「明治時代に内閣の制度ができて以来、初めて閣議をテレビ会議方式で開催」などと昼のニュースが報じている。勿論、新型コロナウイルス感染リスクを減らす為の対応として、1か所に閣僚を集めずにビデオチャット形式で閣議が行われた、という話である。これを見て「安倍内閣頑張ってるな!」と思う人はチョロい。騙すのは簡単だ。何故なら、政府や自治体が「感染を抑制する為に人の密集を避けろ」と言い始めたのはもう1ヶ月半も前のことだからだ。
史上初の「テレビ閣議」 新型コロナ感染予防のため
少なくとも東京オリンピックの延期が決まった3月の中旬には、政府も東京都等の自治体も、「外出の自粛を、人の密集を避けて、企業はテレワークを積極的に」と言い始めていた。だが、閣議がビデオチャット形式で行われるのは、それから1ヶ月半も経った今日が初めてだそうだ。現政権の対応は亀よりも遅いとしか言いようがない。こんな体たらくで、よくも「休業要請に応じないパチンコ店に対する罰則を」なんて大臣が言えたものだ。自分のことを棚に上げる、とはまさにこのことである。
亀よりも遅い対応はこれだけではない。昨日、新型コロナウイルス対策として、国民1人あたり10万円の現金給付などを盛り込んだ、今年度の補正予算が野党も含む賛成多数で可決・成立した。
今年度補正予算が成立 国民1人あたり10万円給付へ
これも前段の話同様に、「10万円の支給を決めた安倍内閣は頑張っている」と受け止めるのはお人好し過ぎる。お人好し過ぎて搾取される人の発想だ。
先月、野党側は新型コロナウイルス感染拡大への対策費を2020年度予算に計上する為の予算案の組み換え動議を国会へ提出したが、自公ら与党はこれを否決し、対策費を全く計上しない予算案を可決・成立させた。
予算案、午後に衆院通過:時事ドットコム
つまり、自公与党は新型コロナウイルス感染拡大への対策費の計上を1ヶ月も遅らせたということである。対策費の計上が遅れたら、当然対応もそれだけ後ろにスライドしてしまう。3月から既に経営が苦しい、収入が厳しいという声は上がっていたのに、なぜこんなことをしたのか。この1ヶ月の間にどれだけの人が休業を余儀なくされたことで収入を断たれ、廃業に追い込まれたか。
コロナ倒産急増、2カ月で50倍に 苦しい宿泊・飲食業 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
倒産が増えれば、その影響を受けた連鎖倒産も増える。3月に問題を先送りしたツケはかなり大きい。与党政治家らは間違いなく庶民感覚が欠如している。緊張感・緊迫感がない。右往左往する庶民を高みの見物しているかのようにすら思える。
この数日、テレビは「休業要請に応じないパチンコ店」の話題を欠かさない。今日の昼のニュースでもまだこんな風に伝えている。
営業続けるパチンコ店に初の「休業指示」へ 兵庫県
昨日はabemaTVが、やれ「まだパチンコ店が営業している」とか、やれ「○○県も公表に踏み切る」とか、そんなことを【速報】などとして、アプリを介してタブレット端末へ通知してくるものだから、イライラが募ってアンインストールした。
これまでにライブハウスやクラブ、劇場、そしてキャバクラや性風俗店などの夜職、そして今はパチンコ店が槍玉に上げられている。しかし4/29の投稿でも書いたように、満員電車については当初「ライブハウスやカラオケボックスほど危険じゃない」と言う専門家もいた。政府専門家会議関係者から「電車も感染を広げる恐れがある」という話が出てきたのは4月の中旬になってからだ。
今日の昼のニュースではこうも伝えている。
GWの平日は出勤で人出大幅増か 削減6割程度
つまり今も、電車による通勤を強いている企業、電車で通勤している者が決して少なくない。当然その中には医療関係等、必要至急の仕事をしている人達もいるだろう。だが、そうでない者だって確実にいるはずだ。
そもそも必要至急の仕事と不要不急の仕事など明確な線引きができるだろうか。誰もが食うに困ることのないように働いているのだから、その視点でみれば、どの仕事も当事者にとっては必要至急の仕事だ。勿論、パチンコ店や性風俗店だってそれは同様で、同調圧力によって休業を強いるなんてのはかなり危険な発想だ。休業を強いるなら、それによって生じる損失の補償がされて当然なのに、この国ではなぜか「同調しないのはけしからん」という意識の方が優勢する。
また、補正予算案を可決した4/29の衆院本会議の様子も見て欲しい。
“10万円支給”補正予算案 全会一致で衆議院通過
国会は相変わらず議員が距離をおかずに密集して座る通常営業を続けている。これと営業を続けるパチンコ店で、客が距離をおかずにパチンコ台の前に座るのと何が違うのか。
最近のパチンコ店は、新型コロナウイルス感染拡大以前から席の間にアクリルの衝立を設けているし、客は台に向かって座るので、国会のように後ろの議員の出す飛沫が前の議員にかかるような恐れが高いとも思えない。
だが、パチンコ店を槍玉に上げている人達は国会を槍玉には上げない。営業を続けるパチンコ店には罰則も辞さないという大臣も、国会の状況には触れない。これが一体どういうことだか分かるだろうか。
つまり、パチンコ店を槍玉に上げている人達、それに迎合する政治家、そして批判もなく情報をただ垂れ流すメディアも、責めやすい、責めても反発されにくいものを探しスケープゴートにして、つまり何かに責任転嫁することによって安心感を得たいだけの小心者たちだ。これまでライブハウスやクラブ、キャバクラや性風俗などを槍玉に上げた人達も同様である。やってることの質は、ユダヤ人をスケープゴートにして軽蔑し、最終的に虐殺までしたナチと同じだ。また、日本では関東大震災の際に、朝鮮半島出身者やそれと間違えられた人に暴力を加えたり殺したりしたことも忘れている。
今日、TBSは昼のニュースで、
【現場から、新型コロナ危機】収入激減で待ったなし“家賃支援”|TBS NEWS
収入が激減する経営者にとって、大きな負担となっているのが家賃の支払いです。支援策が“待ったなし”となるなか、ここでも政治の対応の遅さが問題になっていますと伝えていた。
恐らくこれを見て「他の局はあまり現場の厳しい現地が伝えていない。取り上げてくれてありがとう」と思う人もいるだろう。勿論その感覚を全否定はしない。「政治の対応の遅さ」に直接的に触れたことには間違いなく意義がある。
だが、自分はそうは思えないし、既に倒産した、廃業・閉店を決めた経営者、その店などで働いていた人達もこう思う筈だ。「なんで1か月前にその指摘を始めなかった?」
今更おせーよ
この国は政治も亀以下の遅さだし、メディアも亀以下の遅さだ。スピードだけでなく感度も恐ろしく鈍感である。絶望感しかない。トップ画像は、Photo by Cedric Fox on Unsplash を加工して使用した。