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ブランド好きで肩書や権威に弱い日本人

 Value for Money という経済用語がある。読んで字のごとく「金額に見合う価値」という意味だ。これはアメリカ人が買い物をする際に重視する要素である。支払った金額よりも値打ちがあると思えるよい買い物、お買い得な買い物、のような意味合いでも使われ、日本語にすれば「コスパがいい」が似ている。アメリカ人はこれにとてもシビアだ。


 1989年にレクサスブランドの創設と共にデビューしたLS400(日本名セルシオ)が、北米市場で、メルセデスベンツ Sクラスの販売を大きく上回る大成功を収めたのは有名な話である。レクサスは、フォードのリンカーンやGMのキャデラックに倣って、トヨタが高級車の分野を開拓する為に興した新ブランドで、当時既にトヨタとして性能の良さは認知されていたが、新参のレクサスにはまだブランド力はなかった。だが、価格に対する性能/品質の高さが評価され北米市場で大成功を収めた(メルセデス・ベンツSクラスを動揺させた初代レクサスLS(トヨタ・セルシオ)の衝撃的成功と現行LSの不振をデータから検証する|セダン|MotorFan[モーターファン])。
 LS400は日本でもセルシオとして大成功したが、当時の日本はバブル最盛期であり、また日本ではレクサスブランドではなくトヨタブランドで展開した為、北米での成功と日本での成功の意味はやや異なる。日本人は「全米で大人気」のような売り文句に弱い。セルシオはレクサス設立直後、LS400とほぼ同時に日本展開を始めた為、そのような売り方はされなかったが、1991年にES300の日本版として導入されたウインダムは、

このようなCMを展開したことからも分かるように、アメリカの富裕層にレクサスが好まれている/選ばれている、というイメージを前面に押し出した売り方をしていた。

 つまりここで言いたいのは、日本人にはブランド好きで肩書や権威に弱い傾向にある、ということだ。

  • 売り上げNo.1 
  • ○○年創業の老舗
  • 有名人の誰々も絶賛

こんな売り文句が、特にテレビや新聞広告などの通販に溢れている。ブランド好きで肩書や権威に弱い傾向は、日本人全般にあるのだろうが、年齢が高くなるほどその傾向が強いように思う。テレビや新聞自体もある種の権威であり、そこに広告が出ているから信用できる、というような判断がされやすい。しかし日本人は、老若男女問わずブランド好きで、外国人と話すと、なんでシャネルやプラダのような主におばさんおじさん向けのブランドを、10代の若者まであんなに欲しがるのか、という話がしばしば聞こえる。

 権威や肩書に弱いという日本人の性質は政治分野からも分かる。9/13に秋田魁新報は、

秋田県湯沢市は、同市出身の菅義偉官房長官が16日に新首相に選ばれた場合、市役所本庁舎にお祝いの垂れ幕を掲げることを決めた

という記事を掲載した。 

慎重に検討し…「祝 首相」垂れ幕掲示へ、菅氏出身の湯沢市|秋田魁新報電子版

同郷から何かしらの功労者が出て、自治体がそれを称えるというのは、そんなにおかしいこととは言えない。しかし、首相になることは果たして自治体が祝うべきような功労だろうか。決してそうとは言えない。首相になって何を為したか/成したかが重要であり、首相になること自体は、支持者らが独自に祝うというなら分かるが、支持者も非支持者もいるだろうに、自治体を上げて祝うようなことだろうか。つまり、秋田県湯沢市は、総理大臣という肩書を出身者が得たということを、自治体を上げて祝うと言っているのだ。それは、肩書/ブランド/権威性が中身よりも重視されている、ということの証左だろう。

 先月も同じ様なことが山口県であった。山口県庁が県庁の総意だとして、「祝 安倍晋三内閣総理大臣 総理連続在職日数歴代最長達成」なる横断幕を掲出した。

安倍首相祝う横断幕、職員「県庁の総意」 批判する声も:朝日新聞デジタル

「県庁の垂れ幕どうなる?」安倍首相の辞任意向報道で、山口県庁に聞いてみた | ハフポスト

 在任期間の長さには一切触れる必要はない、話題にしてもいけない、などというつもりは全くない。しかしそれは、果たして自治体が予算を割いてまで祝うようなことか。どんなに在任期間が長くとも、中身が伴っていなければ全く意味がない。安倍自民党政権の7年半で、一体誇れるようなことがどこにあったか。経済政策は7年立っても成果が出ず、女性活躍や多様性の尊重は殆ど進まず、拉致問題や北方領土問題の進展もない。ただただ長さだけしか取り柄がないとしか言えない。そんなことを県庁が、県庁の総意などと言って祝っているのは異様だ。そもそも、県庁は県民の収めた税金で運営されている。つまり県庁の総意なんてのは詭弁も詭弁、本来は県民の総意がなくてはいけない
 つまり県民よりも政府の方を向いているので、端的に言って、山口県庁は権威主義に陥っているとしか言いえない。

 肩書や権威やブランドを、内実よりも重視するというのは、言い換えれば、自分の頭で判断する能力に欠けているとも言えそうだ。若しくは自分の頭で考えることを放棄しているとも言えるかもしれない。

 トップ画像は、File:Lexus LS 400 UCF10 II Silver Taupe.jpg - Wikimedia Commons を加工して使用した。

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