日本と韓国のメディア労組が共同で、「ナショナリズムを助長する報道には加担しない」ように呼びかける共同宣言を発表した(日韓メディアの労組が共同宣言「ナショナリズムを助長する報道には加担しない」 | ハフポスト)。9/6にも日本の新聞労連が「嫌韓」あおり報道はやめよう」という声明を発表していたが、この共同宣言は、新聞労連や民放労連・出版労連などからなるMIC:日本マスコミ文化情報労組会議と、韓国の全国言論労働組合が共同で表明した宣言だ。両国の報道機関ではなく報道機関で働く人達が、排外的な言説や偏狭なナショナリズムに対して明確に批判的な態度を示した、ということだ。
日本でも一部の週刊誌やワイドショーなどで、排外主義的な主張や企画が飛び交っていたのに、このような声明が示されるのがあまりにも遅いと感じるし、あくまでも報道機関が主体的となった宣言ではないという点も残念だ。
しかし、メディアの内部から明確に、過激な主張やそれを煽る主張・行為に対する否定的な反応が示されたことは前向きに捉えたい。但し、あくまでもこれはスタートラインであって、重要なのは今後メディア報道がどのような方向に進むのか、排外主義やナショナリズムを明確に否定することができるのか、だろう。宣言はあくまでも宣言であり、実際にその内容が履行されなければ、その宣言が意味あるものにはならない。
BuzzFeed Japanが9/28に「「日韓関係、あなたはどんな未来にしたい?」日韓交流おまつりの来場者に聞いてみた」という記事を掲載していた。日比谷公園で9/28-29に開催された日韓友好を目的としたイベント「日韓交流おまつり」に関する記事だ。この記事を書いた冨田 すみれ子さんは、前日にも「「日韓関係の未来は明るい」わたしが韓国の舞踊をおどる理由」という記事を書いている。
日韓交流おまつりは2005年よりソウルで開催され、2009年以降は東京でも開催されるようになった。2019年の韓国開催は9/1に行われた。当該記事は参加者へ「日韓関係、あなたはどんな未来にしたい?」について答えてもらうインタビュー形式だ。交流イベントへの参加者が答えているので当然と言えば当然だが、偏見に満ちた刺々しい主張は全く見られない。
この記事を見て自分が感じたのは、大手メディアがこのイベントについて報じるのか、どのように報じるのか、ということだ。そこでテレビ各社・大手新聞各社のWebサイトで「日韓交流おまつり」で検索をしてみた。
なし - 読売新聞
にぎわう日韓交流おまつり 「友情と理解深まる機会に」:朝日新聞デジタル
日韓交流おまつり日比谷公園で開幕 「今こそ草の根交流を」 - 毎日新聞
なし - 日本経済新聞
日韓で活動中アイドルCatChuuuu(キャッチュウ)日韓交流を絶やしてはいけないと、韓国でフリーハグ! - 産経ニュース
注:プレスリリース配信サービス・PR Timesからの転載記事で、厳密には産経新聞の記事ではない。日韓交流おまつりよりもアイドルグループに注目した内容東京で日韓文化交流イベント 「今こそ草の根交流を」 | 共同通信
東京で「日韓おまつり」開催=関係最悪、今こそ交流:時事ドットコム
「こういうときだからこそ」日韓交流おまつり 東京 | NHKニュース
“日韓交流おまつり” 2日間で7万人余 過去2番目の来場に | NHKニュース
文化を通じ交流を 都内で日韓交流おまつり|日テレNEWS24
日韓の文化交流イベント開催、東京・日比谷公園 TBS NEWS
毎年恒例「日韓交流おまつり」 「こういう時こそ」開催 - FNN.jpプライムオンライン
日韓交流おまつり 関係悪化も来場者でにぎわう テレ朝ニュース
日韓交流おまつり 今年も開催|テレ東NEWS:テレビ東京
一応注釈しておくが、実際の紙面や放送での報道が全てWebに掲載されているかどうかは定かでなく、Webでの記事掲載がない報道機関でも、別媒体では記事掲載があったかもしれない。
新聞は独自記事ではなかったとしても、通信社の配信だけでも各社載せるのだろう、一方テレビは触れる局の方が少ないのではないか、と予想していたが、全く触れていないのは読売新聞と日経新聞のみで、殆どの報道機関が日韓交流おまつりについて取り上げていた、テレビ局で触れない局がなかったのは意外だった。但し、注釈したように産経新聞も実際は取り上げていないのに等しく、読売/日経/産経という政府に近い立場とされている3紙が日韓交流おまつりについて取り上げていないのは実に興味深い。付け加えておくと、テレビ朝日のサイトに掲載されている動画はAbema Newsの映像なので、地上波で取り上げたのかは定かでない。
テレビ局・動画系のニュースでは、テレビ局の取り上げ方はほぼ横並びな印象ではあるが、フジテレビ/テレビ東京以外が南 官杓/ナム グァンピョ駐日韓国大使のコメントを取り上げてる。フジテレビは産経・テレビ東京は日経と関係が深い局だ。またテレビ局の映像では全く触れられていない赤羽国交大臣の挨拶を、毎日新聞が掲載した共同通信の動画だけが取り上げているのも面白い。
この日韓交流おまつりについての報道だけでメディアの傾向を判断してしまうのは早計かもしれないが、テレビ各局では既に自浄作用が起きているのかもしれないとも感じられる。一方で新聞はそれぞれの立ち位置が如実に表れているように見える。何はともあれ、今後日本のメディア報道が、これ以上信頼感を下げるようなことにならないことを強く望む。
NHKは9/28に「無償化に便乗 認可外の保育施設で理由なく利用料値上げ / スクリーンショット」という記事を掲載しているのだが、そのような穴のある制度/不備のある制度だと以前から指摘があったにもかかわらず、そんな制度を作った政府や与党の責任については、見出しでは一切触れず、本文中でも最後に慶應義塾大学の中室牧子教授の「国は丁寧な制度設計をするべきだ」というコメントを紹介しているだけで、その部分は全体の1/4に満たない。前段で「テレビ各局では既に自浄作用が起きているのかもしれない」と書いたが、まだ本当にそうなのかわからないし、もし起きているのだとしても、まだまだ吹けば消える程度の勢いでしかないのかもしれない。
トップ画像は、Javier RoblesによるPixabayからの画像 を使用した。