自分にとって、スポーツ観戦と言えば専らモータースポーツだ。日本で主流のモータースポーツと言えばサーキットを周回するロードレースだが、4輪にはラリー、2輪にはモトクロスやエンデュランスなどオフロードでのレースもある。また、4輪/2輪ともに、1/4マイルの直線の速さを競うドラッグレースもあるが、日本ではあまり人気がなく、テレビではCSですら取り上げられないし、ネット中継さえ殆ど行われていない。
以前、なんで1/4マイルの直線の速さを競うレースが「ドラッグ」レースなんだろう?薬でぶっ飛ぶみたいな感じのニュアンスか?などと思ったので調べてみたら、薬物のドラッグが「Drug」なのに対して、ドラッグレースは「Drag Race」だった。「Drag」は引っ張るを示す単語で、例えばPC用語の「drag-and-drop」は、(マウスでクリックして)引っ張ってきて手放す動作を示す。ドラッグレース - Wikipediaによると、ドラッグレースは
引っ張られているように見えるほど速いことからDrag Race なのだそうだ。 因みにパーティなどを盛り上げる女装した男性を指すドラァグクイーンも、 Drag queen であり Drug queen ではない(ドラァグクイーン - Wikipedia)。ドラッグでラリったような奴というニュアンスが込められた蔑称ではない。
Gigazineが昨日「うつ病治療のため少量のLSDを服用する「マイクロドーズ」の安全性が証明される - GIGAZINE」という記事を掲載していた。LSDは別名Acid/アシッド、日本語では幻覚剤とも呼ばれる薬物で、日本では1970年に麻薬に指定された(LSD (薬物) - Wikipedia)。1960年代後半にヒッピーカルチャーの隆盛と共に流行したそうで、アップルの創業者の1人・スティーブ ジョブスやマイクロソフトを立ち上げたビル ゲイツも、過去に使用したことがあると告白している。
スティーブ・ジョブズに関する調査報告書、FBIに続き米国防総省も公開 | ギズモード・ジャパン
私は1972年から1976年ごろまでの間、10回から15回くらいLSDを使用しました。たいていは独りで、角砂糖やゼラチンにLSDを染みこませたものを摂取していました。LSDの効果を言葉で表現することはできませんが、人生をポジティブに変えた経験だといえます。あの体験を経てよかったと思っています
ビル・ゲイツ、昔のインタビューでLSDの使用を認めていた | Business Insider Japan
(LSDを使ったことは?という問いに対して)「若気の至り」はとっくの昔に終わった。25歳になるまでにやってみたことの中で、その後、続なかったものがあるということ。LSDがどんなものかは、
このムービーを日本語で解説した「Appleのジョブズも使っていた「LSDの安全性」が3分でわかる「LSD in 3 Minutes」 - GIGAZINE」が分かり易い。
沢尻 エリカさんが逮捕された際に、LSDやMDMAに関する報道もあり、隠語でタマと呼ばれるMDMAが、隠語の由来でもある錠剤で流通し、錠剤には動物等の刻印があったり、可愛らしいハート型の形状だったり、他の合法的な薬同様にピンクや水色のパステルカラーであることから、MDMAの錠剤はラムネ菓子に似ているというツイートが複数話題になっていた。LSDも、液体で流通することもあるが、液体をしみこませた紙のシートの方が流通手段の主流で、隠語でカミなどと呼ばれている。
この"Drug-emon" the 2nd Trip ②というドラえもんのパロディ動画や、
「【サイケデリック】知られざる芸術、ブロッター・アートって?【LSD】 - NAVER まとめ」で紹介されているように、シートにはプリントが施されていることが多く、1回分に当たるサイズのミシン目が施されており、LSDは切手に近い形状だ。
自分はLSDの使用経験がないので、実際にどんなことが起きるのかは分からないが、ラブアンドピースが合言葉だったヒッピー文化/サイケデリック文化の隆盛と共に流行したことを考えれば、恐らく幻覚とともに多幸感がもたらされるのだろう。そんなLSDの高揚感を誘発する効果、沈んだ気持ちを持ち上げる効果から、鬱病治療にLSDを用いる研究がなされ、「うつ病治療のため少量のLSDを服用する「マイクロドーズ」の安全性が証明される - GIGAZINE」という話が出てきたのだろう、と想像する。
