「壊す」を表す英単語には Break / Destroy / Demolish などがある。何が違うんだろう、と調べてみたところ、Break は3つの中で最も規模の小さな破壊というニュアンスで、Destroy は 破壊しつくす、完全に破壊する、取り返しのつかない状態にする、のような、Breakよりも規模の大きな破壊を意味するそうだ。Demolishは主に強固な建造物の破壊などに用いられる表現で、Destroyとほぼ同様の意味合いだそうだが、Destroyよりもかしこまった印象らしい。Unsplash など画像サイトでそれぞれの単語で検索してみると違いが感じられる。
昨年は「NHKをぶっこわ~す」というフレーズを用いた者が率いる新興政党が注目を浴びた(2019年7/30の投稿)。参院選では1議席を得た彼らだったが、議席を得た党代表が議員辞職して比例名簿次点の党員に議席を譲り、いくつかの地方首長選に出馬したものの、ふざけた主張が受け入れられることはなく、ことごとく惨敗を喫している。
個人的には「NHKをぶっこわ~す」と言っているその代表や、関係者・支持者こそぶっ壊れている、それこそBrokenレベルではなくDestructionレベルで、ようにしか思えなかった。全ての支持者がDestructionレベルだと言うのは言い過ぎかもしれないが。
西日本新聞は2/9に「首相に学ぶ答弁術」という記事を掲載した。
【実例1】(「桜を見る会の参加者を募集していたのをいつから知っていたか」と問われ)首相「私はですね、ま、幅広く募っているとの認識でございました。募集しているという認識ではなかったのでございます」
【解説】言葉の定義に独特の解釈を持ち込み、相手の指摘は当たらない、と主張する技法。常識的に同じでも「違う」と言い張る度胸を必要とする。
【応用編】
「また居眠りしてましたね。会議中ですよ」
「私はですね、座って睡眠をとっているという認識でございました。居眠りしているという認識ではなかったのでございます」
のような例をいくつか挙げ、最終的には
この(首相が用いるような話術の)テクニックは使わない方がいい。結果的に人格を疑われ、信頼を失う弊害の方がはるかに大きいからだ。と、今国会で安倍氏がどれだけ支離滅裂/強引な答弁を繰り広げているかを皮肉った記事である。
毎日新聞の2/9の社説「安倍首相の国会答弁 だれが聞いてもおかしい」も同様に、安倍氏の国会での答弁における詭弁や稚拙さを指摘している。
昨年末、国土交通副大臣も務めた秋元衆院議員が所謂カジノ汚職で逮捕された(秋元司衆院議員、カジノめぐり収賄の疑いで逮捕 - BBCニュース)。その後複数の自民党議員/維新議員も収賄の疑いで捜査対象になっていたが、2/4、東京地検はその5人の議員の立件を見送った。「IR汚職、5議員の立件見送り 金額など考慮か―東京地検:時事ドットコム」によると、過去の事件に比べ額が少ないことなどが立件が見送られた理由らしい。
贈賄側の中国企業は5人の議員に「100万円ずつ渡した」と証言しているそうだから、100万円の賄賂を受け取っても、日本では捜査機関が見逃す、ということになる。
一方で昨年・2019年には、
4年間にわたって余った給食のパンと牛乳を持ち帰ったとして、男性教諭を減給3カ月(10分の1)の懲戒処分にした。教諭は同日付で退職した。などの報道があった。一方で100万円の賄賂を受け取ってもお咎めなし、一方で50円相当の搾取で逮捕、400円で19ヶ月勾留、余った給食を「勿体ない」と持ち帰ると懲戒。バランスがあまりにもおかしい。検察は腐っていると言われても仕方がない。
政府は1/31、63歳の誕生日前日の2/7に退官予定だったという黒川弘務検事長の定年の半年延長を閣議決定した。黒川氏は政権に近い人物とされている。2/10の国会審議の中で、立憲・山尾議員が、定年延長の根拠とした国家公務員法の定年制の規定について、政府が39年前の国会で、検察官には「適用されない」と答弁していたことを指摘し、政府のの対応と過去の答弁との食い違いを根拠に「違法だ」と批判したが、森雅子法相は「規定は適用される」という趣旨の答弁を繰り返した(検察官は定年延長「適用されない」 39年前に政府答弁:朝日新聞デジタル)。
集団的自衛権を解釈を変えるだけで認めたことなど、現政権は法の規定などお構いなしで、恣意的解釈の常習犯である、としか言いようがない。そんな政権の長が「私の手で改憲を成し遂げる」などと言っているのだから、まさしく悪夢である。
黒川氏の異例の定年延長と、検察が現政権に対して及び腰であるように見えることは、もしかしたら実際は関係ないのかもしれない。しかし、そう見えてしまうこと自体が問題がある。安倍氏は以前「李下に冠を正さず」という言葉を口にしたことがあるが、それも結局お得意の「口だけ」だったのだろう(【閉会中審査】〈速報〉衆院で集中審議始まる 安倍晋三首相「李下に冠を正さず」「疑念の目が向けられるのはもっともなことだ」 - 産経ニュース)。
2/8、自民党の稲田幹事長代行は、兵庫県宝塚市で行った講演の中で、憲法に男女の不平等の解消を明記するべきだとして、憲法改正の必要性を訴えた。現憲法でも14条で法の下の平等が規定されており、14条には
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。という条文がある。「性別において差別されない」と既に憲法に書かれている為、男女不平等解消の為に憲法を改正して何かを新たに明記する必要性は著しく低い、というか「新たに明記する必要はない」、すなわち憲法改正は必要ないと言っても過言ではない。
稲田氏は弁護士であり国会議員である。弁護士も国会議員も法を理解していなければ務まらないはずの職務だが、稲田氏は果たして現憲法を読んだことがあるのだろうか。それとも弁護士や国会議員とは、まともに日本語が読めなくても務まる職なのだろうか。
これに関するNHKの報道も酷い。「稲田幹事長代行 “憲法に男女不平等解消明記”議論の考え示す | NHKニュース / インターネットアーカイブ」は、現憲法の14条に全く触れておらず、稲田氏の主張の合理性の低さには一切触れていない。昨今のNHKの政治報道は余りにもこのような傾向が強い。このような傾向が強いどころか、冒頭で紹介した西日本新聞や毎日新聞が指摘している首相のおかしな答弁などを、場合によっては、あたかもまともに答弁しているかのように編集して報じていることもある。
銀行家出身の作家・江上 剛さんが書いた「「70歳まで雇用」を奨励する政府と「40~50代リストラ」を加速させる企業【怒れるガバナンス】」という記事を、時事通信が2/9に掲載した。投稿が長くなってきたので詳しくは触れないが、全く見出し通りの内容だ。
この投稿で挙げた事案を考えれば、
安倍自民政権は「日本をぶっこわ~す」を地で行く行為を幾つもやっている
としか思えない。少し前まで安倍でなければ自民政権でもいいと思ってたが、未だに安倍を担ぎ続けている他の自民政治家はまともか?と言えば、まともなはずがない。小選挙区導入の小沢氏も、「直ちに影響はない」の枝野氏もあまり好きにはなれないが、法だけでなく日本語すら頻繁に恣意的に解釈する、議論ができるようなレベルにない安倍自民政権に比べれば、どちらも確実にマシだ。今はまたギリギリ Break な壊すかもしれない。しかし放置すれば間違いなく Break ではなく、破壊しつくす、完全に破壊する、取り返しのつかない状態にする、の Destroy に変わる。
トップ画像は、Photo by Micah Williams on Unsplash を加工して使用した。