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バイクレース界に見る日本のアジア軽視


 トヨタを筆頭に、4輪の世界でも日本のブランドが強い勢力を誇るが、それでもフォルクスワーゲンなどのドイツ勢、シボレーを筆頭にしたGMグループなど、日本以外のブランドも相応に存在感を見せている。
 しかし2輪では、ハーレーダビッドソンやドゥカティなどの高級車に特化したブランド、スクーターや小型車が得意なKymcoやSYM等台湾勢、バジャジやヒーローなどインド勢と、国外ブランドも全くないわけではないが、ホンダ・ヤマハ・スズキ・カワサキの日本4大バイクブランドが世界を席巻して久しい。特にホンダとヤマハの存在感は絶大で、世界シェアの約半分をこの2社が占めている。

 この約10年の間に徐々に存在感を高めている台湾・中国系やインド系等アジア発のバイクブランドは、日本の4大メーカーの現地生産から始まったブランドが殆どである。それらのブランドが成長著しい理由の1つには、現在世界で最も勢いのあるバイク市場は、インド以東、台湾以西の南-東南アジア地域だからでもある。
 日本の4大ブランドにとっても、南-東南アジア地域は現在最も重視している市場であり、先進国市場を主なターゲットにした大排気量モデルは日本や欧米のモーターショーなどがワールドプレミア(世界初公開)の場に選ばれるが、新興国市場を主なターゲットにした250cc以下、特に150cc以下の小型モデルは、軒並み東南アジア地域で最初に披露されている。小排気量モデルは発表だけでなく生産もインドや東南アジア諸国で行われ、日本でラインナップする小型モデルも、一部を除いて国外生産車を輸入している状況だ。
 また、バイクの世界選手権の1つであるMotoGPの、日本勢ワークスチームの新年度体制発表は、例年オフシーズンのセパンテストに合わせて、マレーシアやインドネシアなどで行われていることからも、東南アジアが重要な市場であることがよく分かる。


 今年・2020年はMotoGPシリーズへ、3つのクラス合わせて8人の日本人ライダーが参戦する。最も参加人数が多いのは250ccのバイクで争われる最軽量・Moto3クラスだ。同クラスには、昨シーズン初優勝を果たした鈴木 竜生選手や鳥羽 海渡選手を筆頭に6名もの日本人ライダーが参戦する。
 3/9に開催されたMotoGPシリーズの2020年シーズン開幕戦・カタールGPでは、新型コロナウイル感染拡大で渡航制限が科された為、最高峰・MotoGPクラスが中止に追い込まれてしまったが、Moto3クラスでは小椋 藍選手が3位表彰台を獲得し、800ccのバイクで争われる中量級・Moto2クラスでは、唯一参戦する日本人ライダーの長島 哲太選手が同クラス初優勝を果たした。
 しかし日本ではモータースポーツの人気が高いとは言えず、世界に冠たる4大バイクメーカーを有し、特にレースの世界では日本ブランドが世界を席巻している状況がもう30年以上も続いているのに、世界選手権で日本人が初優勝を果たしてもテレビのニュースで取り上げられることは殆どない、というか、全くと言っても過言ではないくらい取り上げられない。

 バイクのロードレースの世界選手権は、MotoGPシリーズ、WorldSBKシリーズ、EWCシリーズの3つが開催されている。MotoGPシリーズはレース専用マシンによるスプリントレース、WorldSBKシリーズは市販車ベースのスプリントレース、EWCは市販車ベースの耐久レースによる世界選手権だ。因みに歴史ある鈴鹿8時間耐久レースはEWCシリーズの日本ラウンドでもある。
 MotoGPシリーズ以外にも日本人ライダーが参戦している。WorldSBKシリーズには、最高峰・SBKクラスに高橋 巧選手、中量級・SSPクラスに大久保 光選手、軽量級・SSP300クラスに岡谷 雄太選手と、3名の日本人ライダーが参戦する。EWCの2019-2020シーズンにフル参戦する日本人ライダーはいないが、日本とフランスの両方に拠点を置く合同チーム・F.C.C TSR Hondaは優勝を争う実力のあるチームだし、2019年12月に同シリーズ東南アジア発開催となったセパン耐久8時間には、鈴鹿8耐への参加資格を得る為のトライアウトに位置付けられたこともあって、日本から多くのチームが参加した。
 それらの世界選手権への参戦を目指すライダーたちの登竜門的なシリーズが、主にモータースポーツの盛んなヨーロッパで、そしてバイク市場として、且つレース文化の面でも成長著しいアジア地域でも行われている。