この記事を読んだ第一印象は、
多分LSDがもたらす多幸感が鬱症状を緩和してくれるんだろうが、効果が切れたら余計に鬱になりそう。若しくは躁鬱になったりしないだろうか。だった。殆どの地域で合法であり、世界で最も流通しているハードドラッグであるアルコールも、飲んで酩酊している時はかなり気分が上がるが、飲み過ぎると殆どの人が「2日酔い」と呼ばれる強い倦怠感に襲われる。多くの人が2日酔いを経験する度に「もうあんなに飲まない」と心に誓うだろうが、同じことを繰り返す人は少なくない。LSDの効果が切れる際に倦怠感があるのか、それがどの程度かは知らないが、もしそれがあるのだとしたら、効果が切れたら余計に憂鬱になって気分が沈んでしまうんじゃないか?と想像したわけだ。
しかしよく考えてみると、精神的な病や生活習慣病などでは、数年から数十年単位で付き合わないとならない薬も少なくない。鬱病もこの種の病である。また、免疫不全やホルモン失調系の病気などの場合は、殆どの患者が一生薬と付き合っていくことになる。そして、2日酔いになっても再び酒を飲む人のことを、それだけで依存症とは言わないし、ならば、少量のLSDを適切な管理の下で使い続けるという対処もありかもしれない。そのような場合なら、LSDを使い続けることになっても「依存症/中毒」とは言えないのではないだろうか。
Gigazineが当該記事を掲載する前日に、ツイッターのタイムラインにこんなツイートが流れてきた。
"ある物質が違法なら危険で— CK (@flateric23) December 22, 2019
違法でなければ安全"
これは奇妙で危険な考え方を導く
”違法な薬物にだけ【乱用】という言葉が付随して回るがコーヒーやワインを飲むで投獄されるのが不条理なら大麻を吸う事で投獄されるのも不条理である”
動画元https://t.co/vn1JfGmfZn pic.twitter.com/FN8YJxoN14
確かに今の状況では、多くの人には、合法なのか違法なのかによってバイアスが生じている、と言えるのではないだろうか。前述したように酒は合法だが、濫用すれば依存症になるし、ハードドラッグに分類する研究者も少なくない(ハードドラッグとソフトドラッグ - Wikipedia)。多くの人は砂糖や塩を薬物とは認識しないだろうが、砂糖や塩も濫用(過剰に摂取)すれば成人病になる。
成人病やアルコール依存症の人が増えれば、薬物依存患者が増えるのと同様に医療費増大の一因となりえる。しかし酒も砂糖も塩も大抵の国で合法だ。違法な薬物でなく適法な薬物・物質でも、節度を持って利用することが重要だと言えるだろう。また、例えば日本における戦前の覚醒剤や、1960年代までのLSDのように、研究によって弊害が見つかり、従来合法だった物質が違法とされることがあるのだから、その逆に研究によって有用性が見つかる場合もあるだろう。つまり、現在その薬物/物質の取り扱い/摂取が合法か違法かは、決してその物質の善悪の決定的な根拠にはならない。但し、どんな物質であろうが濫用は好ましくないのは前述の通りだ。
濫用が好ましくないのは摂取するものだけでなくギャンブル等にも言える。ギャンブルを濫用する者が増えれば、依存症の治療費だけでなく、生活を支える為の社会保障費増大にもつながる。つまり、
問題なのはギャンブルでも薬物でもなく濫用
である。「ダメ。ゼッタイ。」の主語は「違法薬物は」ではなく「違法合法に関わらず濫用は」だ。啓蒙サイトは一応「薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ」と、薬物乱用防止を掲げているが、合法な酒や砂糖や塩だって濫用はダメなのだから、「濫用」をもっと強調した方がよいのではないだろうか。
トップ画像は、Photo by 🇨🇭 Claudio Schwarz | @purzlbaum on Unsplash を加工して使用した。