日本政府は、貿易管理上の優遇措置を適用する「ホワイト国」から韓国を除外することを8/2に閣議決定した。時事「政府、韓国のホワイト国除外決定=初の取り消しで輸出規制強化-28日発動」によると、8/7に政令を公布した上で8/28に発動し、対韓輸出規制をさらに強化するとのこと。ホワイト国の指定を取り消すことも今回が初めてなのだそう。
率直に言って、
日本政府は慰安婦問題や徴用工問題への意趣返しでないとしてはいるものの、それだけが理由と断言はできないが、誰の目にもその側面があることは明らかだ。確かに韓国の現政権・文大統領の振舞いも日本政府と同様に大人げない。しかし、相手が大人げなかったとしても、なぜ日本政府が同じレベルに成り下がる必要があるのか。成り下がる必然性はどこにもない。大人げない相手に対して同様の大人げない対応ををすれば、各国から「日本も同レベルだな」と思われるだろう。日本政府の対応は大人げない
つまりこの対応で喜ぶのは日本の一部の感情的な嫌韓論者たちだけで、 他の誰も得をしない。強いて言えば、7/20の投稿で書いたように、中国が漁夫の利を得るかたちで得をする結果となる。
7/31からタイ・バンコクでASEAN関連外相会議が行われており、昨日(8/1)日韓外相会談が行われた。TBSニュース「日韓外相 議論は平行線、2日にも「ホワイト国」除外へ」によると、韓国・康外相は、日本が韓国を安全保障上の理由でホワイト国から除外するならば、韓国側も日本との安全保障の枠組みなどを見直し、日韓が軍事機密を共有するための協定・GSOMIA(General Security of Military Information Agreement)を破棄することもあると示唆したそうだ。
前述の通り、7/20の投稿では、日韓対立で結果的に得をするのは中国だと書いたが、このようなことに鑑みると、中国だけでなく北朝鮮も日韓の対立激化のよって得をする立場なのかもしれない。北朝鮮は、8/2に再びミサイルを発射した(TBSニュース「北朝鮮がまたミサイル2発発射」)。7/25・31に続いて、約1週間の間に3回目もミサイルを発射している。北朝鮮のミサイル発射のニュースが伝えられる場合、ほぼ確実にその情報源は韓国軍合同参謀本部である。アメリカ国防省が示した見解についても触れられるが、防衛省や外務省の発表は、大抵それらの後を追う形で示される。地理的に考えても、北朝鮮のミサイル発射から日本を防衛するのには、韓国との協力関係は不可欠だろう。
それとは別の面でも日韓の良好な関係は不可欠である。昨年、史上初の米朝首脳会談が実現したが、どう考えてもその立役者は韓国の文大統領だった。個人的には単なるパフォーマンスにしか見えなかったが、6月のG20後にトランプ氏が訪韓した際に、板門店にて電撃的に行われた3度目の米朝会談だって(BBC「歴史的会談か、それとも……3度目の米朝会談をどうみる」)、文大統領の仲介がなければ実現しなかっただろう。
安倍氏は、トランプ氏が対北強硬路線を変更し、最初の米朝会談を発表するまで、拉致問題解決についても圧力一辺倒の姿勢だったが(拉致問題で譲歩、後退する安倍政権 過去の発言から180度転換(辺真一) - 個人 - Yahoo!ニュース)、トランプ氏の方針転換とタイミングを合わせるようにして彼も姿勢を反転した。今年(2019年)5月に拉致被害者家族と面会した際には、
拉致問題の解決に向けましては、我が国自身が主体的に取り組んでいかなければなりません。日朝間における相互不信の殻を打ち破り、新たな一歩を踏み出していく必要があります。そのためには、私自身が金正恩委員長と直接向き合わなければならないと、こう決意をいたしております。条件を付けずに金正恩委員長と会って、そして率直にまた虚心坦懐に話をしたいと考えています(首相官邸「「全拉致被害者の即時一括帰国を実現せよ!国民大集会」等」)。と述べるなどしている。
韓国との友好的な関係なくして、安倍氏は一体どうやって北朝鮮と向き合うつもりなのだろうか。韓国の協力なくして日朝首脳会談をどうやって実現させるつもりなのだろうか。北朝鮮との相互不信の殻を打ち破る以前に、韓国との間で相互不信を煽ってどうするつもりなのだろうか。安倍氏や日本政府の言っていることに一貫性があると考える人は、彼らの積極支持者ら以外で一体どれ程いるだろうか。
自分が拉致被害者家族だったら、どう見ても「言ってることとやってることがちぐはぐ、というか寧ろ”違う”。全く信用ならない」としか思えないだろう。
つまり、韓国側の対応も日本同様に大人げない事は確実に指摘しておかなければならないが、日本側の対応もそれと同じレベル、若しくはそれ以下であると言わざるを得ない。これでは結局、中国やロシア、そして北朝鮮に利する行為を日韓両政府が自ら進んでやっているようなものだ。TBSニュース「きょう日米韓3か国外相会談開催」によれば、アメリカが日韓の対立激化に待ったをかけるようだが、アメリカの仲裁で拳を下げるぐらいなら、最初から拳など上げるなと言いたい。
