この画像は、スペインのカタルーニャ地方の伝統的なパフォーマンス・Castellだ。カステイとは英語の Castle/キャッスルに当たる、つまり城を意味するカタルーニャ語だが、この伝統的なパフォーマンスを指す場合、日本では「人間の塔」と呼んでいる(人間の塔 - Wikipedia)。日本の学校で行われてきた、というか今も行われている組体操にも似たカステイだが、その規模は組体操の比ではなく高さは10mを超える。カステイに限らずサーカスなどこの種のパフォーマンスは、経験や技術だけでなく互いの信頼なくして成立させることはできない。
観覧は1メートル離れ、1人30秒まで…聖火を一般公開
テレビ朝日の記事によると、今日から福島県のJヴィレッジで聖火の一般公開を始めたそうだ。記事には、
大会組織委員会は聖火を多くの人に楽しんでもらおうと、今月2日から施設の屋内で聖火を一般公開しましたとある。東京を始めとした都市部では、外出の自粛や、人が集まることを避けるようにと呼びかけている中で、組織委は一体何をやっているのだろうか。「新型コロナウイルスの感染防止のため、観覧は聖火から1メートル程度の距離を空けて1人30秒までとしています」と、あたかも配慮した上で公開しました感をアピールしているが、そもそも感染防止を重視するなら、人が集まるようなことは出来る限り避けるべきで、聖火を公開しないと明日にも食うに困る人が出るというわけでもないだろうから、一般公開を見送るのが筋だし、なぜ国や自治体も組織委に自粛を要請しないのか理解に苦しむ。
確かに、福島県内の感染者数は昨日・4/1時点で一桁で、毎日のように感染者が増えている都市部に比べてかなり少ない。しかし、3月初旬までまるで対岸の火事かのような雰囲気だった欧米各国が、それから1ヶ月もしない内に感染拡大の一丁目一番地になっていることに鑑みれば、県内の感染者がまだ少ないことを理由にこのようなことをしているのなら、緊張感に欠けていると言わざるを得ない。聖火の展示などは間違いなく不要不急である。これで国や自治体を信頼できるか?自分には全く信頼することが出来ない。
そして、そのような案件を、生じている矛盾や懸念を指摘もせずに報じるメディアにも、同様にも不信感を覚える。矛盾や懸念を指摘せずに伝えるのは報道ではなく、組織委や国、自治体の代弁に過ぎない。それは最早単なる広報機関で、場合によってはそれらによるプロパガンダを担う組織にもなりかねない。
前BuzzFeed Japan編集長の古田 大輔さんがこんなツイートをしている。
コロナ対策として、外出や移動規制の効果を疑う人の割合が日本は62%と世界14カ国で最も高い。Ipsos調査。このままだと規制に関して強制力がない日本では、非常事態宣言しても効果が薄くなる。政府や専門家、メディアからのより明確なメッセージが必要。 pic.twitter.com/CbU9aSxCYj— 古田大輔 (@masurakusuo) April 2, 2020
古田さんは「政府や専門家、メディアからのより明確なメッセージが必要」と主張しているが、それ以前に、政府や専門家、メディアが概ね信頼されていなければ、いくらメッセージを発したところで、効果を疑う人の割合は増えないだろう。発する情報の内容が正しかったとしても、信頼されない人や組織がいくらメッセージを発しても、その発信が信頼されないのは当然だ。
何よりもまず大切なのは政府やメディア、そして専門家が信頼感を取り戻すことだ。前段の話もそうだし、この約2ヶ月間の間に書いてきた様々なことに関してもそうで、というか政府に関しては、この新型コロナウイルスの感染拡大以前から改ざん捏造隠蔽塗れだし、直前に注目が集まっていた桜を見る会の問題、カジノ汚職、法務大臣夫妻の汚職等だけでも、信頼性を下げることばかりが続いてきた。一部にはそうではないメディアもあったが、テレビを筆頭にメディアも概ね他人事のような姿勢を続けてきた。それでは有事に信頼される筈がない。政府やメディアが信頼を失うというのは本当に深刻な状況だ。
