「このクルマは赤い」と言えば、多くの人はそれは嘘だと思うだろう。クルマのボディ、つまり大部分が白いからだ。しかし、この話の前に、テールランプの色についてのやり取りがあれば、「このクルマは赤い」は決して嘘ではなく、寧ろ正確と言える。世の中にはテールランプレンズの大半が黒く見えたり、又は白く見えたりするクルマも存在している。
しかしやはり、前提条件なしに「このクルマは赤い」と言えば、それは大きな誤解を招きかねない表現であり、所謂「木を見て森を見ず」で不正確だ。木を見て森を見ずとは、ものごとの細部にばかり注目し、本質や全体をとらえられないことを意味する慣用表現だ。無意識にそのようなことをしてしまう人もいるが、ミスリードを狙ってワザとそのような表現をする場合もある。
西村経済再生担当大臣 GDP回復「2022年1〜3月期」
テレビ朝日のこのニュースの見出しはどうだろうか。こんなひどい見出しを民放キー局が使うのか…という、とても残念な気分だ。自国政務官の不祥事そっちのけで韓国の法務大臣候補のスキャンダルばかりを強調していた昨夏から、テレビ局は報道機関であるとすら思っていないが、「西村経済再生担当大臣は新型コロナウイルスの感染防止策を取りながら徐々に経済活動のレベルを上げ、2022年の1〜3月期にはGDP(国内総生産)を感染拡大前の水準に回復させたい考えを示した」という内容の記事に、この見出しを付ける程に成り下がってしまったか、という感しかない。
この見出しは全くの間違いとは言えないものの、切り出し方があまりにも恣意的で不正確である。これではあたかも、GDPの回復は最早確定的である、かのような印象だし、見出しをサッと眺めるだけの人には、既にGDPが回復したかのように受け止める人もいるだろう。「記事をよく読まない方が悪い」と言えばそれまでだが、それが全てだとすれば、悪徳業者が契約書の隅にシレっと詐欺的な条項を織り込んでも、「よく読まずに騙された方が悪い」ということにもなりかねない。
ツイッターは、記事へのリンク付きツイートをリツイートしようとした際に、元記事内容の確認を促すメッセージ表示することを、これまで一部ユーザーに対してテスト的に行っていたが、これを全ユーザーに拡大すると発表した。
Twitter「読まずにRT」への警告表示を全ユーザーに展開へ。フェイク防止に一定の効果を確認 - Engadget 日本版
昨今のツイッターでは、記事の見出しだけを見て、その内容を正しく理解せずにリツイートする人が多くなっていることへの対処だ。視点を変えて考えれば、それだけ見出し詐欺的な記事が多いということでもある。前述のテレビ朝日の見出しなどもその類の見出しだ。
数年前から、あることないこと書く所謂フェイクニュースやトレンドブログの類が問題視されてきたが、昨今はテレビ局の記事や一部の報道系Webメディアでも、内容と一致しない、若しくはニュアンスが大きく異なる切り出し方をした見出しをしばしば見受ける。
「木を見て森を見ず」という表現をこの投稿の冒頭で取り上げたが、逆に森ではなく木を見るべき場合もある。今朝、カメルーン生まれ日本育ちの漫画家・星野 ルネさんがこんなツイートをしていた。
その国ついて調べてみる。男女の性差には国境を超えて共通する部分は多々ある(恋愛)そして最後は結局人それぞれ。フォローで応援、これも愛ですね。いいねでどこかの玄関の靴が揃います。リツイートでほどけかけた靴紐が強く結ばれます。#漫画 #恋愛 #相談 #国際 #準備 pic.twitter.com/SOOmzzoZzH
— 星野ルネ (@RENEhosino) September 27, 2020
一つの森の中にも様々な種類の植物が生えている。同じ種類であっても大きさや形はそれぞれ違う。「地球人の女性(の恋愛観)ってどんな風ですか?」という質問に置き換えて考えると、その種の質問がどれほど意義の低いものかがよくわかる。また、もっと小さい集合「2年4組の男性(の恋愛観)ってどんな風ですか?」という質問に置き換えて考えてもいいかもしれない。人それぞれ違う。基本的には女性を好む、という返答に果たして意味はあるだろうか。
勿論、日本人の傾向、欧米人によくある思考、アフリカ人によくみられる風潮のようなものはあるだろうが、それは誰にでもあてハマるものでもない。奥手で女性が苦手なイタリア人もいれば、饒舌で主張の強い積極的な日本人だっている。その地域や民族性のステレオタイプに当てはまらない人はどの国や地域にも確実に存在する。「カメルーンの男性はどんな風ですか?」はあまりにも漠然とし過ぎていて、酒席のつまみ・ディベートテーマにする程度ならよさそうだが、個別的でシリアスな話であればなかなか答えにくい質問だろう。
トップ画像は、Photo by Dillon Kydd on Unsplash を使用した。