コミュニケーションを成立させる為には、共通言語の理解が不可欠だ。厳密に言えば、共通言語の理解がなくとも初歩的なコミュニケーションは成立する。身振りや手ぶり、絵を使って意思疎通を図ることは可能である。しかし身振りや手ぶり、絵なども広義の共通言語に相当すると考えれば、やはり共通言語の理解は不可欠だ。身振りや手ぶりが通じない相手との意思疎通は相当厄介である。
共通の言語とは、共通の認識と言い換えることが出来るかもしれない。身振りや手ぶりだって、その身振りや手ぶりが何を意味するのか、という共通の認識がなければ意思疎通は出来ない。両手を上げるポーズが降参の意を表している、という共通の認識があればこそ、厳密な意味での言語の理解がなくても、そのような相手の意思/意図を感じとることが出来る。両手を上げるポーズを降参の意だと思わない相手には、その意図が通じずに、そのような身振りを行っても攻撃される恐れが高い。
つまり、意思の疎通、コミュニケーションの成立の為には、共通の認識、大前提とされるようなことを相手が理解していることが不可欠である。1+1=2ということを認識/理解していない者には、それ以上の算数/数学の話をしてもチンプンカンプンだろう。つまり意思の疎通は図れないし、コミュニケーションも基本的には成立しない。まずは1+1=2を理解してもらうところから始めなくてはならない。
コメンテーターやTVタレント、DJなどとしても活動しているモーリー ロバートソンさんが、昨日こんなツイートをした。
いろいろなタイミングで自分が日本の総理大臣、あるいは何らかのリーダーになることを待望する声が聞こえます。その希望的観測をする前にまず、以下のことをご考慮ください。
— モーリー・ロバートソン (@gjmorley) September 18, 2020
1. 自分は大麻解禁論者です。日本の大麻取締法を廃止し、医療目的と個人使用目的での所持、譲渡などを完全に合法化したい。
このツイートだけを見れば、大麻の是非についてのツイートにも見えるだろうが、スレッド化した2.以降も連なっており、その他にも幾つかの社会問題に関するスタンスを表明している。当初は12個のツイートがスレッド化されていたが、その後リプライを勘案したのか、何度かに分けて補足ツイ―トが更に足されている。
自分はモーリーさんをフォローしているので、基本的に彼のツイートがスレッドに流れてくる。普段から彼は、自分のツイートへのリプライに対して、是ばかりに触れるでも否ばかり触れるでもなく時折反応していたが、昨日、というかこの投稿を書き始める直前も、様子が違った。明らかにいつもとは異なり、かなり多くのリプライへ反応をしていた。その数があまりにも多く、タイムラインがモーリーさんのツイ―トで埋め尽くされる為、一時的にミュートしようか?という考えが頭をよぎった程だ。
だがそれは思いとどまり、一応目を通すことにした。モーリーさんはいつものように、是ばかり、若しくは否ばかりに触れるでもなく、その両方に反応を示していた。しかしいつもより遥かに多い彼の反応が、彼の下にどんなリプライが寄せられるのか、を完全ではないながらも、いつも以上に可視化していた。
自分も、モーリーさんのツイ―トに対して全面的には賛同出来ない。賛同できる部分もあれば出来ない部分もあった。つまり、彼の主張には反論した部分もあった。それは全く不自然なことではないだろう。同じ人間ではないのだから考え方の違いがあるのは当然のことである。
しかし、モーリーさんが反応していた否のリプライには、批判とか反論とか言えるレベルに達していない、誹謗中傷も目立った。中でも多かったのは、モーリーさんが米国籍であることや、見た目が欧米人風であることを理由にした「日本が気に入らないなら出ていけ」という旨のリプライと、彼が
5. 続けて日本の国際化を望みます。次世代までに数千万人(かな?)ぐらいの外国人に日本国籍を与え、移民大国になることがいいと思っています。勿論さまざまなフィルターをかけないとそれこそ中国政府に新たな「武器」を与えることになるので慎重さは必要。ただ「単一民族」モデルはもう継続不可能。
— モーリー・ロバートソン (@gjmorley) September 18, 2020
と主張していることを前提にした、「日本には日本人以外いらない」という旨の反応だ。
これらは厳密に言えば少々毛色の異なるものだが、どちらも排外的、国籍と人種/民族性を混同した攻撃的な反応という共通点がある。そもそも、近代以降の日本は間違いなく単一民族国家ではない。琉球は明らかに日本本土とは異なる民族性を持つ地域だし、アイヌも本土とは異なる文化圏の民族だ。また、戦前の日本は朝鮮や台湾、そして太平洋の幾つかの島々を領有しており、少なからずそれらの地域にルーツを持つ人達が当時も今も日本には存在している。近代以前のどの時代も朝鮮とは交流があった。つまり、日本で大和民族が多数派であることは間違いないが、決して単一民族国家ではない。日本が単一民族国家なら、中国もロシアも単一民族国家と言えるだろう。
つまり「日本が気に入らないなら出ていけ」「日本には日本人以外いらない」と主張する人の多くは、大前提の時点で認識が不正確である。そんな人と意思の疎通は図れないし、コミュニケーションも基本的には成立しない。1+1=2レベルのことから始めれば意思疎通も図れるかもしれないが、攻撃的な人とそのレベルからコミュニケーションを図ろうという仏のような人がどれ程いるだろうか。
それ以前に、民族性や人種などを理由に、他の合理的な理由もなく「日本から出ていけ、国へ帰れ」などと主張することは、日本の法務省ですらヘイトスピーチに該当する不当な行為であるとしている。つまり、そのような主張は人権侵害に当たる行為である。
法務省:ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動
日本に限らず近代民主国では当然のことだが、日本でも憲法13条で基本的人権の尊重を定めており、権力による人権侵害だけではなく、何人であっても他者の権利を侵害することは当然認められていない。憲法14条に全て人の法の下の平等が規定されている。
そのような、日本のみならず近代民主国なら大前提である筈の、そして小学校で習うレベルのルールすら理解していない人達との間に、コミュニケーションは果たして成立するだろうか。言い換えれば彼らは、人のものを盗んではいけないとか、人に暴力を振るってはいけないというかなり原始的なレベルのルールを理解していないとも言えるだろう。そんな人達と意思の疎通が図れるわけがない。子どもを諭すレベルの対応をすれば、最終的には意思疎通も可能かもしれないが、そんなことをしてまで意思疎通を図ろうとする仏のような人が一体どれだけいるだろうか。甘ったれるのもいい加減にした方がいい。
つまりTwitterには、1+1が2という程度の認識すら共有できない人が決して少なくない。そんな人達とそもそも話が通じる筈もないし、1+1が何故2なのか、なんてことから始める気にもなれない。しかしその種の人は、決してTwitterやSNS、Web上にだけ存在しているわけじゃない。彼らは間違いなく実社会に溶け込んでいる。顔と声が容易に認識される実社会で、この投稿で指摘した種の主張を出来る人は、Web上に比べれば少ないだろうが、口に出さないだけで、1+1=2レベルの認識がない人が相応に存在している、ということでもある。
昨日の投稿でも、散々支離滅裂なことを言ってきた前政権の官房長官が、前政権を基本的に引き継ぐと宣言して新首相になったのに、その新政権の支持率が60%を超えたことに触れたが、その60%の人の約半分は積極的に、そしてもう半分は消極的、若しくは無頓着に、人権侵害を容認、もしくは肯定する種の人達だろう。