専門家についても同様で、勿論一部にはまともなことを言っていると思える専門家もいなくはないが、突如政府、というか首相が「全世帯に布製マスク2枚配布」という(マスク2枚配布「情けない」 国民から与党から疑問次々 [新型肺炎・コロナウイルス]:朝日新聞デジタル)、明後日の方向どころか再来年の方向くらい素っ頓狂なことを言いだしても、それが如何に素っ頓狂であるかを指摘も批判もしない政府専門家会議も、それ以外の専門家も、信頼されなくて当然だろう。
もう古田さんは直接的に関係してはいないだろうが、彼が以前編集長を務めたBuzzFeed Japanは今日、こんな記事を掲載している。
国内の新型コロナ感染者「3分の1が外国籍」は誤り。グラフが拡散、厚労省の見解は
記事には
感染症に乗じた差別は許されないとあり、それには大いに同意する。正確性の疑われる情報を元に民族差別・国籍差別をするなど言語道断であり、そんなことが許される筈がない。しかしこの記事に対する異論もある。
まず最初に確認しておきたいのは、国内の新型コロナ感染者「3分の1が外国籍」という話は正しい、と言いたいわけではない、ということだ。しかし、では国内の新型コロナ感染者「3分の1が外国籍」という話が誤りだと断定できるか、と言われたら、この記事が示している論理で断定することは出来ないと自分は考えている。何故ならこの記事は、厚労省の提示するデータは正確である、という前提に立ってファクトチェックを行っているからだ。果たして厚労省の示したデータについて、記者は裏取りをしたのだろうか。自分には、記者は自治体や厚労省が示したデータの裏取りせずに、信頼に足るものとしてファクトチェックの材料にしているようにしか見えない。
BuzzFeed Japanは3/31にも、
「五輪延期決定で検査を抑制する必要がなくなった」は誤り。検査人数が変動した事実はなし
というファクトチェック記事を掲載している。これも前段の記事同様に、都や厚労省が示すデータは概ね正確、信頼に足るという前提に立った視点で書かれたファクトチェック記事であり、それらが示したデータについて充分に裏付けを確認しているとは思えない。
しかも、都や厚労省が示すデータに疑義を示すことは、「新興感染症に関する陰謀論やイデオロギー論争」とまで断定している。政府が情報を改ざんしたり、隠蔽したり、なんらかの操作したのではないか?という疑念を示すことを、「陰謀論」と一括りに呼び、トンデモ論かのように断定することこそ危険ではないだろうか?厚労省だけ、この数年だけに限定しても、直近で一体どれだけデータの捏造や隠蔽があっただろうか。思い出せるだけでも、
- 今年2月のクルーズ船への杜撰な対応
- 2019年夏に発覚したシベリア抑留者遺骨問題の放置
- 2019年4月に発覚した200億をこえる介護保険料の算出ミス
- 2018年末に発覚した勤労統計不正
- 2018年夏に発覚した障害者雇用水増し
- 2018年初に発覚した裁量労働制に関するデータの捏造や隠蔽
つまり、厚労省や自治体が示すデータは概ね正確、信頼に足るという前提で行われるファクトチェックは、ファクトチェックを自称すべきではない。厚労省等のデータだけを元に情報の正誤を判断するのは、現状では適当ではない。そう標榜するメディアは信頼性を疑われても仕方ない。
兎に角今一番大事なことは、正確性ではなく信頼性である。勿論正確性だって重要だが、いくら正確なことを言おうが、それを発信する人や組織に信頼性が欠けていれば、いくら発信しようが信頼して貰えないからだ。 厳密に言えば、今最も重要なのではなく、日頃から信頼性が最も重要なのだが、緊急時には平時にも増して重要性が高まる、ということである。
トップ画像は、Photo by Angela Compagnone on Unsplash を加工して使用した。