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問題解決には、場当たり的対応でなく抜本的な対策が必要


 団地や学校の上層階ベランダや屋上、鉄道や高速道路等にかかる陸橋などに、ネットやフェンスが設置されていることがある。そのような場所全てにネットやフェンスが設置されているわけではなく、ある場所もあれば、ない場合もある。設置された理由は様々だろうが、以前飛び降り自殺があった、場合によっては複数回発生したなどによって、自殺防止の為のネットやフェンスが設置されることもあるようだ。

 2016年の記事だが、東洋経済オンラインがこんな記事を掲載している。

鉄道自殺防ぐ「ホームドア設置」は効果絶大だ | 通勤電車 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準


 見出しの通り、駅のホームに柵/ホームドアを設置することには飛び込み自殺抑止の効果がある、とする内容である。ホームドアが設置された駅での人身事故/自殺発生件数を、設置前/後で比較しており、データが事実であれば抑止に効果がある、ということは間違いではないだろう。だが果たして、自殺の問題がそれで解決するのか?と言えば、疑問である。
 記事で比較されているのは、駅によってばらつきはあるものの、概ね00年代後半・2005-10年頃と、10年代の前半・2010-13年頃の数字だ。では、飛び込み自殺に限らず自殺の総数は果たして減ったのか。「日本の自殺 - Wikipedia」によると、日本の自殺件数は2011年を境に減少傾向にあるが、記事で紹介されている「飛び込み自殺件数が数十件から0件に」というほどの割合では減っておらず、総自殺件数の減少は1-2割程度の減少に留まっている。また、年齢階層別の人口10万人中の自殺者数を見ると、こちらも緩やかな減少傾向にはあるものの、更に、劇的な変化はない、ことが分かる。
 こんな記事もある。

10代前半の死因は自殺が1位 17年調査、戦後初めて :日本経済新聞


 2017年に自殺した10代前半の子は100人で、この年代の死因の22.9%に達し、自殺が10代前半の死因のトップだったそうだ。更に「若者に自殺を考えさせる多くの原因は「いじめ」、「不登校」経験も強く関連。そのとき相談する相手は誰? | 日本財団」によると、
2018年には1年間で2万598人、1日にすると平均56人が自ら命を絶っている。これは、先進7カ国の中で突出して高く、若者の死因の1位が自殺であるのは日本のみ。
なのだそうだ。この10年日本の自殺件数が減少傾向なのは確かなようだが、それでもまだ世界的に見て自殺の多さが深刻であることに変わりはない。


 そのような視点で考えると、「ホームドアの設置で飛び込み自殺が数十件から0件に!」なんてのは、勿論全く無意味とは言わないが、一喜一憂するような話でもないように思う。自殺の問題には物理的な防止策も必要かもしれない。だがそれは結局緊急避難的な対応でしかなく、問題を根本的に解決できるような対策ではない。自殺の多さの問題を解決するには、自殺願望を如何に減らすか、という精神的な面への対応が重要ではないだろうか。
 東洋経済の記事には
「乗り越える人もいるのだから、自殺対策にはあまり効果がないのでは?」という意見が投稿されるが、ホームドアは人身事故だけでなく、自殺に対しても相当な予防(抑止)効果を発揮していることがわかる。
とあり、乗り越えて自殺するケースがないわけではないが、実際に件数は減っているとしている。だがそれは、飛び込み自殺から別の自殺方法に移行しただけかもしれない。当該記事にはそのような懸念への言及はない。
 記事の冒頭で、以前に自殺があったことを理由に、上層階ベランダや屋上などに飛び降り自殺防止の為のネットやフェンスが設置されていることがある、というケースに言及した。それも結局は、その場所での飛び込み自殺は防止できるかもしれないが、自殺志願者は、自殺願望が高まればネットやフェンスのない別の場所を探すか、別の自殺方法を探すだけではないだろうか。物理的な自殺防止策は、全く無意味とは言えないものの、抜本的な解決策とも言えない。


 この数日、何度も休業自粛要請という名目で行われる、脅迫や強制を政府や自治体がやっている、ということについて書いてきた。更にそれはエスカレートしており、こんな事案も生じている。

「営業するのおかしい」神戸のパチンコ店でトラブル - 社会 : 日刊スポーツ

東京新聞:<新型コロナ>忍び寄る「自粛警察」 飲食店に匿名嫌がらせ:社会(TOKYO Web)


どちらも、自粛要請に応じない店に対して憎悪がぶつけられた事案だ。政府や自治体が実質的な脅迫や圧力をかける行為に及ぶことが、間違いなく一部市民のこのような行動を煽っている。もし、あいちトリエンナーレのように「自粛しないと放火をする」というような脅迫がなされたら、もし京都アニメーションの件のように実際に暴力行為が起きたら、これを煽った大臣や首長らは一体どうて責任をとるつもりだろうか。昨今日本の政治家お得意の「誤解を招いたが、自粛に従わないのは悪だとは言っていない」などという言い草で責任を回避するつもりだろうか。
 そもそもこのような件は、政府や自治体が露骨な脅迫行為に及ぶ以前から起きている。だが自分の知る限り、政府は当然のこと、大阪や東京等大都市の首長がそのような行為に苦言を呈している、という話、報道は聞いた記憶がない。



 イソップ童話の1つ「太陽と北風」はまさにそんな話だ(北風と太陽 - Wikipedia)。北風は物理的に旅人の上着を吹き飛ばそうとするが失敗し、太陽は旅人に自ら上着を脱ぐように仕向けて成功する。
 そもそも政府や自治体が物理的な暴力を煽っていることが大きな問題だが、市民の一人一人も、それに感化されることなく、脅迫や圧力、暴力行為によって自粛に追い込もうとするのではなく、自粛するに足る環境を整えない政府や自治体等の行政を責めるべきではないのか。

「弱い者が夕暮れさらに弱い者を叩く」では、まさに補償を最小限にしたい政府や自治体、権力の思う壺である。


 トップ画像は、Photo by Matteo Catanese on Unsplash を使用した。

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