを容疑者が好んで見ていたとして、証拠として提出されるが、痴漢やレイプもののAVがそのような性犯罪を誘発する恐れが強いと言えるなら、強盗が主人公の映画やカーチェイスシーンを多分に含む映画だってその種の犯罪を誘発すると言えるだろう。
勿論、銃撃ゲームにしろ、ここで挙げた各種の娯楽作品にしろ、誰にも全く何の影響も与えないとまでは言わない。勿論中には感化されて犯罪行為を実践してしまう者もいるだろう。しかし、その割合は一体どれ程だろうか。それらの作品を愛好していても犯罪に走らない者の方が圧倒的に多い。もし感化されて犯罪が起きたのだとしても、問題があるのはそれらの作品ではなく、分別のない犯人ではないのか。その種の作品に責任を求めるのは果たして妥当だろうか。個人的には、それらの作品や新しい娯楽を快く思わない人達が、ここぞとばかりに攻撃しているか、他に責任が求められると都合の悪い人達が、そうならないように無理矢理責任転嫁しているように思えてならない。
Gigazineはこの件の続報「「ゲームが銃乱射事件の一因になっている」というトランプ大統領陣営の主張がどのような影響をおよぼしているか?」を8/12に掲載した。記事によると、トランプ氏が再びゲームを槍玉にあげた影響で、一部の量販店で暴力的なゲームの取り扱いが中止となったり、シューティングゲームのTV中継が延期になったりしているそうだ。これはまるで、
深刻化する麻薬中毒対策として、ドラッグ密売取締りは強化せずに、ドラッグが出てくる映画を禁止するだけのような話だ。「頭隠して尻隠さず」のような滑稽さや、「尻に目薬」のような見当違い加減を痛感する。
冒頭で紹介した記事「ゲームが銃乱射事件の一因となっているとトランプ大統領らが非難 - GIGAZINE」の最後はこう締めくくられている。
ゲーム業界で働く識者たちからは「人を殺しているのはゲームではなくて、実銃だ」というコメントが飛び出しているように、アメリカで一向に進まない銃規制こそ銃乱射事件を引き起こす大きな原因だという見方もあります。「という見方もあります」なんて表現は果たして妥当か。どう考えても人を殺すのは、銃撃ゲームではなく銃だ。銃規制に反対するNRA:全米ライフル協会がトランプ氏への支持を明確に示していることを考えれば、トランプ氏が銃乱射事件の責任を銃以外へ転嫁する為に、時代遅れ甚だしいゲームの悪影響という話を今更再燃させようとしているのは、誰でも簡単に想像できることだ。
8/8のテレ朝ニュースの記事「銃乱射相次ぐ中… トランプ氏は銃規制に消極姿勢」によると、トランプ氏は、テキサス州とオハイオ州で立て続けに乱射事件が起きた(テキサスとオハイオで銃乱射事件、死傷者多数-人種差別に再び焦点 - Bloomberg)ことを受けて、
(銃購入の)身元の調査は重要だ。銃を精神的に不安定な人や、怒りや憎しみを持った人に渡したくないと発言したそうだが、米国民の多くは「国のトップを、精神的に不安定な人や怒りや憎しみを持った人に任せたくない」と思っているだろうし、他の国の市民も、「自国に多大な影響を及ぼす米大統領を、精神的に不安定な人や怒りや憎しみを持った人に任せないで欲しい」と思っているだろう。少なくとも自分はそう思っている。
トップ画像は、Photo by Anthony Brolin on Unsplash を使用した。