 且つては全日本選手権からMotoGPの前身であるWGPへ多くのライダーが直接ステップアップを果たしたが、現在はレギュレーションの差が激しく、全日本選手権からMotoGPへ直接ステップアップする選手はゼロに等しい。MotoGPシリーズを目指すなら、そのマイナーリーグ的な存在のCEVレプソルシリーズへ参戦・好成績を収めステップアップするのが定石で、まずはそこを目指して、MotoGPシリーズやWorldSBKシリーズを目指す若手の育成を目的としたアジアタレントカップや、その欧州版であり、各地で行われているタレントカップよりも1ランク上に位置付けられているレッドブルルーキーズカップで好成績を収める必要がある。
 MotoGPシリーズではスペイン勢の活躍が目立ち、元はスペイン選手権だったCEVが現在は実質的な欧州選手権に位置付けられ、その登竜門になっている。SBK・スーパーバイクでは比較的欧州各国の勢力が均衡しているものの、イギリス勢の活躍が比較的多く、SBKへの最も近道はブリティッシュスーパーバイク選手権で好成績を収めることではないだろうか。全日本選手権からWorldSBKシリーズへのステップアップもないわけではないが、欧米に比べるとステップアップする選手は極端に少ない。
 アジアロードレース選手権は2018年までSBK・スーパーバイク(1000cc)クラスがなく、中量級のSSPクラスが同選手権の最高峰だったが、2019年にSBKクラスを新設した。2020年シーズンは岩戸 亮介、伊藤 勇樹の2選手が同クラスに参戦、中量級・SSPクラスにも仲村 優佑選手、AP250という250ccで争うクラスには井吉 亜衣稀選手がエントリーする。

 2020年のアジアタレントカップにも、若松 怜・彌栄(みえ) 群・濱田 寛太・五十嵐 翔希・古里 太陽の、5人の日本人若手ライダーが参戦する。同シリーズに参戦するライダーは全18名で、日本勢が最多勢力だ。アジアタレントカップの2020シーズン開幕戦は、MotoGPの開幕戦・カタールGPと併催された。同シリーズは1ラウンド2レース制で、開幕戦では2レースとも古里選手と濱田選手がレースを主導した。特に古里選手は、駆け引きで2レースとも優勝は逃したものの、終始レースをリードする活躍を見せた。
 また、開幕は4月の予定だが、CEVレプソルシリーズのMoto3クラスには、昨年までMotoGPシリーズのMoto3クラスにエントリーしていたが振るわなかった真崎 一輝選手が、MotoGPシリーズへの返り咲きを目指して参戦、レッドブルルーキーズカップには、2019年のアジアタレントカップでシリーズ優勝を果たした西村 梢選手が参戦する予定である。


 こんなにも多くの日本人ライダー、特に10代の若手が多く国外で活躍しているのに、日本国内のモータースポーツの人気の低さの所為もあるが、日本国内でテレビ放送があるのは世界選手権のMotoGPシリーズ/WorldSBKシリーズ/EWCシリーズだけである。日本語モータースポーツメディアで取り上げられるのも、主にそれらのシリーズと全日本選手権ばかりだ。CEVやレッドブルルーキーズカップは開催地が日本から離れているということもあるが、アジアロードレース選手権やアジアタレントカップは日本国内でも開催があるし、若い日本の選手が複数エントリーし、同時に好成績も納めているにも関わらず、殆ど注目されていない。

 前述の通り、その背景には日本国内のモータースポーツの人気の低さの所為もあるのだろうが、個人的には日本国内にアジア軽視、どこか見下す風潮が今もまだある所為で、アジア選手権等への注目が低いような気がしてならない。
 アジアタレントカップで日本勢が最大勢力で、日本勢の活躍が目覚ましいことからも分かるように、確かにアジアのモータースポーツ界では、2輪に限らず4輪でもまだまだ日本がそのトップの座にある。しかし、特に2輪の世界では東南アジア(タイ・マレーシア・インドネシア)勢の成長度合いには目を見張るものがある。実績はまだまだでも勢いは確実に日本よりも上だ。つまり逆に言えば、日本勢のアジアでの天下が安泰なのは今後数年だけかもしれない。
 2019年10/28の投稿で、日本の自動車ブランドすらも、日本市場よりも東南アジア市場重視へシフトする傾向にあることに触れたが、バイク界では4輪以上にその傾向が顕著だ。自動車にしろバイクにしろ、どちらも日本の基幹産業であることに違いないが、その状況が未来永劫続くとは限らない。勿論、日本のブランドでも既に多くの外国人技術者が働いており、日本市場が今以上に勢いを失っても、必ずしも日本のブランドが比例して没落するとは言えない。しかし、1980-2000年代まで世界を席巻していた日本の家電ブランドが、2010年代以降韓国・中国勢にシェア奪われ急激に縮小したように、また1960年代まで世界的に存在感のあった英国自動車ブランドが、1970年代以降徐々に勢いを失い、今では一部の高級車ブランドが国外資本の傘下で残っている状況になったのと同様の道を、日本の自動車やバイクブラドが歩まないとは言い切れない。


 いまこそ日本はアジア軽視から脱却し、そして若者の自動車やバイクへの興味を喚起しなければ、10-20年後に最悪な結末が訪れてしまいかねない、と危惧する。

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