先日実家に帰った際に通っていた小学校に行ってみた。懐かしいという印象よりも、まず「え?こんなに狭かったっけ?」という印象が湧いた。単に自分が大きくなっただけだが、小学生の頃は活動範囲が狭かったこともあって、小学校の校庭や校舎が大きく感じられたのだろう。一人で鹿児島の指宿までクルマで行った時は、凄く遠くに来た感があった。小学生当時の自分からしたらそれはもう大冒険レベルだろう。しかし世界地図で見ればホンの少しの距離にしか見えない。太陽系全体と比較してみたら、移動した内に入らない点のような距離に過ぎない。比較とは何と比べるかで印象が大きく変わる。何かを比較するときは、適切な対象と比較することがとても重要だ。
昨日は有名人の薬物事犯に関する報道が2件あった。1つは田代 まさしさんが覚醒剤所持の疑いで逮捕されたという件で(田代まさし容疑者「自分のものではない」 TBS NEWS)、もう1件はバンクーバー五輪にスノーボード選手として出場した、國母 和宏さんが大麻を密輸した疑いで逮捕されたという件だ(國母容疑者、押収大麻は100回以上の使用量 TBS NEWS)。
自分が気になったのは國母さんの件で、この件について、裁判傍聴芸人で知られる阿曽山大噴火さんが次のようにツイートしている。
今年大麻で逮捕された著名人の所持してた大麻のグラム数。kenkenが0.2g、田口淳之介と小嶺麗奈が2人で2.2g、JESSEが2.4g。で、国母和宏容疑者が57gだけど営利目的を否定していると。— 阿曽山大噴火 (@asozan_daifunka) November 7, 2019
阿曽山大噴火さんは、「所持していた量が他の事案よりも多く國母さんの件は販売目的である恐れが強い」と言いたげだ。TBSニュースの報道も「100回以上使用できる量」と強調し、「販売目的での密輸」という見立てによる捜査が進められているとも伝えている。
この國母さんの件を販売目的で密輸したとする見立ては果たして妥当だろうか。自分には筋違いに思えてならない。まず最初に、確かに昨今世界的に大麻の合法化・非犯罪化を進めている地域も多く、個人的には大麻の所持等を重罪とするこの国の方針には賛成できないが、それでも一応非合法な行為なので所持や密輸を肯定しないことを確認しておく。しかし一方で、大麻所持=重罪は当然という感覚を過剰に醸成しかねないので、個人使用目的の所持・密輸に対して販売目的だとレッテルを貼る行為も決して容認できない。
なぜ國母さんが販売目的だったと断定すべきでないのかといえば、國母さんが大量・若しくは頻繁に密輸を繰り返していたという話が出てきていないからだ。例えば、タバコを吸う人でも、1日に数本程度の人もいれば数箱吸う人もいる。お酒だって、付き合い程度で自分から積極的には飲まない人もいれば、毎日飲む人もいるし、毎日飲む人の中にも1日350ml缶1本程度の人もいれば、500ml缶を数缶空ける人もいる。つまり、嗜好品の使用量は人によって千差万別であり、それは大麻や薬物に関しても同様で、週末だけ吸うという人もいれば毎日の晩酌のように吸う人もいる。だから100回分程度の所持で販売目的と断定するのは適当ではない。
また、日本国内の大麻相場は明らかに諸外国の相場に比べて高い。少なくとも3倍、場合によっては10倍程度の価格になる。だから少量をちびちび買ってちびちび吸う人が多そうだ。逮捕時の所持量が少ないケースというのは、そのようなタイプか、國母さんのようにまとめて買うタイプだが、たまたま購入からある程度時間が経ったタイミングで逮捕され、たまたま所持量が少なかったという場合もあるだろう。
国外で購入してくることには安く購入できるメリットがある反面、持ち込む際に発見されるリスクも生じる。勿論数グラムと100グラムだったら前者の方が発覚するリスクは少ないだろうが、10グラムを10回持ち込むのと100グラムを1回持ち込む場合の発覚リスクを比較したら、後者の方が低いと誰もが考えるのではないか。これがキロ単位になれば発覚リスクはかなり上がるだろうし、相応の見返りを求めた結果と考えるのも不自然ではなくなる。また、大麻にもタバコ同様に湿気るリスクがある為、1人で使い切るには多いとも考えられる。キロ単位の密輸ならば販売目的と言われてもまあ仕方ないようにも思うが、100-200g程度なら、高い頻度で密輸していたのでないなら、一概に販売目的と決めつけられないだろう。
「100回以上使用できる量」と言っても、毎日の晩酌のように1日1回大麻を使用すると仮定すれば、100日で使い切る量だ。海外で購入して日本へ持ち込む場合、3ヶ月分程度を自分の為に買ってくるのは全然不自然じゃない。コンビニなどタバコを売っている店が近所にない人が、数カートンまとめて買い置きするのと似たようなものだろう。少量をちびちび買う人とまとめて買う人の差も、毎日350ml缶を1本ずつ近所のコンビニで買って晩酌する人と、購入費を抑える等の目的で、クルマでわざわざ量販店に行ってケース単位で大量購入する人の違いと似ている。量販店でケース単位で購入する人は営利目的で酒を買ったと言えるだろうか?それだけで断定など絶対に出来ない。國母さんが所持していた量はそんな量だ。
つまり、東京-鹿児島間の距離を、一般的な人の毎日の移動距離と比べれば長く見えるし、世界地図上で見たり太陽系全体と比べれば、ほんの僅かな距離にしか見えないのと同じで、逮捕時に所持量が少なかった事例と比べて國母さんの所持量が多く見えるのは、至極当然なことで、そのような比較だけを以て販売目的とするのは、断定でなく推測だとしてもその妥当性は低い。
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