日経新聞は7/27に「ソウルで数百人が反日集会 輸出規制強化に抗議」という記事を掲載した。次の画像は同記事に掲載されたものなのだが、この写真に複数写っているプラカードに書かれている「NO 아베」は、日本語にすると「NO 安倍」である。
しかし日経は記事の見出しで「反日」集会としている。この記事を書いた記者や校閲した上で掲載した日経新聞は、日本=安倍首相/日本政府と認識しているということでよいのだろうか。日本の主権者はあくまでも国民であり、日本=安倍首相/政府でもなければ、日本=日の丸・君が代でもなく、日本とは一人ひとりの国民である。それを日経という全国紙・大新聞が適切に理解していないのは残念だ。感情的になって敵愾心を煽っていると言わざるを得ない。
7/20の投稿でも触れたように、確かに一部で日本製品の不買運動なども起きており、例えばその風景などを写したイメージを用いて、「反日集会」と呼ぶのならまだ理解はできたが、「NO安倍」つまり「反安倍」集会を示唆して「反日集会」と呼ぶのはとても残念だ。意識的忖度か無意識的な忖度かは分からないが、政権や首相への忖度を連想させられる。
韓国では日本側の優遇措置停止を理由に不買運動などの抗議活動が行われているようだが、自分の目には韓国国民の方が日本国民よりもやや冷静さで勝っているように思う。何故そう感じるのか。両国の世論調査を見てそう思う。
韓国では日本に対する強硬姿勢を示すと支持率が回復すると言われている。確かに中央日報の7/29の記事に掲載された世論調査では52.1%に上昇したとある。しかし、現在懸案となっている日本の優遇措置停止の事案は決して先週からの話でなく、日本政府がそれを発表したのは7/4だ。文政権はこれまでも一貫して日本政府に対して強硬な態度を示してきたが、7/16日の記事には支持率が下がったと書かれている。つまり、日本政府に対する強硬姿勢に韓国民はそれ程大きく反応を示していないと言えるのではないか。
日本では、自民党の甘利氏が7/31に出演したテレビ番組の中で「(文在寅大統領が)自分の支持率を上げるためにやっている。両国間の本当の絆をつくるなら、政争の具にしてはいけない」と述べたそうだ。前段の見解はあくまで自分の個人的な見解であり、尺度を変えてみれば、直近の対日強硬姿勢で文政権の支持率が上向いたと言えるかもしれないし、例え支持率が上がらなかったとしても、文大統領がこれまでの韓国の政権の動向を勘案し、支持率を上げる為に対日強硬姿勢を示していると言えるかもしれない。
しかし、もし本当にそうだったとしても、日本の現政権の姿勢だって同様に「(安倍首相が)自分の支持率を上げるためにやっている。両国間の本当の絆をつくるなら、政争の具にしてはいけない」と言えるのではないか。この投稿でここまでに指摘したことからもそう言えそうだ。
しかも、日本の現政権の支持率は、日本政府が優遇措置撤回を発表した7/4以降も横ばいの状態である(第25回 参院選トレンド調査 | NHK選挙WEB)。
どちらの政権の支持率も誤差の範囲程度の差でしかなく、これで日韓国民のどちらが冷静かを論じるのはやや早計かもしれない。韓国民の多くは反日ではなく反日帝・つまり戦前日本とそれに準ずる考え方を否定しているだけで、その空気を感じさせる日本の安倍政権へのNOを示している。一方で日本だって嫌韓を声高に叫んでいるのは一部だけで、若者の多くは韓国の若者文化を謳歌しているし、韓国全体を嫌悪などしていない。
しかしテレビや新聞などのメディアを見ていても、韓国政府の不備を指摘するばかりで、日本政府へ冷静な対応を求める声はあまり聞こえてこない。そんなことを勘案すれば、どちらかと言えば、日本国民の方がやや感情的に、当該案件に望んでいるように思えてしまう。
兎に角、特に拉致問題の解決についてはもう既に一刻の猶予もないのだから、必要以上に韓国と揉めている場合ではないのは間違いない。しかも、7/20の投稿で触れたような、韓国を貶めようとする愚かな嘘を流布する者がいれば、本来抑制にあたらなければならない政府や首相が何もしようとしない。ということは、結局今の日本政府は実質的に、人種差別的な主張を繰り返しているトランプ氏(7/19の投稿)と似たり寄ったりだ。
このような政権を構成する与党・自民党が、7/21に投開票された参院選でも最も票を集めたのだから、やはり日本国民は冷静な判断が出来ていない、と言わざるを得ない。
トップ画像は、SCY、Chickenonline、Chickenonline、412designsによるPixabayからの画像を組み合わせて加工した。