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「エヴァ制作会社の社長が準強制わいせつで逮捕」は不正確


 アニメ制作会社・ガイナックスの社長が、「芸能人として写真を撮られるための訓練」と称して自身が経営する事務所所属の10代後半のタレントの裸の写真を撮影したり、マッサージという名目で体を触ったりした準強制わいせつ容疑で逮捕された、と昨日メディア各社が報道していた。ガイナックスの代表的な作品には「ふしぎの海のナディア」や「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビシリーズなどがある。
 但し、現在既に3作が公開され、2020年に最新作が公開される予定の「エヴァンゲリオン劇場版」シリーズの制作はスタジオカラーが担っている。


 この件に関して、BuzzFeed Japanは「ガイナックス社長が準強制わいせつで逮捕、被害少女の“特定“には「法的措置」と弁護士」という記事を掲載している。他メディアが猥褻事件としてのみ報道しているのに対して、
BuzzFeed Japanの記事ではそれに加えて、「ガイナックス社長の自宅はどこ?被害者少女は誰?」「容疑者の顔画像や経歴!わいせつされた少女は?」「被害者を特定」などネット上で被害少女の個人情報を晒すような記事を、所謂トレンドブログと言われる類のサイトが掲載していることを指摘し、代理人弁護士が法的措置を進めていると声明を発表したことも伝えている。
 その種のサイトが掲載した記事などによって、川崎で起きた小学生を狙った無差別殺傷事件や、京都アニメーション放火事件でもデマが広まったこと、 東名高速や常磐道で起きたあおり運転事件では、全く無関係な者が犯人及び関係者のように扱われる被害を受けたことなどを紹介し、根拠薄弱な情報を鵜呑みにしないことの重要性を伝えている。

 また、同記事では
代理人弁護士は
ネット上の情報を切りはりしている「トレンドブログ」は昨今、大きく問題視されている
社会の注目が集まる事件・事故が発生するたびに、容疑者のプロフィールや顔写真を紹介するといった触れ込みの記事が、大量に作り出されている。検索エンジンで上位にランクインすることを狙い、広告収入を稼ぐ狙いがあるからだ
情報のソースも曖昧で、ネット上の噂が発端になっており、デマの拡散経路となることも少なくない
とも指摘している。この指摘は現状を端的に示しており、被害者の代理人弁護士が、そのような2次被害を生じさせる行為に対しても法的措置を辞さないという声明を出しているにも関わらず、なぜ他メディアはそれを共に報じないのか、とすら思える。

 しかし残念なことに、このBuzzFeed Japanの記事には当初、指摘の説得力を著しく下げる見出しが掲げられていた。前述の通り現在は「ガイナックス社長が準強制わいせつで逮捕、被害少女の“特定“には「法的措置」と弁護士」という見出しになっているが、記事の最後に、
UPDATE
2019/12/05 21:40
当初、見出し及び文中で「ガイナックス」を「エヴァ制作会社」「エヴァンゲリオンとして知られるアニメ制作会社」としておりましたが、ガイナックスが現在はエヴァンゲリオンの制作をしていないことや、現在エヴァンゲリオンの制作をするカラーの声明を受け、見出しおよび本文を修正いたしました。
とあるように、当初は「エヴァ制作会社の社長が準強制わいせつで逮捕、被害少女の“特定“には「法的措置」と弁護士」という見出しで、
現在、続編は別のアニメ制作会社が制作を担当している。
 という本文中の説明もなかった。


 所謂トレンドブログ情報のいい加減さを指摘する記事に、現在はスタジオカラーが制作を担っているにもかかわらず、あたかも現制作会社の社長が逮捕されたかのような印象を与える見出しが掲げられたら、「BuzzFeed Japanだってビューを稼ぐ目的で、センセーショナルな雰囲気を演出する為に不正確な見出しを使っているじゃないか。しかも他サイトの情報の不正確さを指摘する記事に。それではトレンドブログと大して差がない」などと批判されても仕方ない。


 このことについては、BuzzFeed Japanの記事の訂正した旨を示す部分にあるように、エヴァンゲリオンの現制作会社であるスタジオカラーが「当作品に係る一部報道について」というリリースを出している。というのも、同様の見出し・論調で記事を書いたのはBuzzFeed Japanだけではなく、「カラーが一部報道に対し「強く抗議」 ガイナックス代表の逮捕を巡り - ねとらぼ」でまとめられているように、前述の他メディアの記事も当初は、
  • エヴァの制作会社役員、10代女性に準強制わいせつ容疑:朝日新聞デジタル
  • エヴァ制作のガイナックス社長、声優志望少女の裸撮影「芸能人としての訓練」:読売新聞オンライン
 だった。毎日新聞に関してはこの投稿を書いている時点でも
  • 準強制わいせつ容疑 エヴァ制作「ガイナックス」社長を逮捕 警視庁 - 毎日新聞
という見出しを用いてるし、「現在、続編は別のアニメ制作会社が制作を担当している」という旨の説明もない。
 このような状況に鑑みれば、BuzzFeed Japanの記事だけを批判するのは適切ではないかもしれない。しかし前述したように、BuzzFeed Japanの記事はトレンドブログの情報の不正確さを指摘しているということもあり、より情報の正確さには慎重にならなければならなかったはずだ。また、BuzzFeed Japanの記事を書いた旗智 広太さんは、直近では「「のり弁のちくわ、消費増税で半分に」は誤り ほっともっとが否定」を書いており、それ以外にもしばしば同媒体のファクトチェック記事を担当している。つまり彼は頻繁にトレンドブログやフェイクニュースの指摘/批判を展開している人物なので尚更である。

 もしかしたら旗智さんは、エヴァンゲリオンの制作会社がガイナックスからスタジオカラーへ変わったことを知らなかっただけ、という可能性もあるかもしれない。しかし彼は、


とツイートしているので、そんなに熱心に見る作品について詳しく知らなかったとは考え難いし、そもそも記事を書く上で制作会社の確認を怠っていたならそれも問題だ。センセーショナルな見出しでビューを稼ごうという意図はなく、見出しを「元エヴァ制作会社の」でなく「エヴァ制作会社の社長が準強制わいせつで逮捕」としてしまったのだとしても、結果的に間違った印象を広めかねない見出しを掲げた記事を書いたことに変わりはない。


 BuzzFeed Japan Newsが目指しているのが「東スポ」ならば、そのような見出しを掲げるのもいいだろうが、もしそうなら今後はBuzzFeed Japanの記事を東スポの記事と同じ様な目線で読まなければならないし、ファクトチェック記事の信憑性もその程度にしか受け止めることが出来なくなる。もしBuzzFeed Japan Newsが誠実なメディアを目指しているなら、この件について猛省して貰いたい。
 また、同じ事は同様の見出しを掲げた新聞社にも言える。BuzzFeed Japanとは異なり、見出しや本文を訂正したのにその旨を記述しない媒体もあり、それでは都合の悪い文書を改竄したり隠蔽したり捏造したりしている現政権のことを批判出来なくなってしまうのではないだろうか。

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