北朝鮮によるミサイル発射は、昨年(2018年)、初の米朝首脳会談が行われた前後から今年(2019年)4月まで止んでいたが、今年2月に行われた2度目の米朝会談が不調に終わったこと等を受けて、5月からの3ヶ月強の間に8回もミサイル発射が行われている。6月には、電撃的な会談という演出だったのか本当にそうだったのかは定かでないが、事前に予定が全く公開されなかった3度目の会談を板門店で行ったにもかかわらず、状況は変わっていない。8回のミサイル発射の内訳・5月2回(4日と9日)、7月2回(25日と31日)、8月4回(2日、6日、10日、16日)を見れば、寧ろ状況は3度目の米朝会談後更に悪化している、と言ってもいいだろう。
前述の内訳の中にも含めたが、今日もまた北朝鮮によるミサイル発射が報じられた(テレ朝ニュース「相次ぐ飛翔体発射は今年8回目 米韓演習に反発か」など)。
記事でも触れているように、ミサイル発射に関する報道は大抵「韓国軍によると」と、韓国軍から得た情報として伝えられる。現在日本政府と韓国政府は深刻な摩擦を引き起こしており、韓国側は日本との安全保障の枠組みなどを見直し、日韓が軍事機密を共有するための協定・GSOMIA(General Security of Military Information Agreement)を破棄する場合もあるとしている。もしこのような状況で韓国から軍事に関する情報が提供されなくなったら、北朝鮮によるミサイル発射に対する安全を、日本政府はどうやって確保するつもりなのだろうか。
日本が自前で北朝鮮によるミサイル発射を察知する仕組みを既に整えている可能性もあるが、そうであれば、韓国軍よりも先に自衛隊か防衛省から報道機関へ情報提供がなされる筈だ。しかし現実はそうなっていない。ということは、 北朝鮮によるミサイル発射を自国だけで充分に察知する仕組みを日本は有していないのではないか。
一部に「韓国のホワイト国除外という日本政府の対応は優遇措置やめただけで、騒ぐようなことではない」のように言う人がいるが、相応の理由もなく優遇措置外されたら納得出来ないのは当然だろう。理由なく優遇措置やめてもOKなら、何故日本政府は、韓国政府が同じ措置をすることに対して「根拠がない」と不快感示しているのだろうか。それでは筋が通らない。一応日本政府は「日本政府は同措置の理由を『安全保障上の理由』という見解を示しているが、もしその根拠が妥当ならば、日本以外の国も韓国に対して安全保障上の懸念を表明しているはずだ。しかしそんな報道は全く見たことがない。それを勘案すれば、日本政府が如何に利がないことをしているかが分かるのではないか。
勿論韓国政府にもおかしな部分はある。そもそも、現在の日韓関係の悪化は、2015年に韓国朴政権との間で両国が確認した慰安婦問題日韓合意(Wikipedia)を、文政権が一方的に事実上反故にしたことによる部分が大きいと言わざるを得ない。内容に不満があるのだとしても、一方的に反故にするようなやり方が適切だったとは言い難い。しかしそれでも、現日本政府が同レベルかそれ以下の対応をしているのは余りにも大人げない。
文大統領は昨日(8/15)、日本の植民地支配から解放された記念日である光復節の記念式典での演説の中で、「日本が対話と協力の道を選ぶなら、私たちは喜んで手を取り合うだろう」と述べたそうだ(ハフポスト「日本に対話呼びかけ? 韓国「光復節」でムン・ジェイン大統領が語ったこと(詳報)」)。もうそろそろチキンレースは止めませんか?という提案のようにも見えるが、トランプ氏に変に影響されて、否定からの懐柔をやろうとしているようにも見える。但しトランプ氏に倣えの我が国の首相も滑稽でそんなに大きな差はない。
日韓政府のトップ2人は愚かなチキンレースを止めるべきだ。日本に住む者の視点で考えると、安全保障の面から考えても、そして拉致問題解決という面でも、日韓の対立を激化させることは確実に愚かな選択である。
今朝の北朝鮮によるミサイル発射を受けて、安倍首相は「我が国の安全保障に影響を与えるようなものではないことは確認されております」と述べたそうだ(テレ朝ニュース「総理「安全保障に影響ない」防衛省は飛翔体を分析中」)。トップ画像はこのムービーからのスクリーンショットである。
北朝鮮と日本政府の間で「ミサイルを発射するが日本に影響は及ぼさない」という内容の密約でも交わしているのなら、「安全保障に影響はない」という見解を彼が示すのも理解できるかもしれないが、密約なら市民はその存在を知る由もないので、そんなことを言われても納得できるはずがない。そもそも、日本政府は北朝鮮との直接交渉の経路を持たず、しかも北朝鮮当局は日本など相手にしないという姿勢だ。米朝の間も決して関係が落ち着いているとは言えず、そんな密約があるなんて考え難い。
安倍氏は恐らく、発射されたミサイルが日本の領土領海・排他的経済水域に到達しなかった、ことを以て「安全保障に影響はない」としたのだろう。確かに自国の領土領海・排他的経済水域にミサイルが到達していなければ深刻度が高いとは言えないかもしれない。しかし、排他的経済水域の外で漁をする日本の漁船もあるだろうし、航行する一般の船舶もあるだろう。隣国が事前通告のないミサイル発射、自国の領土領海に到達し得るミサイルの発射を繰り返していること自体に安全保障上の問題がある。つまり「安全保障に影響はない」は妥当な認識とは言い難い。
北朝鮮によって繰り返されたミサイル発射を、以前「国難」とまで言ったのは一体どこの誰だろうか(産経新聞「安倍晋三首相所信表明 「国難」立ち向かうため 建設的議論を与野党に呼びかけ」)。森友学園の問題について述べた「妻や私が関わっていたら総理大臣も国会議員も辞める」の「関わる」は、「賄賂を受け取っていたら」という意味だったと後に言いだしたように、恣意的な解釈や、発言後に後付けで無理矢理趣旨を捻じ曲げるのは彼の十八番なので、そのように指摘すれば、彼は、当時北朝鮮によるミサイル発射と同時に国難に挙げた「少子高齢化」を国難としただけで、「北朝鮮によるミサイル発射を国難とは言っていない」のような主張をするつもりだろう。
ある時は「北朝鮮によるミサイル発射は国難」と煽り、警報を鳴らし、効果があるとは思えない地面に伏せるという訓練まで国民にさせ、ある時はミサイルが発射されても「安全保障に影響はない」と言い、自分は悠々とゴルフにふける。韓国には安全保障上の問題があるとして輸出の優遇措置を止めるのに、北朝鮮のミサイル発射は安全保障に影響しないと言う。
そんな、自分の都合で姿勢を極端に変えるいい加減な男に首相を任せている限り、韓国とも揉め続けるだろうし、それによって北朝鮮との交渉も遠のき、拉致問題にも前身はないだろう。先月行われた参院選では、選挙前より議席を減らしはしたが、彼が総裁を務める自民党が再び最大の議席を確保した。こんな状況を見ていると、拉致問題が解決しないのは安倍氏だけの責任ではなく、彼と自民党を信任し続ける有権者の所為でもあると言えそうだ。